11-21. 9人の戦士が荒野を駆ける
「一番ー、ピッチャー、ベーコン」
「きゃー!ベーコンせんぱーい!」
9人の戦士で殺し合うといえば、野球ですよ。ベースボールですよ。
「さあ、試合開始ですよー。最上級生チームのバッターはベーコン。1年生チームの先発は、タオルちゃんです」
「タオルちゃーん!」
「さあ、ピッチャー第一球、」
ちゅいーん!ずどーん!
「今投げました?」
球速はマッハいくつかしら。キャッチャーの私が先に死んじゃうん。
衝撃波でバッターのベーコン先生が死ぬかと思ったら、耐えてますね。さすがは最上級生、ダモン王国近衛騎士です。
「おーっ!三者凡退!全員ストレートで三振です!ピッチャーのタオルちゃんは、たったの9球しか投げていません。これは完全試合が期待できませんか?解説の剣聖様」
「でもー、次の回でもう打者一巡でしょ?近衛騎士なら、もう今の打席で見切ったんじゃないかしらー?アタシなら初球を打ってますけどー」
「はい、では攻守入れ替わって、1年生チームの先頭バッターは、タオルちゃんです。ピッチャーのベーコン振りかぶってー」
かっきーん!
「今投げました?」
時空が歪んでいるのかしら?球がピッチャーの手から離れる前に、快音とは裏腹にぼてぼてっとセカンドに向かって転がって行きました。タオルくんのスイングが起こした衝撃波だけで、打っちゃったのです。撃つと表現すべきでしょうか?
「え!?タオル選手、既にホームベースまで駆け抜けています!先制点は1年生チームです!」
「ふっ、加速装置よ」
サイボーグ機能を隠そうともしません。加速装置で適度に各塁に残像を残しつつ、ランニングホームランを決めたタオルくん。
この試合に勝てば、私達は卒業証書を貰えるのです!回りくどい事が嫌いなタオルくんが、「最上級生に勝ったら実力を評価して卒業させろ」と校長に直談判して、「野球で勝ったらいいよ」と、スマイル0円の交渉力で、この試合をセッティングしたのです。スマイルには1円の価値も無いって意味でしたかねー?
逃げ切る気満々なので、全ての戦力を惜しむ事なく投入します。加速装置だって全開なのです。名称のフェイクもなしです!
「いいこと、ニャア。ホームランを打つのよ。あんたが塁に残っていると、私は次の打席であんたを追い越しちゃうからね。それって反則らしいのよ」
「のじゃー!」
そろそろお気付きでしょうか?この野球は、2人対3人の勝負なのです。代打も代走もありません。打席に立ったら、ホームランか、敵ピッチャーの殺害以外に手がありません。塁に出てても、ランナー1・3塁にでもなれば、そこで試合終了デス!
私にはスイングだけで衝撃波なんて真似は不可能ですけどね。防御魔法のQTフィールドを振り回せば、確実に当たりますし、当ててしまえば球を飛行魔法で加速させるだけ!
ごいーん!
「何ですか?バットを握る手もオカシイし、くねっとしただけにしか見えませんけど。打球は遥か彼方に消えましたよ?」
「あれは、主君ニャア殿の、必殺技です。原理をバラすと私の命が魂ごと刈られるので、何も解説出来ません!」
「これで、1年生チームの2点目なんですがー。ニャア様はまだ1塁にも達していません。ホームに帰って来るまでモグモグタイムですかね?」
ぐう。私には加速装置なんてありませんからね。ぽってぽって歩いて回ります。飛行魔法だとベースを踏めませんし。ちょっと次の打席では何か考えよう。私には応用力が足りないと、大昔に妹のミーナちゃんに指摘されました。
「さっきみたいに投げる前の球を打ったら反則でアウトだから。いいね?」
「ういっす」
どうやらさっきのタオルくんの打席はルールブックに記載が無い行為だったようですね。そりゃそうだ。地球の野球ルールと異なる点を発見されたらご指摘の程よろしくお願い致します。コメント欄に書いてね。
ぶっひょおお!!
おおよそ打球音らしからぬ音を響かせて、ボテボテのゴロです。今回も衝撃波で無理やり打ちました。今度はファーストを守るトゥメイトゥ先輩に体を張って走塁を止められてしまいましたが、ヒットです。なお、最上級生チームはキャッチャー無しという、打たせてとる作戦ですね。ファーストとサードに守備が居ます。
さて、走者1塁ですかー。最低でもタオルくんはホームに返さなければなりませんがー。彼女は直線的にしか走れないので、確実にサードでまた止め、いやレタス先輩がセカンドに移動してしまいました。いずれにせよ、ホームラン一択ですかね?
