11-7. 女神様が見てる
ピンチがチャンスなら、チャンスはピンチなのです。
剣聖チヨちゃんがやって来た。という事は結界にはどこか穴があるという事なのでは?
結界を突破するチャンスなのでは!?
じゃがしかしー。
「どうも申し訳ございませんでした」
全裸の剣聖が、私の目の前で土下座しています。
お風呂ではありません。本館の中庭の伝説の桜の樹の下です。すっとんとんな剣聖のつるんとした肌に桜の花びらが舞い降りて、とてもキレイですね?
ほぼ全校生徒が見つめる中、全裸で土下座する女。こいつ伝説の剣聖なんだぜ?しかも、教師総代とかいうエラそうな立場の教師。それが、貧相でぱっとしない新一年生Cの前で全裸土下座。
ちょうどランチタイムなので、本館の食堂の窓から沢山の生徒が見ています。本館2階のカフェで優雅にお茶会をしているお姉様達も。桜が満開の中庭にも、お花見をしていた生徒達が居ました。
「分かったら、もう2度と逆らうなよ」
タオルくんが剣聖の頭を容赦なく踏みつけます。玉砂利が額にめり込みます。丸い砂利でまだ良かったね。
「はい」
「はいじゃねえだろ。ぶひぃだろ。剣聖のクセにニンゲンの言葉しゃべんな」
「ぶひぃ」
それは豚さんに失礼よ?
一体、何がどうしてこうなったのかー?
「ひゃーはっはっは!魔界と農国では屈したが、ダモン王国じゃ別だー!ここではアタシは伝説の剣聖だー!死ねえええ!!」
剣聖は寮のお風呂で襲いかかってきたのです。
確かに魔界ではコイツのパンツを抜き取ってやりました。魔族の皆さんが見守る中で。
農国での私は、かつての占領国の王女なので、終身名誉王女という謎ポジション。占領国である帝国も滅びしましたし、帝国の王女だってとうの昔にクビになってるんですけどね。農国での私は剣聖よりも上の地位だったのです。
なんで剣聖のくせに全裸の素手ゴロで挑んでくるのか?
私を襲うなら、なんで入学式前にやらなかったのか?入学式の茶番は一体何だったのか?何考えてるのかサッパリ分かりません。
魔法で時の流れを止め、オリハルコンのリングを代償に作った極細ワイヤーで剣聖をぐるぐる巻にしてやりました。
時の流れを再開した瞬間に、剣聖はアハトライトスラッシュを喰らったかの様に、バラバラになりました。オリハルコンの極細ワイヤーですから、人体なぞ触れただけで切断します。中庭の桜の樹の下に運んでおいたので、桜吹雪と血しぶきが、幻想的な光景を作り出してました。わぁー、キレイ。
ダモン王国では「桜の花は敵の血を吸って咲く」と言いますが、伝説の剣聖の血を吸わせてしまいましたね。枯れちゃったらどうしよう。この桜も国宝指定の伝説の樹らしいです。卒業式の日に、この樹の下で告白でもするのかしら?女学校だけど。
「この樹の下で決闘をして負けた者は、勝者に生涯の絶対服従をする決まりなのよ」
リンリン先輩が説明してくれました。なるほど。そういう伝説でしたか。さすが近衛騎士の学校です。
バラバラになった剣聖は、脳死する前に私が超絶技巧治癒魔法で治したのですが。「剣聖なら、あの状態から復活しても不思議じゃない」と、みんな納得したようです。そんな伝説級のモンスターを、伝説の樹の下で倒してしまった私。
「ヤンキーマンガなら、クビを狙うやつが次々にやってくるパターンね。私もヤンキーマンガ読んだことないから知らんけど」
タオルくんの言う通り、ヤンキー列伝編に突入するのかと思ったですのじゃがー。
「ニャアお姉様。ご一緒してもいいですか?」
最下級生をお姉様呼ばわりとは如何に?
