12-11. 永遠のお別れ
「お、ぼうず。また会ったな。結婚するか?」
「私は幼女じゃ、あほか」
「おおぅ。冗談だったんだが。案外ショックだな」
ダモンだもんタクシーの、おっちゃんだ。ブタの角煮食べながらビール飲んでる。こいつ、帰りの運転はどうするつもりなんだろうか?
「俺は、しばらく帰らんぞ。この村も無傷じゃないからな。大魔女厄災ゲロリンの傷跡からの復興事業に参加するんだ」
「おっちゃん、ひとりもんなの? 家で誰も待ってないの?」
「ダモンのXY染色体は消耗品だって言ったろ?」
ふむん。この話題を掘り下げると、出口が入口になる話になりそうなので、そっとしておこうか。
「座薬の入口でもあるでしょ」
「メシ食ってる時に何言ってんだポンコツ」
「なによ大厄災ゲロリンの発生源」
「うーん、もうそんな名前が付いてますのね?ワタクシの名前で良かったのに」
「台風みたいに、次が発生する前提なのでござろうな」
「ええ?アレ一度きりですわよ」
そんなガールズトークをしている間に、おっちゃんは店を出て行った。もう帰ったのかと思ったら、手に何やら持って戻って来た。
「これ、ぼうずの忘れもんだろ?やるよ」
「うん?タクシーの中にあったの?」
「それは殿下のペンダントですね」
十字架の形をしたハンコ。王女の実印だ。とんでもないものをタクシーの中に落としてんなあの子。
「ダモンの法律では、拾得物は拾った人のモノになります。なので、それはもうニャア様のモノですね」
「はあ?王女の実印じゃろ!?コレー」
異世界を渡り歩いてると常識なんて崩壊しますけどね。さすがに、これは驚きですよ。
「それはオス型ですから、実印登録してません。メス型が実印です」
「ハンコにオスとメスがあんの?」
まさか!オス型のハンコの所有者は、王女と結婚するしきたりなんじゃあ!? ラブコメ編に突入しちゃったのん?
「いえ?レプリカも大量に売られてますし。民間ではそういうごっこ遊びもあるようですけど。それは、もっと別のやべえ鍵です」
「分かった。落ちない様に、オリハルコンのチェーンでもつけとくわ」
「どこかに引っ掛けたら、クビが落ちるわね」
「うぎゃあー!」
「そういうことなら、剣聖が預かるナリー」
「では、ワタクシの生成魔法で、剣聖の首輪になっているオリハルコンをチェーンにしますわね」
「うひっ!カッコいいいなりー」
「クビが落ちた時は、ワタクシの治癒魔法と米粒でくっつけて差し上げますね」
いい加減な事言ってるなー。間違いなく、近衛騎士の血を引いた魔女だわ。悪魔と言ってもいいかも知れない。悪魔といえば、ミーナちゃんだけども。いつまで寝てるんだろか?起きるとうるさいので、ずっと寝ててほしい。
「あと、コレもやる。コレは長距離乗ってくれた時の忘れ物だ」
「へ?短剣?宝剣ってやつかな?中身はナマクラだ。これも私らの落とし物ではないよ」
「ダモン王家の秘宝です。それを削るとハンコになります」
「ああ、これダモン神獣のツノなんだ?」
「それは特に、何かの鍵ではありませんが。市場価格は4500兆円です」
「それは実際に買える奴が居無さそうだなあ」
「ええ、ダモンのGDP1000年分ですからね」
「どうすんのー、これー。おっちゃんが貰っとけばー?」
「言ったろ?ダモンでは俺は消耗品なんだ。富を蓄えても意味ねえだろ?」
ソーロング!そう言っておっちゃんは店を出て行こうとするので。
「おっちゃん、飲酒運転なんじゃあ?」
「あ、そうか。おい大将!ちょっと車停めてていいか?」
「あ?晩飯も食いに来いよ」
「すまんね」
どぅるるるるん!
「あれ?俺のキル・ザ・キング丸が、勝手に始動してんだけど」
「カッコいいけど物騒な名前つけてんなあ!?王国の国民なのに」
「へい!マスター!今日から俺はお前の相棒なんだぜ?行き先を告げな、運転してやるぜ」
「あ、魔獣デミヲが、おっちゃんのタクシーに乗り移った」
「え?なにそれ?ぼうずが俺のキル・ザ・キング丸を魔改造しくれたのか?」
「まあ、そんなとこじゃね。ネックレスと短剣のお礼かな」
「そうか?そもそも、それが俺からのお礼なんだがなあ」
「へ?なんの?」
「こちらのダモンだもんタクシーは王室御用達なんです。女神様から、122,220円もふんだくったなんて勇者ですからね」
「あ、そういう価値観なんだね」
「おう!お陰で最近は大人気でな。女王と宰相のサイン入りだしな!」
ソーロング!っと今度こそおっちゃんはデミヲ改めキル・ザ・キング丸で、どこかに行った。この村の復興現場に向かったのだろう。この国の「さようなら」は、日替わりとかそういう文化でもあるのだろうか?今日のは英語で「永遠の別れ」だっけ?縁起でも無い。「またいつか会おうね」って意味でもあるんだっけ?
などと、わいわいやりながら、お昼ご飯を食べ終えた頃に。
「この建物は、敵に囲まれているぞー!!」
「でやんす!」
と、ルフランAIアプリと、ミクルちゃんが、ほぼ同時に叫んだ。タオルくんの、アホ毛もゆんゆん揺れている。
え!?