「あのー、先程は他の衝撃が多過ぎて見逃してしまいましけど。ニャア様は、なんでスクール水着というマニアックなユニフォームなんでしょうか?」
「主君は、ジャージを焼失してしまったのです。ブルマ履くくらいなら、いっそと。言ってました」
「なるほど。この学校では制服も体操服も支給されるのは年一着きりで、ブルマも失ってしまうとパンイチに耐えられない限り退学ですからね。そこでスクール水着着用とは、盲点を突いて来ましたね」
「そういう事です。ブルマは恥ずかしいので、みんな体育の授業も制服であるジャージ着てますからね」
「ですね。平然とブルマを履くのは6年のリンちゃんくらいですからね。彼女は下級生から貢がれたブルマも履き古す猛者です。この試合に参加していたら、どんな活躍を見せたのか気になりますね」
ブルマが恥ずかしいって分かってるんなら廃止してよ。何ソレ?ジャージ無くした奴への拷問?ジャージを隠したり燃やしたりするイジメがきっとあるんでしょうね。この学校は弱肉強食、やられる方の負け、って掟なので。そりゃ生徒が卒業まで生き残れないわけですよ。
「また打ったー!打球は遥か彼方、ヨコヤマまで飛んで行ってませんか?バットに当たってない、というか今回はついにバットを振る真似さえしてませんけど?」
「宇宙の真理に触れてはいけません!」
「は、はい!」
実況しているの誰なんでしょうか?赤ジャージだから、8年生ですかね?誰でもいいですけどね。ニャア様ってなんなの。様って。
飛行魔法でベースの高さに浮かんで、ダイヤモンドを一周します。ちゃんとベースにも触れてますし、これは反則じゃないって主審に確認済みです。
「これでもう4点ですよ。後11点追加すれば、1年生チームのコールド勝ちですね」
「ふっ、我が主君の勝利を見届けるのみ」
解説の剣聖ちゃんは、主君である私の元を離れるわけにはいかぬと、私のオフトンの中に勝手に転生してました。部屋を間違ってましたけど。発見した時には、もう成人に育ってましたよ。無人の空き部屋で膝抱えて泣いてました。
「ニャアは魔力大丈夫?私は、そろそろエネルギーがあやしい。おはぎを食べて補充したいから、次の打席はわざとゆっくり回って」
「のじゃあ。私はそろそろ魔力が危ない。どんぐりを全部使う前に、決着を付けたいのじゃけど」
「じゃあ、殲滅戦に移行しようか。次の守りはきっと無理だし」
「ほうじゃね」
もし打たれたら、ピッチャーゴロか、キャッチャーゴロしか捕れません。てか、どうあがいても私達の野球センスでは捕球不可能。飛んでった打球を引き戻すのは、反則って釘を刺されました。この国には魔法も超絶科学力も存在しないので、私達のやっている事は剣聖くらいしか理解してませんけど。
つまり、1回の裏で終わらせるしか無い。2回移行は泥仕合確定です。そろそろピッチャーにも対策される事でしょう。何しているかは理解出来なくても、近衛騎士の動体視力は異常に優れているので。
「バット投げていんだっけ?」
「ダメ」
「あらそう」
ちゃんと確認しただけエライですね?でもー。
ゴスッ!
「はいはい、アウトアウトわろすわろす」
アウトひとつと引き換えにキャッチャーの頭骨を砕きました。投げていい?はフェイントでした!さすが宇宙海賊デス!振り逃げやばくね?ってキャッチャーを配置した上級生の戦略が仇になりました。
ワンアウト1殺でも勝てます。最初からこうすれば良かった?
続いて、私の打順ー。
「え?これは??伝説の消える魔球?」
「いや。三塁側スタンドに転がっているよ」
「なんと!前代未聞のホームランです!」
今の手も、次からは反則扱いかも。私は、ぽってぽて、はあ、っとゆっくりとダイアモンドを回って行きます。観客に手を振るパフォーマンスもなしに、だらしなく。もう疲れました。
「きゃー!ニャアさまー!」
「貧相なのに、かわいいー!」
もうそれ馴れたよ。はいはい、ひんそひんそ。
ちゅいーん!
「ちっ!外したか!」
今度こそタオルくんに投擲されたバットは、弾丸並のスピードにも関わらずピッチャーに避けられちゃいました。しかし、ソレがまた仇になったのです。キレイに受けておけば反則だったのに。キャッチャーが居ないので、振り逃げしてファーストに突撃するタオルくん。
じゅぼわっ!
今度は目からビームです。それでも、ギリ避けた先輩はさすが近衛騎士です。こいつ誰だっけ?ジャージを平然と着回しているので、もう誰だか分かりません。
ゴスッ!
ビームを避けたのが仇になり、体勢を崩したファーストに居た先輩、というか1年ドラゴン組の担任は、加速装置で突撃して来たタオルくんに轢き殺されました。いや?死んではいない?でも、行動不可能ですね。
残る敵はピッチャーひとりだけ。もう勝ちましたわー。
打席に立つ私に向けて、ピッチャーが球を投げた瞬間に、タオルくんは加速装置全開!一瞬で1塁からのホームスチールを完遂!トドメに打球はピッチャーのおしりのあなに転移させてやりました。えー?これ反則ですかー?セーフでした!反則だったとしても、ツーアウトで敵を殲滅したので、勝利ですけどね!
次回は、緊急卒業式ですかね!