10-10. 働く野菜
「僕悪いジャガイモじゃないよ」
「やかましいわ」
ぶちっと。ジャガイモは目を、いや芽を潰すと楽にシメる事が出来ます。悲しいけど、これ食べ物なのよね。
私達は、魔界のお芋さん掘りをしています。悪魔の湯に浸かるだけだと飽きちゃいますからね。楽しいし、お小遣い稼ぎにもなるし、大変結構。本当の幼児だった頃に日本でやった芋掘りとはかなり風情が違いますけどね。
ぎょあああああああ、ぶええええええええ!!
サツマイモは引っこ抜くと悲鳴を上げます。マンドラゴラ的な効果は無いので、ただただうるさいだけです。魔界のサツマイモは飛んだり暴れたりしないので収穫が楽です。悲鳴を上げると力尽きて眠ります。冬の間ずっと眠らせて置くと糖度が上がるとか。
村のお芋さんは私が召喚したので、飛んだり暴れたりするのは不思議じゃない。いや、不思議だよ。まさか、魔界のお芋さんも生命の神秘に満ち溢れていようとは。春菊が10万の大群となって攻め込んで来た事もあったし。もしかしてー?この世界の野菜はみんなこうなの?
「ニャア殿に、芋掘りを手伝っていただいて助かりますわー」
「魔界の野菜も活きがええんじゃのう」
「いやあ、うちのは大人しい方じゃないですかね?」
「まるで、他のも叫んだりするかのような」
「聖国のカカオ豆とか、クラスター爆弾みたいな特攻かまして来るそうですし」
バッチーン!と爆ぜて中の種を周囲にバラ撒くの?無差別性と残虐性の高さから、地球では国際条約で禁止されているヤツじゃん。道理でねー、聖国の生チョコは生きてるわけよ。チョコにされても死なぬカカオ豆、おそるべし。
なんで聖国で農業従事者がクーデターに成功したのか分かったわー。
村でも農業やっているのは女騎士だけども。村に限らず、この世界の農業従事者は戦闘民族だったかー。
聖国でも「主食を値上げするなー!私達を殺す気かー!」と、米農家を襲う狂った集団が居た。それはいずれ、狂った市民集団と米農家の内戦へと発展。内戦には、カカオ豆や他の農産物の生産者も参戦し、農家連合が圧勝。
農家連合の怒りは国家へと向かい、ついにはクーデターへと発展。クーデターは成功し、聖国は農国となったのです。
聖国出身の剣聖はまったく気にせず温泉に浸かっては、風呂上がりにビールを飲んだくれるという生活をしてましたけど。
「えー?だってアタシは、ニャア殿の家臣なのでー。聖国とかもう知らんしー」
うちとしても他国への軍事介入はしたくないですからね。もうレッド・ノーティスになるのは嫌です。剣聖が祖国よりも温泉とビールをとってくれて良かったですよ。
もし剣聖が参戦してたらどうなったのか?いや、それ以前にクーデター発生時に剣聖が聖国に居たらどうなってたの?農家に粛清されちゃった?それともクーデターが失敗しちゃってた?
もしかしたら、私は介入相当の事をしてしまったのかも?ま、知らんがな。過ぎた事は全て肯定しておくしかありません。
さてとー。剣聖のマヌケは悪魔の湯でも治らないようなので、そろそろ村に帰りますかねー。もしくは、惑星の反対側に潜入調査にでも行きますかー?先手必勝ですよ!大和魂ですよ!大和魂ってそんな?専守防衛じゃなくて、ニイタカヤマ登っちゃう感じ?
いえ、あくまでも調査です。戦いには行きませんよ。
いずれにせよ、2ヶ月間も湯治で逗留した魔界を去ります。
ここは結界に囲まれた完全な鎖国で、成功している例ですね。2ヶ月間のんびり暮らせた良い町です。魔族独特の価値観で成立しているので、村の参考にはならなそうです。
ほいでー。
何処に向かうかと言うとー。私と剣聖で元聖国の農国へ向かっています。
一番の目的は、もし農国が聖国同様に国連に加担して、私を狙う気があるのかどうかを探ること。
なんでも、剣聖は国家元首の代理人の立場なんだそうで。連れて行くと裏目に出るかもですが、強い事は確かなので。タオルくんだとやり過ぎるしね?