剣聖もタオルくんも、即座に外に出た。ボッスンは少し遅れて、2人に続く。ボッスンは、まだ実戦経験が無いんだっけ?近衛騎士予備校の8年生なのだから、相応の訓練は積んでいるか。それに、今や彼女は私やミーナちゃんを遥かに凌ぐ魔法戦力を持った大魔女だ。
あの3人が居れば、ただの貧相な幼女で、元システムエンジニアでしかない私は守ってもらえるだろう。ミクルちゃんも側に居るし。
「あら?ヨコヤマのポンコツ兵団ですかね?」
アンは悠然とお茶を飲んでいる。さすがは、ダモン近衛騎士最強にして、ダモン王国の宰相だ。
「私は、死んでも、おかわりがありますからね」
まあ、そうですけども。この死生観が、ダモンのやべえ強さの根源なんでしょうねえ?
「あ、姉さん?うん、そっちにはまだなのね?分かった。こっちは予測よりも遅かったけども、なんか来たみたいよ。ニャア様もご一緒なので、どうとでもします。ソーロング!」
アンが、ルフランから持って来たコーレスホンの子機で王宮に電話してる。どこまで接続可能なんだろうか、この子機。
ニャアが一緒とか言っているけども、私個人は、魔力袋をボッスンに移管したので、無力なんじゃけども。なんも役には立たんちん。
「配下が地上最強ですので。今でもニャア様は女神のままなんですよ」
そう言われてもなあ。まあ、あいつら全員、私を裏切れない契約をしているけども。タオルくんはともかく。
「タオルちゃんとも生涯を誓った何かがあるんでしょ?」
「あー、うーん。まあねえ」
なんか、いろいろやったね。ふたりで大気圏突入したり。20年以上ずっと一緒なのだ。2人きりで道に迷ったことなんて、数え切れない程ある。オリハルコンのペアリングもしているしね。この国ではオリハルコンはゴミ同然だけども、そういう問題じゃあない。
ああ、そうか、魔法が使えなくなったから、もう同じリングを私が作る事は出来ないんだなあ。じゃあ、すげえレアアイテムになってるねコレー?剣聖を縛った後で、元に戻しておいてよかったわー。さっきチェーンになった首輪は駄菓子のオマケのメダルで作った。そんなものまで、オリハルコン製なのだ、この国では。
どんがらしゃーん!
「おぅわああ!?」
呑気に回想してたら、ボロクシャドライブインが、完全にスクラップになった。ミルクちゃんが即座に私を包んでくれなかったら危なかった。
今の私って、どれくらい不老不死なんだろうか? 魔法は使えないけど、ドラゴンとフェニックスの加護は健在なはず。いや、どっちも近くに居ないから、まじでただの幼女なのかも? あれ? 結構今ピンチがデンジャーゾーンなのかしら?
「ほんにゃあ!?」
「なんて事かしら。ヨコヤマは異星人の巨大ロボのリバースエンジニアリングに成功していたのね」
あー、鹵獲したものの、ぼがしゃんしちゃったってやつ。そうかー、これのレプリカ製造に成功したのが、ヨコヤマ独立の一番の後ろ盾なのかあ。ドライブインをグシャっとやったのは、巨大ロボでした。
相手が巨大過ぎて、しかもうじゃうじゃいるから。3人共攻めあぐねている。ボッスンなら魔法で一撃必殺も可能なはずなんだけど、まだ魔法に馴れていないんだ。
どうやら、ロボの材料に、オリハルコンやアダマンタイト、ミスリルといった魔導素材を贅沢に使いまくってるみたい。ああ、これは相性の悪い相手かもなあ。
「うおおおおおおおおおおお!!」
「おっちゃん!」
魔獣キル・ザ・キング丸を駆るおっちゃんが、猛烈な勢いで特攻の体勢だ!
「あほかー!あんたが乗らんでもその子は自動運転なんじゃし。あんたひとり特攻しても、この数相手じゃ焼け石に水じゃああああ!」
「男は消耗品だって言ったろ?子供の未来を守って散るのが俺の仕事じゃあああ!」
トゥンク!
いろんな意味でトゥンク!このカラダが滅びる時を告げるドラの音!
「あのタクシーには反陽子爆弾が搭載してあるそうです。いつか王を殺すためだって、私と姉さん相手に自慢してました。なんでも自分が運転してないと作動しないそうで。特攻前提の大馬鹿者兵器なのです。近衛騎士なら死んでも蘇るので、そういうのもアリですけどね。アレ、ただのXY染色体なので、死んだらそれっきりですよ」
「冷静に解説してる場合カナ!?」
おっちゃんの守ろうとしてる子供が確実に巻き添えデス!DEATH!!
「あるじ!皆様!ワタクシの転移魔法で逃げますよ!」
え?ちょっと待ってよ。転移魔法に並のニンゲンは耐えられないんだから。生きたうさぎのぬいぐるみになったりしちゃうんだから。私の場合は、生きたお餅になっちゃう予感。白くてまあるいお餅。せめて、スライムに転生したいー!!
「死ぬよりはマシですわよ!」
そりゃ、そうですけども。おっちゃんに一言だけ言わせてよ。
「おおばかものーーー!!」
ああ、このセリフはハマでこそ言いたかったわ。
つづくよー。