1-10. 小説は仕様書ではありません
お風呂上がりに、牛乳を飲んでから、教会に行きます。
牛乳は貴族の飲み物です。今の我々は、お仕事人の報酬で懐に余裕があります。討ち入り前の景気づけに、グビグビっといっちゃいます。
悪を成敗するのは結構お金になりましたね。
私は異世界派遣なので、死ねば、またどこの世界へ行くとも分かりません。ならば、己の心のままに、突き進むのも悪くないでしょう。どうカッコつけても魔法で悪事を働いただけですけど。
たまには、教会で懺悔でもしておきましょう。いや、違うシスターの粛清に来たのでした。
「迷える子猫ちゃんをお救いください。ぶひぃ」
「あなたは、定食屋の次女でしたかね?」
むーん? 懺悔室の相手の素性を言い当てるのはどうなんですかねー? ここは懺悔室じゃなくて取り調べ室でしたか? そうかも。
おや? こっちから相手の顔は見えませんが、このシスターはいつもの俗物と別人ですね? 磯臭くありません。
「あれ? ハマ出身の俗物シスターは、どこ行きました?」
「彼女は逃亡しました。あなたを軍に売ったのがバレて、定食屋の主人達にひどい目に合わされたので」
ほっほう。やはりアイツが犯人でしたか。うちのじいちゃんを怒らせるとは愚かな。
「私も教会の者ですが、定食屋には逆らえません」
そりゃそうだ。うちに資金を提供しているのは教会ですけど、生殺与奪の権利を握っているのはむしろうちですからね。人は明日のパンツのみで生きるにあらず。ご飯を食べないと死にます。
この世界が、なんで無料パラダイスなのかと言えばですよ。村の教会の力なのです。教会が村の経済を支えているのです。うちみたいな定食屋、お風呂屋さん、オフトン屋さん、パンツ屋さんは、教会から資金提供を受けて無料でサービスを提供しているのです。
そんな教会の資金源はお布施なのですが、私から巻き上げてる小銭では当然足りません。この国の王族や貴族から莫大なお布施があるのです。なんで、そうまでして国民を養っているのかというと、この教会の教義に従っているから。
お陰で、私達庶民は、食う寝るお風呂に困ることなく、税金も年金も社会保険も徴収されずに、のんびり生きていけるのです。
王族や貴族は、どこからお金を得ているのかしら?
私を攫ったあいつらは軍の奴らしいですし、私の戦災孤児設定を誰も疑わないくらいに、あちこちでドンパチやってます。うーん、もしかして死の商人って奴ですかね? 敵国にも兵器を提供し、時には戦争のシナリオまで用意するという。中東で傭兵さんをやっているエースパイロットが無双するマンガで読みました。
死の商人が自国の民だけは優遇する。宗教とはよく分からんですね。海外製品のマニュアルを原文で読むよりも難解ですよ。あれって、おそらくはインド人とかチャイニーズが書いてるんですよね。英語として文法がオカシイんです。マニュアルの文書をそのまま運用手順書にぱくったら「こんなの読めない」って言われました。インドの監視センターのインド人に。うぐぅ、国際的ブーメランなのでは?
まあいいや。敵は既に天誅済みでしたか。
教会の図書室でラノベを読むことにします。図書室の利用にお布施は不要だと、新しいシスターは言いました。あの俗物シスター、私からかつあげしてたワケですよ。
教会の図書室になんでラノベがあるのかというと。それが、この国の神話だからです。世界が違うと、文化も違うのです。活版印刷の技術はあるようですが、イラストを印刷する技術はまだのようで、ラノベとは言ってもイラストがありません。
イラストは版画で教会に飾ってあります。主要なシーンが壁一面にあるので、ネタバレもいいとこですよ!
今日読むのは「あたしって女神だったの!? 人類を滅ぼして世界を救わなきゃ!! ~大天使を従えて旅に出ます~」というアタマ悪そうな長文タイトルです。帯に書いとけ、そんなん。あほちゃうか? 帯び無いけど。
私このラノベの主人公である、女神を知っています。こことは別の世界で、おやつ貰いました。その世界では私は孤児院の孤児で、かさかさになって死んでしまいましたが。
こういう事は割とあります。悪役令嬢が出てくるゲームの世界に転生したこともあります。ド定番ですよね。私は、その世界では女生徒Cでした。悪役令嬢や腹黒ヒロインとは一切無縁の。学園内で起きた爆破テロに巻き込まれて死にました。なぜ学園で爆破テロ? 随分と尖った乙女ゲーだったようです。プレイしたこと無かったので知らんかったわー。知っていれば回避出来たのに。
逆に、というか、自分が居た異世界が、別の異世界では絵本になっていたり。なので、私が悪どい商人を丸焼きにしたり、猫耳魔法少女になって弩級戦艦を轟沈させたりしているのも、どこかの世界ではアニメ化されている可能性があるのです。観たいわー、それー。
今日はちょっと仕様解説みたいでしたね。システムエンジニアの業なので是非もなし。
お腹も空いたし、タオルくんとメイド騎士と一緒に、おうちに帰りましょうか。