12-9. 黒が8に白が2、またそれかい!
「初回特典ボーナスで、なんでも好きなものを、ここに召喚できるんやでー」
ほほう?それはどデカいね。
「残ってるって、後誰よ?」
「ミクルちゃん、キナコ、ポチ、そんなもんじゃない?」
「一番有能なのは、ミクルちゃん?」
「ほうじゃけど、それはミーナちゃんが向こうで下拵えしてくれたそうじゃから、素体さえあればいつでも呼べるんよ」
「サクラとか意味ある?」
「あれはカナじゃけど。ボッスンの方が純度高い。よって、アレはもうゴミ」
「ひでえ。暁の魔女とか、魔王じじしはー、大物過ぎるわよね?」
「うん。何やら天使の軍団が来るらしいから、アノンの守護神は動かせんじゃろ」
「は?何それ?」
「もう来たのかも知れん。ミーナはそれで疎開して来たんじゃって」
「え?アノンには間諜を手配していないので、まったく情勢が把握出来ませんが」
「行く手段も無ければ、通信も出来ないものね」
「大丈夫なんでござる?」
「アノンって何ですの?」
惑星の反対側にある大陸、アノン。アノンには私とタオルくん、ミーナの実家がある。今、その地にはビチビチビッチな天使の軍団が来てるとか、来てないとか。
「暁の魔女と魔王じじいは生き残るでしょ。パンツの騎士とかシリアナシスターも平気なんじゃないの?」
「他に知り合いはござらんか?」
「うちの家族も平気でしょうね。特にフェニックスとドラゴンは」
「では、放置しておきましょう。ダモンに回り込んで来たら、その時対処するナリ」
「あんた、農国の元首代理なんでしょ?国民の心配しなくていいの?」
「はあ。人類が滅ぶのは今回が初ではござらんし」
「ドライねえ。私もそうだけど」
改めて何を召喚するのか考えて見れば。私が今召喚出来ないのは物質的なものだ。理論的なもの、魂やAIならきっと何とかなる。並のニンゲンは壊れるだろうけど。
ほいじゃー、実家に残してきた物質といえばー?
「魔獣デミヲでしょ。自動車型だから移動手段になるし、戦力になるわ」
「ソレだ!」
「ほならー、召喚するで。コール、デミヲー!!この地に再構成せよ!」
… … …
「残念やったな。MPが足りないようだ」
「なんやソレ!」
しょうない一発芸が特典なの?まあ、いいけどさー。期待させておいてソレはないわー。
「いや、ほんまに。ニャア様が吸い過ぎ。どんだけ巨大な魔力袋もってはるの?」
「私の魔力袋は銀河系と同じくらいなのじゃ」
「どういうスケール感なの?魔力袋って仮想器官だし、中に詰まってるマナだかカナだかって人類には観測不可能なんでしょ?どう計測しても大きさが存在しない」
「うるさいな!あんたもチュウニなら分かりんしゃい!」
「あ、なるほど。理解したわ。あんた、やっぱニャアにミーナが混ざってるわ」
「あれ?ミーナってこんなん?」
「そんなん」
ふむん。やはり、ミーナは手元にあるのだ。もう一体化してしまったので自覚出来ないけど、タオルくんの観測でミーナが見えるのであれば間違いない。シュレディンガーのミーナだ。私を開けて確認するまでもない。開けた瞬間私が死んじゃうから、ソレはダメ。なんか違うね?
「MPはそのうち溜まるから、待ってえな。それより、ボッスンちゃんのライフがゼロやで?」
「なしたー!?」
ボッスンにも何かの魂が特攻して来たとでも?
