12-14. 行ってきますと彼女は言った
私達は、どこから来て、どこへ行こうとしているのか?
まじそれな。どこから来たかはともかくですよ?どこに行こうとしてるんですかねえ?私達は、小学一年生ですよ?それが、ダモン大陸最強の武装を構築してしまいました。
「結局さあ、惑星全土統一するしか無いんでしょ?」
「やっぱ、ほうじゃろかねえ」
タオルくんは、病室のベッドの上で、包帯ぐるぐる巻き、片目も包帯で隠れているので、まるっきり綾波レイです。ウケる。サイボーグ改良手術が終わったのです。
ヨコヤマと戦争するだけなら、明らかに過剰なんですよねえ。装備も設備も。こんなの企業だったら、絶対に稟議通りませんよ。どんだけ尖った経営層であったとしても。投資に対するリターンは一体何なの?って話ですよ。独裁国家であっても、そもそも予算が捻出不可能です。
私達は、企業でも国家でもなく、小学一年生の仲良し二人組ですよ。夫婦という独身貴族の下位互換ですらありません。
私達の場合は、お金が無くても動いちゃう古代遺跡や魔法があるので、国家予算レベルの資金は不要ですけど。それでも、王立騎士団などの人が動く分のお金は必要です。それも結構な大金が。奴隷だってタダでは動きませんからね。ご飯は与えないと。
その資金の出処は、ダモン神獣のツノで作った短剣です。
ツノを削って、ハンコを作れるだけ作って販売しました。1個16億円が100個即完売。先端部分しかツノじゃないのに。ダモンの貴族や商人にとっては、16億円以上の価値があるそうですわー。お金持ってんなあ。
短剣のままにしておけば、推定価格4500兆円ですけどね。そんなの誰も買えませんし。こんなもの持ってたら命がいくつあっても足りないもの。さくっと現金化して、ミヤコ統治と対ヨコヤマ戦に全額投入しました。元は拾い物なので、惜しくもない。
王女、女王代理、宰相の全員一致で「拾った人の物なので好きにしていいよ」って言ってくれました。「なくしたものを気にしてる暇があったら剣の修業するし」だって。合理的思考が過ぎる。これ国宝じゃないのん?
このツノ短剣は、建国当時に紛失していたそうです。どうせ王女が何処かに置き忘れちゃったんでしょ。
調査はしましたけども。誰が何処から持ち出したのかは不明のまま。これを持ってタクシーに乗ったと思われる客は、全く何の特徴もなく、性別も年齢も不明だったとか。タクシードライバーのおっちゃんは、記憶を改竄されてるのかもね。
ちなみに、ダモン神獣は生存しているのかさえ不明です。超絶滅危惧種のツノー、ハンコにしていいのかー。もう、しちゃったけどね。
「統一後に飽きちゃって、この惑星を捨てる時は、宇宙海賊になる?」
「んー。異世界漫遊でもいいかなあ?」
「何するにしても、案外、ムズカシイわよね。この世界が、ずっと物騒なまま、小市民として振り回されてる方が、私達は幸せなのかもね?」
「かも知れんね。1600億円もかけて、戦争じゃけん。現実味ないわー」
ちなみに、神獣ハンコの売上1600億円が、どんな規模なのかと言うとですじゃー。
ダモンGDPの約3パーセント。年間の防衛費と同額です。ダモン王国はもっと軍事にお金かけているのかと思ったら、そうでも無いですかね?GDP比率だけで見れば、日本の3倍、アメリカと同じくらい。GDPの額については、ヨコヤマやミヤコのデータが不明なので、相対評価も出来ず、私には規模感が掴めません。人口比とかで見ればいいのかしら?
