12-4. 波動砲 vs バスターランチャー
「異世界転生した直後って、頭がパーになるじゃない?」
「ほうじゃね」
同意はしたものの。私達に、そんな共通認識は無い。私とタオルくんは、異世界転生の話をあまりしないから。でも、この女は、自分の常識は人類全体の常識くらいに捉えてる節があるので、ここで逆らっても仕方ない。
「だから、ある日突然、娘を持った母親になったりするわけじゃない」
ん?話が飛躍した?えーっと?私の場合に置き換えて考察してみようか。
私は死ぬと異世界転生する。これまでに、100近い異世界を生きてきた。生まれたての赤子ってパターンは一度もなく、成長過程の肉体の中に転生する。14歳とか27歳とか、年齢のバリエーションは多い。
その肉体には、それまでその世界で生きてきた記憶があるはずなのに、その記憶は一切引き継がれない。引き継ぎなしでプロジェクトを巻き取るような感じだね?
なので、周囲の観測では、頭がパーになった状態となるでしょうね。記憶喪失と診断されればマシだね。私の場合は、周囲から浮いた孤独な状態ばかりだったので、まったく気にしなかった。派遣先が変わるようなもんだなって、思ってた。日本では派遣型システムエンジニアだったからね。
なるほど、子持ちの女に転生した時は、「いきなり私に娘がおるげ!」ってなるわね。娘は、かーちゃんが突然パーになってパニックでしょうよ。私は、そんなシチュエーションは体験して無いけど。
「その話は、この状況でする話じゃろうか?」
「こんな状況だからよ。どうにもならないんだから」
「ほじゃあね」
拉致され護送車で運ばれてる時、吹雪に閉じ込められた時。そんな時に、私とタオルくんは、どうでもいい会話をする。あがいてもどうにもならんから。
つまり、今まさにそういう、あがいてもどうにもならん状態。
「うがー!アタシの波動砲を喰らえー!」
「なにおぅ。ワタクシのバスターランチャーと勝負ですわよ!」
チヨちゃんとボッスンは、こっそり持って来た酒を飲んで暴れている。チヨちゃんは3日で27歳まで成長したし、ボッスンは14歳なので、この国では成人扱いだ。まあ、今更遵法精神なんて皆無だけどね。学校だけでも、何人殺したんだかって話よ。それでも、お酒は飲んでものまれてはいかんと思うんよ。
「4人も居て、全員マッピング能力ゼロだったとはね」
「ほじゃあね」
私とタオルくんが2人でどこかに出かけると必ず迷子になる。それは、チヨちゃんとボッスンが加わっても何も変わらなかった。
私達なりに準備万端でダンジョンに乗り込んだつもりだった。王宮の備蓄倉庫で、寝袋などのサバイバルキットを借りて、干し芋やジャーキーなどの保存食も持って来た。
でも、マッピングが出来る要員がひとりも居ないのを完全に見落としてた。だって、ダンジョンだよ?地上でも迷うポンコツが、迷わないはずがないのに、マヌケが過ぎる。
ボッスンは戦闘要員ではないから、勝手に期待してた。でも、マッピング能力だけは欠如しており、酒癖も悪かった。
そんなわけで、私達4人は今、地下ダンジョンの一室で、自分達の場所が分からずに、やさぐれています。
「うーん?今何時かしらね?地下ダンジョンだと時間の感覚が消え失せるわね」
「19時半じゃね。そろそろ寝る時間じゃね」
「そのスマホ便利ね。惑星の何処に居ても現地時間に同期してるでしょ」
「ここ地下なのにね?どことどうやって通信してるんじゃろ」
私とタオルくんは中身の魂はともかく、肉体は6歳幼女なので遅くても21時には寝るのだ。ああ、お風呂にも入りたい。
そういえば私が持っているスマホは、人工衛星と時刻同期してるのかと思ってたけども?人工衛星との通信が結界に遮断されている今でも、表示している時刻は正確だ。原子時計を内蔵している?緯度経度を地磁気か何かで計測して現地時間を表示しているの?バッテリーも無限だし、どうなってんのこのスマホ?