「これはー、魔力袋が破裂寸前やなあ?」
ナースロボがやって来て、ルフランの医務室にボッスンを運んでくれました。ボッスンはベッドに寝転んでスヤァっと寝ています。
「寝てるだけじゃないの?」
「スリープモードになって、耐えてるんじゃろか?」
「せやな。緊急で措置せな、死んでまうで。魔力袋の破裂が、どこまで何を巻き込むかも分からへん。人類滅亡くらいならええほうやろなあ」
おっそろしい事を言ってますよ。私達、魔女は惑星破壊爆弾ですか。
「いや?惑星破壊まではいかへんやろ。地上からどんぐり以外の生命がほぼ消えるくらいやろか」
「どんぐりって一体何なの?」
「ボッスンちゃんは邪気眼が大きすぎるねん。せやから魔力袋が成長を阻害されてんねんな」
「どうすればいいの?」
「巨大な魔力袋の移植手術しかないな」
「つまり、私が魔法幼女であることを捨てて、普通の幼女になれば、ボッスンは助かるの?」
「せや。そして宇宙最大の魔女の誕生や。わいの観測出来る範囲での最大やけどな」
「ほいじゃ、やって」
「え? ニャアあんたそれでいいの? まるで迷わないので」
「自分の従者を守れずして、何が主君か」
「トゥンク!まじトゥンクよ。結婚して」
「もう、しちょるようなもんじゃろ」
「はい、手術オワタ」
「はやっ!?」
タオルくんと百合ごっこしてる間にオワタ。
「ほんまじゃ。どんぐり見ても、幼女心以外ときめきが無い」
「ニャアは普通の幼女になったのね」
普通の幼女は、王女を子分にしたり、古代遺跡の管理者だったりはしないけどね。普通って何?ムズカシイね。
「んー、んん、げろぉ。ちょっと火ぃ吹いてもよろしくって」
「あかんで!こないなとこで吹いたら」
「んん、ああ、そうですわね。外に転移してから吹きますわ」
そう言って、ボッスンはヒュンっと消えた。ぱさっと掛け布団が舞った。
なんかゲロ出るー、ってノリだったけど。大丈夫なのん?
どどどどどーーーんん!!
「え?何ですかコレ?アースクエイクってヤツですか?」
「こっちの世界では珍しいのかしら?巨大大陸が2つきりの惑星だから、プレートがお好み焼きみたいになっているのかしらね?」
その例えは、分かるような分からんような間違っているような。これは自然災害ではない、というのは感覚で分かる。
「ふーっ。スッキリしましたわ」
ボッスンが帰ってきた。
「あ!窓の外が、焼け野原よ」
「おお!?ボッスンが焼いてしもうたか?」
「もうスッキリしましたし。魔力の循環操作も会得したので、今後はこのような暴走は起きなくってよ。ご安心下さいな」
「ほげー。成長が早いわー。近衛騎士と巫女と陰陽師のどれの血なんじゃろか」
「ルフラン、被害状況を教えて下さい」
「周囲半径500キロメートルの家屋及び人類がロスト。魔力汚染により、10万年間は全ての有機生命体は、当該範囲に立ち入る事も、観測する事も不可。やでー」
「スゴイ!天然の大要塞になりましたよ!ここは!」
えーっと?半径500キロメートルって如何ほどかしら?ミヤコの国土の何割なの?ダモンを巻き込んでないの? 大要塞はイイけど、私達もここから出られないのでは? 確かに誰も攻め込んで来られないでしょうけどね。
「ヨコヤマの一部と、ミヤコの国土のおよそ8割に相当します。ダモンには被害はありません。やで。」
「真っ黒焦げが8に、残りが2かー」
「残り2割ねえ?統治は楽になったんじゃないの?8割は10万年先まで復興も出来無いのだし」
「残ったのが僻地なのか、人口密集地なのかでも違いますけど」
「ミヤコの生存可能部分はあ、北西の端っこのド田舎やな。人口は1000人未満ちゃうか?」
「村長が1人居れば統治は十分かしら?」
「ベーコン・レタス・トゥメイトゥでも代官として配置せようか?」
「それでいいんじゃないの?」
「では早速王宮に連絡をー、ここ固定電話あります?」
「あるやでー。勝手に地下ケーブルに接続済みやわー。ハイ、テレフォーン」
ニョキんっと、テーブルの上にコードレス電話の子機みたいなのが、生えて来ました。この施設の科学力はまるで魔法だね。アンが早速、王宮のキナコに連絡しています。
「せやで。高度に発達した科学は魔法になんねん。魔力袋にもお触り出来るし、魔法通信の傍受も出来るのは、そういう事やで」
「マナカナの観測も出来るん?」
「あー、それなあ?それだけは永遠の謎やねん。魂の存在も、マルチバース世界も、未来も観測できひん」
「ふーん。なんか世界の理が違うような気もする。炎上案件みたいに、人類滅亡の時、神が担当替えでもしたんじゃろうか?」
「神の存在も不可視やで。そんなもんは、ニンゲンの情緒が縋る幻想やと理解しとる」
「へえ。ミクルちゃんとは違う世代なんでしょうねえ」
「そのミクルちゃんゆうのんに会うてみたいなあ」
「分かった。呼んでみるから手伝ってルフラン」
「がってんしょうちのすけやでー」
何か重要な事をすっぽり忘れている気もするけど、魔獣デミヲとミクルちゃんをセットで呼んでみるよ。
つづく