アンに聞けば、いろいろ分かるのでしょうけど、そこまで興味ない。
「ふーん?一応ミーナ脳は機能してんのね?だからと言って、もの考え方や興味の対象までは影響を受けてない感じだわ」
「人の心なんて、そうそう変わらんよ」
「それは、どうかしらね?追い詰めれば結構簡単に変わるわよ」
「あぁ、まあソレは分かるかなあ?いっそ狂った方がマシだわーって、地獄みたいな異世界で何度も思ったわ。そこには日本も含まれる」
「私は、狂わせる方の視点で言っているけどね」
「でしょうね」
「そこで自我を手放さないニャアだから、今の女神の立場に辿り着けたのかしらね?」
「単に、偶然が重なっただけじゃからして、実力ではないんよ。ただの頑固マンレディーじゃし。それに、女神の立場は先代に返してるからね?」
「誰が女神なのかを決めるのは当人じゃないわ。信じる者達よ」
「いや、女神の権能として、もっとも重要なものを私は持っちょらんけ」
まあ、どうでもいいです。ニートンが言うように、私はタオルくんと楽しく暮らす、ただそれだけ。
「ミーナは、その暮らしの中に居ないのね?」
「子はいつか家を出るもんじゃろ」
「そりゃそうね」
いつまでも家に居る子なんて痛ましいわ。子ども部屋おばさんは私達だけで十分。
「ただいもーん!かーちゃん腹減ったー」
「おかえるん」
ミーナが転移魔法で帰って来た。出現前の「ここに湧きますよ」エフェクトもバッチリだ。転移魔法を完全に使いこなしている。19歳くらいのカラダに成長しているよ。
生後7日でもう成人しちゃったって事かな? 戸籍上は0歳児だけどね。
「ボッスンはもう大丈夫ぃ。完全にして究極、とはもちろん言わないけどね。立派な大魔女だよ。カナの触媒だか固まりなんだっけ?魔力無限はやべえっす。後は実戦次第でしょ。ボロクシャになったから、剣聖と一緒に王宮の温泉に漬けといたよ。あそこのお湯の効能は魔界の悪魔の湯と同じみたいだね。機械には有効成分が測定出来ないみたいだけども」
「やっぱり、そうなんじゃ」
この世界には、まだまだ科学でも魔法でも説明の付かない事が沢山あるようです。
「ハラヘリなら私の病院食を食えよ」
「要らない。案外美味しそうだけども」
「おう。病院食なのにムカつく程うめえんだよ。麻酔の副作用で食欲無えのになあ」
「それは気になるけども。ほいじゃあ、カフェにご飯食べに行こうか」
「いってらしゃい」
タオルくんは娘に対してヤンキーモード。獅子は我が子を千尋の谷に突き放すってこと?
私は、ミーナと最後の晩餐です。成人した彼女は、もう巣立ちの日が来たのだ。彼女は、まだ何も言ってないけれど、きっとそうなのだ。出会いも別れも、ある日突然やってくる。
「何食べるー?」
ここは、ルフランの施設内。いろいろ食べられるし、どれもそこそこ美味しいんだよ。
「ラーメンかなー」
「好きじゃったっけ?」
「ううん」
「これから行くとこに無さそうなのかな?」
「よく分かったね?」
「じゃって、母親じゃもん」
「そうだね」
生まれてからの7日間、完全にほったらかしだったけど。それでも、心は通じている気がするし、通じていないとしても不安にはならない。これが母娘というものかしら?母側の勝手な視点なのかも。そもそもホントに母娘なのかって話なんだけど。
私達は、黙ってラーメンを食べた。どこへ行くのか、とかそういう会話は一切無し。話す必要も感じない。ただ、わりとおいしいね、とだけ言って、頷きあった。
「じゃあ、行ってくるね。見ててねー、かーちゃん」
「うん」
「行ってきまっす」
「いってらーぬん」
アスタラビスタベイビーでもなく、ソーロングでもなく、いつも通りの挨拶で。
ミーナ・スットントン。
私とタオルくんの娘。戸籍年齢0歳。実年齢32万19歳。生後7日目に自立。新たな世界へと旅立った。
彼女が目指すのは夢の国なのか、あるいは修羅の国なのか。私達には分からない。きっと本人にも、まだ分からないでしょう。
私に観測可能なのか、それすらも分からない何処かへ旅立った娘。見ててねと言われたのだから、見守り続けましょう。