よく分からないものを使っておるなあ、我ながら。このスマホには、人工衛星の制御アプリがプリインストールされています。静止衛星軌道上に1024機も浮かんでおり、一瞬で地上を焼き尽くす兵器を搭載した人工衛星を制御出来るのです。私がその気になれば、人類は一瞬で滅亡します。この世界では、そういう能力を所有する存在を女神と認定します。女神のお仕事は、ニンゲン皆殺し、なので。つまり、私は女神。
「あ!そういえば、ニートンが消失したけえ、管理者不在で、人工衛星制御アプリのロック解除が出来んこなっちょる」
「あら?管理者は4人登録していたのよね?管理者の変更にも、まさか4人全員の同意が必要なの?」
「うーん?ちょっとやってみようか。ここをこーして、ほいでー、こうじゃったっけ?」
「そこを、長押しなんじゃないの?」
「ほうじゃ!」
ニートンを削除しますか?
「嫌な聞き方してくるわね」
「イエス!」
「あんた、ちょっとは躊躇しなさいよ」
チームのダメっ子を切り捨てる時の、チームリーダの心構えがオートで発動してしまいました。相手を想うならばこそ、ダメな時は切り捨てなければ、なりません。腐ったミカンは、ほんとうに箱全体を腐らせるのデス!私の様な凡人には、規格外品の世話を焼くのはスペック不足なのです。
ミーナを削除しますか?
「イエス!」
「まあ、この場に居ないんだから、当然ね」
なのです。末っ子のミーナちゃんも、惑星の反対側なので、生き別れ状態です。管理者から抹消しました。まあ、どうせ人工衛星は使える状態ではないけどね。万が一のチャンスが訪れるかも知れません。
「どうする?そこの飲んだくれ2人を管理者に追加するの?」
「それはないじゃろ。飲んだくれさんはダメです」
「そうよね。剣聖もボッスンも、外泊許可証だぞって騙されて、傭兵契約書にサインしちゃうタイプねきっと。人類滅亡するわ」
そろそろ、飲んだくれ2人が何かやらかすんじゃないですかね?私の女神センサーがぴっこーんってした気がします。
「私の宇宙海賊センサーも、ぴっこーんってしたわよ」
タオルくんの、アホ毛がゆんゆんと揺れています。勘というものは、実は科学的に説明がつきます。それまでの経験から、こういうことすると、あんなことやこんな事が起こりがちよね、っていう予測です。つまり経験値の蓄積が高い程、勘が鋭くなるのです。私もタオルくんも伊達に10万年以上生きてません。この勘はきっと当たります。
剣聖は死んでもスグに復活出来る。私とタオルくんは、脳が一撃で破壊されない限りは死なない。ボッスンはどうなんだろうか?えーっと、誰と誰を防御魔法のQTフィールドで囲むべきか?とりあえず私とタオルくんだね。
ひゅん!
「あ!剣聖がこつ然と消えてしもうた!」
「あんたの魔法じゃないの?今の、消える魔球みたいじゃない」
「違うんよ。ほいじゃあ誰が?」
ほょん!
「ボッスンも消えたー」
「魔法を使ったのは、怪人ワタクシ女の方かしらね?」
「じゃろうね。剣聖が2万6千歳にして、突如魔法能力に覚醒したよりは、蓋然性が高い」
「そうかしら?剣聖って時を止める魔法とか使ってない?」
「確かに?衝撃波も起こさずに瞬間移動とか多重攻撃するもんね?」
「でしょ?目にも見えない速度で物体が大気中を移動したら衝撃波や電磁波の発生は不可避よ」
「ほいじゃあ、タオルくんの加速装置も?」
「そうなんじゃない?知らんけど」
起こり得る可能性としては、さっきあの子達が言っていた波動砲かバスターランチャーの魔法的な再現だったから。2人が消えた程度なら、ノーダメージだね!寝ようか。