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アリアドネの守護者

作者: たんぼ

 気がついたら剣と魔法の世界に転生していたおれは、この世界に転生した謎がダンジョンに隠されている手がかりをつかんだ。故郷で修行を積んだおれはダンジョンへ向けて出発した。


 ダンジョンの名前は、発見者にちなんでダスペルと言う。ダスペルのダンジョンはこの国にあるダンジョンの中で最も大きい。そのため、たくさんの冒険者がダスペルの街に集まってくる。


 おれはダンジョンに向かっていた。


「おい、坊主」

 突然、筋肉もりもりのスキンヘッドのおっさんが話しかけてきた。

「なんだよ」

「おまえ、冒険者か」

「そうだけど、なんかよう」

「その、なんだ、うちのパーティにいた荷物持ちに急に用事が入ったんだ。それで、今、探してるところなんだが、どうだ」

「おっさん、おれの身なりを見たら剣士だって分かるだろ、荷物持ちなんてやってらんねえよ」

「はは、元気がいいじゃねえか。もちろん、おまえが剣士だってことは分かってるさ。だが、その貧相な装備だと金に困ってることも分かる。どうだ、一週間、俺たちの荷物持ちをやれば銀貨5枚だ」

「銀貨5枚? 俺をだまそうとしてもそんな手には引っかからねえぞ」

「言いたいことは分かるさ、おそらく一月、いや、三ヶ月分の金が一気に手元に来るってなったら誰だって嘘だと疑う。だが、俺たちの冒険者ランクを見てみろ」


 おっさんは胸元から冒険者ランクを示すギルドカードを取り出した。


「銀色じゃねえか」

「そうだ、銀色だ。つまり、銀等級のおれたちは、一回の冒険でありったけの金を稼いでくる」

「パーティの名前は? 銀等級なら少しは名前が広まってるだろ、言ってくれたら分かるかもしれない」

「アリアドネの守護者だ。この街じゃあ名が通ってるはずだぜ」


 この世界に転生してからもう五年は経つから、だいぶ馴染んだと思う。だけど、この街にやってきたのはつい最近で、しかもひたすらソロでダンジョンを潜っていたから、正直聞いたこともなかった。ただ、相手に紹介させた手前、知らないと言うのもどこか気が引けた。


「ああ、アリアドネの守護者か。聞いたことあるぜ」

「なら、話が早い」

「待てよおっさん、やるとは言ってねえ。おれは根っからの剣士なんだ、荷物持ちをやってるより、魔物と戦って実力を上げた方がいい」

「おいおい、こんなに熱心に誘うことなんてないんだぜ。それに、剣士としての実力を上げたいなら、おれたちのパーティにくるのは願ってもないことだと思うが。なんせ、あの千剣のデュランがいるんだからな。あいつの戦い方をそばで見るだけでも腕を上げれると思うぞ。まあ、おまえがデュランの剣を見切れたらだがな」

「なんだよ、そこまで挑発されたら逃げられないじゃねえか」

「はは、そうだろう。で、どうする?」

「分かった、今日一日だな」

「よし、決まりだ」


 おれは結局おっさんに言いくるめられて荷物持ちをすることになった。


 おっさんたちアリアドネの守護者と合流する前に、すこし準備をすると言ってから、街の人からアリアドネの守護者について話を聞いた。


 街の人たちの話では、彼らは一騎当千の実力者で、悪い噂なんてもっぱら聞いたことがないとのこと。逆に、悪い噂よりも街の孤児院に寄付をしただの、スラムを牛耳る悪者を追い出しただの、いい噂の方が目立っていた。それで、おれはその噂を信じることにして、集合場所であるダスペルのダンジョン前にやってきた。


 ダンジョンの前は広場になっていて、いろいろなパーティがダンジョンを潜る準備をしている。人の話し声や、パーティメンバーを集う声が行き交ってにぎやかだった。広場の噴水前に、俺を誘ったおっさんがいたのを見つけた。その周りには剣士の男と、魔法使いの女、僧侶の女がいた。


