2-3.. 私達はあなた達をロックしまう
歪んだ爆音が鳴り響き、重低音が地を這う。
ファイアストームが吹き荒れ、ライトニングストライクが脳天を貫き、大地は震え、空は真っ赤に輝き、虹の彼方へファイアボールが飛んでいく。私は、吹き荒れる嵐の中、炎を纏って産まれた。
ここは、草ひとつ生えぬ、無毛の荒野。今ここで、愛と平和の伝説が始まる。ロックの夜明けデス。
うそです。
日曜日の昼下がり、のどかな公園で幼児達と一緒にコントライブを開催中。
幼児を盾にしておけば、人も集まるだろうし、苦情も来ないだろうっていう孔明の罠です。
私、三国志読んだことないですけど。
「俺様のキビダンゴを食らうがいい」
「うげえ、このキビダンゴ腐ってやがる!」
「うぐう、やられたー」
「新入社員になんてことを。とんでもないブラック企業だー」
「本当のキビダンゴを食べた事がないらしいな。俺と一緒に鬼ヶ島に行くんだ。本物のキビダンゴを食わせてやる」
「しゃっきりタヌポン?」
幼稚園のお遊戯会で練習中のピーチスレイヤーという演劇です。倒すのそっちなの?
幼児が演じる劇に、私達がBGMをつけるという体裁で、ロックコンサート気分を味わおうっていう陰謀です。
メイド忍者がひたすらギターソロを弾いています。ネオクラシカルなインプロビゼーションでロリロリーっと。ファイアー・アンド・アイスな素敵ポーズで。
どういうワケか、コレが案外ウケてます。ただ単に、14歳女児が一生懸命やってんのが、じじい共には微笑ましいだけですね。実のところ、メタルマニアの私でもドン引きです。演劇と一切関係なく、30分近くずっとギターソロ弾いているので。
この村は、戦争で若者を失ってしまったので、老人と幼児しか居ません。
老人は全員元傭兵。戦争を生き抜いた修羅なので、子供に甘いのです。失われた何かを幻としてソコに見ているのでしょう。私達の里親である定食屋のじいちゃんも、私達に甘々です。
「えーい! この桃缶を喰らえぃ!」
「うぎゃー、うまいー」
「キビダンゴちゃうんかい」
「しゃっきりタヌポン?」
演劇も、佳境に入ってきました。主役のピーチ侍が13人も居て好き勝手しているので、ここまで2時間以上かかっています。お供の魔獣はタヌキ一頭しか居ません。みんな主役やりたいですもんね。私は、幼稚園のお遊戯会では、その辺の草Cの役でしたけど。
タオルくんが、ドテポキグシャー、とベースソロを始めました。ギターとも一切合ってません。自由過ぎます。まさにフリーコンサート、愛と平和のウッドストック状態です。意味が違うわー。
今朝初めて弾いたくせに、堂々とスラップ奏法してます。全然、弾けてないのに、まるで気にしていない。この女のハートも鋼鉄製です。ヘヴィメタルクイーンですね。
タオルくんと私でMCのかわりに漫才もやりました。
システムエンジニアのあるあるネタだったので、チュウニの切実な主張だと思われたてしまい、真剣な顔して聞かれてしまいました。すべるよりツライわー。やりきりましたけど。
私のハートも鋼鉄製ですからね。メイド忍者はメンタルが豆腐なので、横でずっとギター弾いてました。
メイド忍者が無駄に超絶技巧だった理由が驚愕でした。
彼女は1984年に14歳を108回も繰り返したというのです。
過去や未来の自分の中に転生するのは、私も経験があります。8回も夏休みを繰り返したりはしてませんが。
彼女は、108年間ひたすら家に引き籠もってギターの練習をしました。昭和末期の中学校はマジ地獄でしたからね、108年も通えるわけないですよ。家に引き籠もって好きなことをするのは間違っていないと思います。
「それで109回目のループはなくて、この世界に転生したってこと?」
あれ? じゃあなんで、この世界の言葉が分かるんですかね? 私は他の異世界で似た言語を覚えましたけど。
「この世界も108回ループしたでござる」
なんと、メイド忍者は108回目までは、人さらいの馬車に轢き殺されていたそうです。
私の治癒魔法で不死を得て、ループから解放されたと。そういう事のようです。時系列が前後に飛んで、よく分からない事になってますけど。
「日本では109回目に何があったん?」
「6弦が切れたけナリ」
「ふーん? まあ、過ぎた事はいいんじゃないですかー? 6弦なんて滅多に切れないし、いっそ5弦ギターにすればいいよ! これからはこの世界でエターナルすっとんとんですよ! 楽しくやりましょうよ」
「ですな。そうでござるな!にんにん!」
「くくっ…我ら永遠のエターナルフォーエバー…不滅のイモータルバインドという絆…」
くくっ、しかも永遠のチュウニ…。