9-2. 今日は皆さんにコロッケを作ってもらいます
「私の本業は、暴力ではないのですのジャガー」
「当代の魔王のクセに何言うてんねん」
「魔王って世界征服を妄想するだけの小物じゃん」
「先代はな?先々代は暁の魔女とやりおうて人類の半分を滅ぼしたらしいで?知らんけど」
「そいつはデマだ。ほんの1億人程度だ」
ほんの?1億人って東京ドーム何個分よ?この惑星では、ヒトの命が綿菓子よりも軽い。
ふと思いつきましたが。ここって異世界じゃなくて、他の天体っていう可能性はないですかねー?だとすると、私達こそが宇宙人。ワレワレハウチュウジンダー。
「だとすると、ここは銀河のどの辺ナリ?天の川は見えるでござるよ」
「銀河の端っこの方ではあるんでしょうけど」
「こっちの世界では、幼女が牛乳の入ったコップを倒して出来たんだよ。だからミルキーウェイ」
「天の川が?だったら、くっせー雑巾とでも名前がついてそうなものだけど」
「おい、お前らが漫才やってる間に、囲まれてるぞ」
宇宙人共、正確に言うなら異なる天体からのインバウンド?違うな?インバウンドって何やねん。宇宙人でいいや。宇宙人共は、アルプスの山小屋に勝手に棲み着いていることが判明しました。対地攻撃人工衛星で探って見つけました。山小屋の持ち主であるじいちゃんが、直接始末したい、っていうので一緒に来たわけですのジャガー。
山小屋を観察している間に、宇宙人に囲まれてました。赤色以外にも、青とか、黄も居ますね。ピクミンみたいなカラーバリエーションだね。ピクピク星人とでも呼びましょうか。
「ミンミン星人のがいいかな?」
「どっちでもいいけど、それだと餃子が美味しい町中華みたいだね」
「そんなことよりも。あんたのブログの日本編が短か過ぎじゃない?確定申告の私の苦労とか全然書いてないじゃないの」
「あー、いや、過度な節税行為の証拠を残すわけには」
「失礼ね。確定申告としては合法よ。戸籍の無い幼女に報酬を支払った事にしただけじゃない」
「報酬を貰っていたのは事実ナリ」
「おーい、私語はやめろー。死後の世界に送るぞー」
捕まった私達は、机と椅子がごちゃっと並んだ学校の教室のような部屋に詰め込まれました。敵の本拠地である宇宙船の中です。もちろん意図的に捕まりました。そこに、体育教師みたいなピクピク星人がやって来てホームルームを始めようとしたのでー。
「お前を送るぞ、ボケ」
「もう送ってますね」
タオルくんが粉々にしました。なんて気が短いんだこの女は。
「今日は皆さんに、コロッケを作ってもらいます、とか言いそうな雰囲気だったナリ」
「コロンブスをしてもらいます、だったかも。しゃかりきに」
「だったら、尚更こんなのは始末しないと」
宇宙人は地球の文化を学んでいるのかも?バトルをロワイヤルするあの映画を見て、私達に殺し合いごっこをさせるつもりだったのかも。いい迷惑ですね。やらせようとしてるバカを、真っ先に殺すに決まってるのに。
「あ、おまえらー、うちの殿をー!やっちまえー!全員出てこい!」
「全員出てくるなら好都合」
殲滅戦開始です。あ、でも一匹くらいは確保して自白させましょうかね。えいっ。一匹だけ圧縮魔法で捕まえておきます。
もっとも活躍しているのは先々代魔王のじいちゃんです。片手斧で薪を割るかのように、ピクピク星人をバラしていきます。あ、ニートンの質量のある残像までポニーテールを落とされちゃいました。
「あー!拙者の武士の魂が短くなったナリー!」
ありゃ、本人でしたか。なんだか弱体化してしまいまいた。そんな設定があったのかー。相変わらずポンコツです。刀も子供のおもちゃサイズのままだし。ポンコツが一体くらい減っても何の問題もなく、私達の圧倒的な戦力によって、数分でピクピク星人達はピクピクともしなくなりました。
「さってと。捕虜に吐かせようか」
「ぷぎー!」
うっかり不可逆圧縮をかけてしまったので、捕虜は真っ白な肌に変わってました。頭にはちょんまげがあるし、股間には白鳥の頭が生えています。
「とんでもない、あたしゃ神様だよ」
「やかましいわ」
偉大な神に対する冒涜ですよ。アハトライトスラッシュで刎ねた首を瞬間冷凍しました。脳から直接電気的に記憶を読み出してやりましょう。
「ほいじゃあ撤収ー!」
「その前に、山小屋焼いてくれねぇか?臭くなっちまってる。もう使えねぇ」
「はいよー」
じいちゃんの山小屋を焼いて、宇宙船は召喚魔法の具にして金塊に変えました。完全に勝利?