「おっさん、来たぜ」

「おお、待ってたぞ、坊主。よし、これで全員そろったな。これから行くダンジョンについてだが」とおっさんが言いかけたときに、魔法使いの赤髪の女性が割り込んだ。

「ちょっと待ちなさいよ、まずは一応自己紹介しないとでしょ」

「そうですね、ガリッツが誘ったとはいえ、名前も知らない相手とはダンジョンに潜るつもりはありません」

 白髪の僧侶が言った。

「はっはっは、そうだなすっかり忘れてた。おれの名前は、今聞いたと思うが、ガリッツだ。そして、こっちの剣士がデュラン、魔法使いがミレーナ、僧侶がアナスタシアだ」

「おれはアランだ」

「アランね、よろしく。ミレーナよ」

 ミレーナが手を差し出してきたので、握手した。

「アナスタシアです。よろしくお願いします、アラン」

 アナスタシアは杖を前に掲げたまま軽くお辞儀をした。

「デュランだ、よろしく頼む。おれが一応パーティのリーダーだ」


 デュランは作り笑いを浮かべるでもなく無表情のままだった。


「よし、これで自己紹介は終わりだな。これから行くダンジョンについて軽くおさらいするから、耳の穴かっぽじって聞いとけよ、アラン」


「ああ」とおれは言った。


「ちょっと待ちなさいよ、ガリッツ」

 ミレーナがガリッツを制した。

「なんだ」

「この子、ダンジョンに潜ったことぐらいはあるとは思うけど、どこまでついてこられるのよ」

「だそうだ、どこまで行ける」ガリッツがおれに聞いた。

「おれが潜ったことがあるのは十階層までだな。まだ余裕はあったからそれよりかは潜れると思う」

「十階層って、私たちが行こうとしてるのは三十四階層よ、荷物持ちと言っても私たちに着いてこられるの」ミレーナはおれに怪訝な顔を向けてきた。

「アランなら大丈夫だろう」とデュランが言った。

「どうして分かるのよ」

「見れば分かる。大方、ソロで潜っていたのだろう、それも十階層まで行くのにそう長い時間はかかっていないはずだ」


 おれはデュランの発言に目を見開いた。すべて当たっていたからだ。


「その話が本当なら、まだ十階層に潜っていただけとはいえ、私たちに着いてくることは可能でしょうね」アナスタシアが言った。

「本当なの」ミレーナがおれに聞いた。

「ああ、この街に来たのが二週間前で、それからはずっとソロで潜ってた。十階層をクリアしたのは昨日だ」

 おれがそう言うと、ミレーナは驚いたような表情をした。

「決まりだな」

 ガリッツはみんなを見渡した。

「おれの勘はやっぱり鋭いらしい」とガリッツは自画自賛した。

「ていうか、あんたがこういうことは聞いときなさいよ」とミレーナ。

「ははは、わりい、わりい」とガリッツが言うと、そのまま続けて、

「よし、気を取り直して、ダンジョンについておさらいだ。まず、おれたちが目指すのは三十四階層だ。このダンジョンは十階層ごとにボスがいるから、三回戦うことになる。アランはボス戦で戦う必要はない。ここまではいいか」

「ああ」とおれは言った。

「よし、でだ、基本的に道中の探索では、アランは最後尾にいてもらう。魔物を取りこぼすことはないから安心しろ」

「わかった」


 ガリッツはそのままダンジョンの階層ごとの特徴について軽く説明をした。十階層までは洞窟型、二十階層までは草原型、三十階層までは森林型、そして三十階層からは迷宮型だ。


 説明を終えると、各自で装備を点検することになり、おれは持ってきたショートソードに刃こぼれがないか一応確認し、ブーツのひもをちゃんと結んでるかとか、ポーションを持ってきたかチェックするためにポーチの中をあらためた。


「準備はいいな、行くぞ」

 ガリッツは言った。


 洞窟型の迷宮の内部は、壁が魔力か何かの不思議な力で青白く発光しており、視界が暗くて困るということはなかった。そして、正規のルートには松明がもうけられており、一本の道となっているので、道に迷うこともない。俺たちはその正規ルートを走り抜けていた。


「まあ、二十階層までは散歩みたいなもんだ」ガリッツが言った。

「そうね、デュランに任せておけばここら辺の敵なら相手じゃないもの」

 デュランは黙々と剣を振っている。

 ダンジョンの魔物は倒されると塵になって消える。デュランは接敵すると同時に魔物を倒しているので、俺たちはただ後をついて行くだけでよかった。

「アラン、おまえは何で冒険者になりたいと思ったんだ」

 ガリッツがおれに聞いた。

「退屈だったんだ。田舎で畑をたがやすだけで人生を終えたくないと思ってさ」

 おれはとっさにそう言った。おれがダンジョンを潜る理由は、自分がこの世界に転生した訳がダンジョンを潜れば分かるかもしれないと思ったからだけど、突拍子もない話だし、そのまま伝えても信じてもらえないだろう。

「それだけか? なんかもっと、こう、大金を手に入れたいとか、名を上げたいとかあるだろ」

「強いて言うなら、剣の腕をみがくことかな。あんたたちは?」

「おれは名誉だな、ダンジョンを攻略して有名になる。デュランもおまえと同じで剣の腕をみがくためにダンジョンに潜ってるぜ」

「わたしはダンジョンのお宝かしらね」

「わたしはイリス聖教徒として、魔物を滅ぼす使命がありますので」

 おれたちはダンジョンを話しながら進行していた。そして、気がついたら十階層に到達していた。


 十階層のボスはキングゴブリンとその衛兵が5匹いる。広間となっているボス部屋の奥に玉座があり、そこにキングゴブリンが鎮座している。その玉座の前に槍を持ったゴブリンの衛兵が五匹だ。キングゴブリンは王としての誇りがあるのか、衛兵が倒されてから動き出す。だから、まずは衛兵から倒していくのがセオリーだ。