しかも、この人最上級生ですよ。この学校で1年間しか着られない伝説の制服、セーラー服を着ています。ダモン近衛騎士予備校の最上級は教師でもあるので、入学式では教員席に座っているのを見ました。今年も3人しか居ない伝説の最上級生のうちのひとりです。
ちなみに。予備校と言ってますけど、浪人生が通う学校ではありませんよ。陸軍中野予備校みたいなもので、初等教育から近衛騎士になるための軍事教練まで一貫して行う王立の学校です。
最上級生以外の制服はジャージ。体操服と区別する意味が分かりませんね。教師や職員はメイド服。王女も1年生ですけどメイド服です。ダモン王室自治区ではメイド服が最上級の正装なんだとか。
セーラー服は、女騎士が生涯を通じて、たったの1年しか着られない、そんな神器級の聖衣なのです。その聖衣を着た最上級が、タオルくんのバイト終わりを待ちながら、カフェの特等席をひとりで独占している私の元に来ました。
「いいよ」
「あざます!」
「あ、ちょっとトメィトゥ!抜け駆けせんでよ」
「あら、こういうものは出遅れたら負けなんよ。あんたも騎士ならはようしんさいね、レタス」
「ベーコンも負けちゃおれんよ。私もええですかお姉様」
「あ、うん。好きにしたらええよ」
この席は円卓型の4人掛けです、4人で使うのが本来の姿ですからね。同席しているのが伝説の最上級なら、タオルくんも「イモひいちまったな」とは言わないでしょ。ところで、イモひくって何?村の芋畑で働くパンツの騎士達に私が勝手につけた名前と一致しているのは、ただの偶然なのか、はたまた必然なのか?
「私達の名前は神話からとったのです。両親が狂気のリーザ教狂信者なので。もちろん、王国の国民は全員リーザ様の狂信者ですけどね」
敬虔な信者、ではなく、狂気の狂信者ですか。私の知っている神話よりも、ちょっとイカれてますね。なるほど、あの神話からとったのであれば、ただの偶然ですね。私も、あの神話からとったのです。
なお、ここは神聖ダモン王国ですが。王室自治区において「王国」とか「国民」と言った場合は、自治区のみを指すそうです。上級生の誰かに教わりました。食堂ではタオルくんと同席したがる上級生が後を絶たないのです。カフェにいる私と同席したがったのは、この三銃士しか居ませんけど。騎士の武装は刀なのに、何故か三銃士なのは神話由来です。
三銃士は神話と違って庶民でした。この世界はハードボイルドでヘビーデューティなリアルな世界ですからね。荒唐無稽な神話の世界とは違います。剣聖が全裸で土下座するような、リアルで過酷な世界です。
「うちらが卒業する時は、伝説の樹の下でセーラー服を受け取ってね」
伝説の樹には、卒業式の伝説もありました。卒業式の日に、樹の下で卒業生のセーラー服を譲り受けると、次からの輪廻転生で姉妹として転生出来るそうです。この三銃士は、前世でそれをやって三姉妹になったそう。今生では3つ子です。誰が何を言ってるのか、まったく区別つかないところが神話そのままです。
「いや、いいけど。私達は輪廻転生しないぞ?」
バイトを終えたタオルくんも同席してます。セーラー服は3つあるし、どうやって私ひとりに譲り渡すの?と三銃士が揉めていたら「私が1着貰ってやる。残り1着はいつかもうひとり来る気がするから、そいつらにやれ」とおさめました。確かに、ニートンが剣聖と同じように迷い込んで来そうですけど。とゆーか、剣聖がいつか転生したらニートンになるのでは?
そういえば。樹の下でセーラー服を譲った後で、卒業式にはパンイチで参加するんですかね?それとも、卒業式後にパンイチで帰るんでしょうか?見ものですね。
「卒業式が終わったら、メイド服に着替えるから。その後で渡すんよ」
なんでパンイチになると思ったんですか、私。パンイチ教の教祖になった事で、脳が汚染されてますね。是非もなし。
どうやら、ヤンキー列伝編ではなく、女神様が見てる編になりそうです。
そういえば。ヤンキーマンガは読んだことない私ですが。番長マンガなら、男坂が大好きですよ。伝説の未完じゃねぇか!結界を突破出来ないフラグです。ぶひぃ。