「ミクルちゃん?どうよー?後続部隊とか居るんじゃろか?」
「あー、こいつら働きたくないあまりに脱走したニートでやんす。後続部隊も居ないし、こいつらを追ってる勢力も居ないでやんす」
「脳から電気的に記憶を読み出すなんてインチキな科学ねー?」
「インチキじゃありますん!」
ニートが星の海を越えて他の天体の知的生命体に干渉するなんて。怖ろしい文明を持った星もあったもんですね。
「こいつらの母星はもう木っ端微塵でやんす。行き過ぎた文明の末路ってやつでごんす」
「おお、ほいじゃあ完全に勝利で終了じゃねー」
「いや、ほんまの厄災はこれからかも知れへん」
さっきもピクピク星人が「死後の世界」とか言ってましたけど。ヨコハマではヴァルハラが信じられてました。ピクピク星人が滅ぼした10万人のヨコハマ民がヴァルハラに向かったのだとしたらー。
「以前は、カワサキ帝国に輪廻転生してたよね?」
「ほんまにそうかは分からへんけどな?」
「今や帝国はないしー。どこに転生して来るのかとゆうとー」
「ニャア村ちゃうか?」
「うげ!」
今の村の人口は1500人程度です。うち1000人くらいがパンツの女騎士。そこに10万人!?
「食糧危機で滅亡する」
「いや、さすがに一度は無理でしょ?ていうか無理。村にはツガイの男女がほとんど居ないでしょ」
「あー、せやなー。杞憂やったらええねんけど」
輪廻転生したからと言って救われるわけでもなし。10万人の魂が何処に行くのかは知りませんけど、この世界のヒトの命は風船よりも軽いのです。気にしてたらはげます。
「ははっ。倫理観とか違うにもほどがある。異世界ウケるわー」
オモッチ姉さんは豆腐メンタルのくせに柔軟性は高いですね。日本基準だと支離滅裂、奇々怪々の連続なのに、自我を保っています。
オモッチ姉さんがこの世界にやって来た事には、何らかの理由があるはず。自作自演やらかしてまで私達が日本に転生したのです。これは何かのシナリオの結果なのでは?どんなシナリオなのかさっぱりですけど。まあ、いいか。気にしてたらはげます。
私達が、お風呂でくつろいでいると、シリアナさんがやって来ました。このお話にイラストがついてるわけでもないので、お風呂である必然性はないですけどね。
「ニャアちゃーん。大変よー。大変なお告げが出たわよー」
「お告げ?」
「おみくじの中に用意したはずのない不吉なものが、あったのよー」
超大凶
この村にヤサイが訪れる
「ヤサイ?厄災の誤字かな?」
「本当に野菜なのかも」
「空飛ぶキャベツの大群でも飛来してくんの?」
「あるいは地を這うゴボウか」
「パクチーには来てほしくないわねー」
「キャベツならコロッケの添え物にすりゃいいわよ」
「ほじゃねー」
「超大凶とか頭悪すぎるなあ。この世界の神って誰だっけ」
「とんでもない、あたしゃ魔王だよ?」
女神で魔女で魔王な私ですけど、そんなものは名刺に書いた痛い肩書みたいなものですよ。CTOだかCEOみたいな。実際の権能は何も無いし、神のみぞ知るはずの事も何も知りません。
さて、村に訪れたのは野菜なのか厄災なのか?
「ピクピク星人の事だったのかな?あいつら以来、何も訪れない」
「ヤサイ星人だったの?」
「そういえば言葉が通じたのは不思議ナリね」
「一生懸命学んだのかなー、ニートのくせに」
学ぶと言えば、スルーしたはずの学校編がありますのジャガー。
「あんた達こそ学んだら?いくら異世界でも情緒がおかしい。小学生からやり直しなさい」
むう、日本で11年間もお世話になったオモッチお姉さんにそう言われては、逆らいづらいですねー。