友好関係を築けるようであれば、米を仕入れる任務もあります。米農家焼き討ちテロのあった隣の集落へ米を援助した結果、村が米不足になりそうなんじゃとー。なお、テロを起こした連中は、有機肥料にされたそうです。隣の集落の米農家も強し。
「剣聖様ー!きゃー!」
「先代の女神様、ちんちくりんでかわいー!貧相だけど」
「貧相な女神様ー!」
私、そんなに貧相かしら?貧相ですね。
剣聖は24歳くらいですかね?こいつもひよこババアかも知れんけど。そう言えば、悪魔の湯に2ヶ月も浸かってたから、不老不死になっちゃったかな?しゅるっとしたすっとんとんです。なんとなく雅な感じがあります。こいつと並んでりゃ、余計に貧相に見えちゃうかー。
驚いた事に国賊扱いかと思いきや。剣聖は国民的アイドルでした。そうかー、農業従事者は戦闘民族じゃもんなー、一番強い剣聖はそのトップというわけです。女神のお姉さんは、かつてこの国の魔女だったので、そのあとを継いだ私もアイドルというわけです。そういえば、かつての占領国の王女でもあったわ。
王宮に向かって、街道をパレードです。呪いの生チョコをお土産に持たされた時と大違いですよ。
「へ?国連がニャア様を狙っている?誰がそんな事を?」
「剣聖じゃけども?」
「あ、ああー!すいみません。剣聖は頭はパーなのでー」
「あれ?パーって誰?アタシ?」
王宮に着いたら、農国の元首と会談です。お米の仕入れも快諾してくれました。ブランド米である事に加えて、農家優先政策なので、なかなかのお値段です。うちの村と変わりません。つまり適正価格って事です。
聖国も隣の集落も、米農家に減反を強制しておいて、補助金も出さず、安い値段で農家から米を買い叩いていたそうです。
それでお米は安いものだと思い込んでいた庶民が、不作でちょろっと米が値上がりしただけでパニックを起こしたと。ちょっとでも考えれば、お米が安過ぎた事くらい分かると思うんですけどね?愚民共がと吐き捨てるタオルくんの気持ちもちょっと分かる。結果、紛争が起き、クーデターにまで発展したわけです。貧すればドーンするです。
「国連はニャア殿を勧誘したいと聞いてます。農国は国連には加盟していないし、国連も解体されたそうなので、詳細は分かりませんけど」
何をどうしたら、暗殺と勧誘を間違えるの?この世界の言語でも発音は似てないし、勘違いする余地は1ビットも無いんですけど。え?こんなのを剣聖にして、国家元首の代理権まで与えてたの?そりゃ倒されますわー、聖国。
勧誘という事であれば腑に落ちます。以前は、国連と世界征服協議会がアノンとウドンの橋渡しとして機能していましたけど、もう無いですからね。単独で世界征服可能な連中はアノン側にしか居ないし、ウドン側としてはパワーバランスの不均衡が懸念なのでしょう。アノンの魔女を排除するよりは味方に付ける方が、アノンとウドンのパワーバランスを調整するための策として、かかるコストも少ないし、実現する確度も高いです。私の気分次第ですけどね?
「ふーん、ほいじゃあ、ちょっとウドンに行ってみようかいねー」
ウドンじゃなくてアドンでしたっけ?自分で勝手に名前付けておいてもう忘れてしまった。まあ、向こうに行ってみれば正式名称が分かるでしょうよ。ネームドの国なので。
今回は、呪われていない生チョコをお土産に貰いましたよ。うまー。帰る前に剣聖と全部食べちゃったので、みんなにめちゃくちゃ怒られました。ぶひぃ。