「アラン、ここをソロで攻略したんだろ。おれたちにその実力を見せてくれよ。実際に見た方が、三十階層までやっていけるのか分かるからな」

 おれは荷物を床に下ろして、剣を抜いた。

「お手並み拝見と行こうか」ガリッツがにやりと笑いながら言った。


 おれは距離を詰めるために駆け出した。

 それに反応した衛兵が槍を前に突き出し、勢いを殺そうとするが、おれは横に並んだ衛兵の側面に回った。一匹ずつ処理をしていくためだ。


 槍をはじいて肉薄すると、首を一振りで飛ばした。衛兵は塵になった。


 残った四匹の衛兵はおれを囲もうとするけど、おれよりもスピードが遅いので囲みきれない。おれは隙を突きながら、一匹ずつ倒していき、残るはキングゴブリンだけとなった。


 キングゴブリンは玉座からゆっくりと立ち上がり、玉座に立てかけてあった大剣をつかんだ。


 キングゴブリンは立ち上がると、背丈がおれの二倍近くになる。大きな骨格と筋肉によってパワーはすさまじいが、動作はそこまで機敏ではないので、スピードで勝負をすれば倒しやすい。


 おれはキングゴブリンに向かって走り出した。相手はおれの動線を読んで右手で大剣を振り下ろしてきたけど、読まれていることが分かっていたので、左によけてキングゴブリンの後ろに回った。


 おれは右足首を切りつけて、キングゴブリンの機動力を奪った。


 キングゴブリンは膝を突いた。


 そして、おれは背後から飛び上がって、落ちながら回転して勢いをつけ、首を切り飛ばした。


「ひゅー、楽勝みたいだな」とガリッツが言った。

「わたしたちの探索の速度についてこれてたから、スピードはあると分かってたけど、それを活かす判断力もあるみたいね」

「見事です」

 アリアドネの守護者の一行はおれの戦闘を見て褒めてくれた。

「最初、横薙ぎならどうしていた」

 デュランがおれに聞いた。

「大振りなら飛んで後ろに回るけど、牽制なら近づかない。その後は、相手の大振りを誘うためにわざと隙を見せたりするかな」

「やるな。おまえならおれたちについて来られるだろう。余裕があれば戦闘に参加してもいい」

「わかった」とおれは言った。


 その日、おれたちは二十階層まで進んで、二十一階層の森林エリアで野営をすることになった。

 階段付近の広場で魔物除けの結界をアナスタシアが展開して、中心にたき火をたいて、おれたちは休息をとっていた。ほかに冒険者はいないみたいだった。


 平原エリアは広さが特徴なので進むのに時間がかかった。ほとんどの魔物はデュランが一人で倒していた。ガリッツに挑発されて荷物持ちをすることになったけど、デュランの剣筋を目で追うことはできなかった。 


「デュラン、あんたはどうやってそこまで強くなったんだ」

 おれはデュランに聞いた。

「おれは訓練をしていただけだ」

「デュランは天才肌なのよ」とミレーナはそのまま続けて、「もしアランが強くなりたいんなら魔力の使い方を学ぶことね」と言った。

「そうだな、アラン。おまえは素質があるみたいだが、まだまだ魔力の質がわりい」

「魔力の質を上げればいいのか、ただどうやって」

「それこそ修練するのみね。瞑想をして体内を巡る魔力の流れを感じ、自己の内宇宙を探索する。同時に、己を顧みながら体を鍛えることで魔力の質は上がっていく」

「瞑想はイリス聖教徒でも推奨されています。神の御心を理解するためには確かな知恵が必要ですから」とアナスタシア。 

「ありがとう、助かる」おれは言った。

「ははは、お礼を言うとは驚いた」とガリッツがおれをからかった。

「ソロでダンジョンを潜ってるだけでは得られない情報だったからな」

「荷物持ちも悪くねえだろ」

「ああ」とおれは言った。

 その日の野営は特に何も起きずに朝を迎えた。結界があるおかげで、二十階層程度なら見張りをする必要もなかった。



 ダンジョンを進行していると、雨がポツポツと降り出し、そのまま小雨ですむかと思っていたが、次第に雨脚は強くなって、とうとう土砂降りとなった。おれたちは二十七階層にいた。


「まさかここまで強くなるとはな」ガリッツが言った。

「それにしても変じゃないかしら。魔物が全然いないわ」

「そうですね。今日はまったく接敵していません」

「警戒した方がいいかもしれないな」とデュランが言った。

「異変が起きてるのか」

「ああ、普段はここまで順調に進めることはない」


 実際に、魔物との戦闘は二十七階層につくまでで、一、二度あったぐらいだ。ダンジョン自体に異変が起きているのかもしれない。


「状況が悪くなれば引き返すこともある」

 デュランが言った。 


 おれたちは進行のスピードを落として、周囲を警戒しながら進んだ。森の中に魔物の気配はなく、木々に落ちる雨音だけが聞こえた。ローブのレインコート越しに雨の感触を感じた。


「デュラン、どうする。もう二十八階層に到達するが、このまま進むか」

「帰還札は各自持っているな」デュランは質問には答えず、振り向いて言った。


 帰還札はダンジョンに入る前、デュランに渡された。おれは腰のポーチに入れており、そこにあるのを確認した。


「みんな大丈夫そうだな。とりあえずこのまま進もう。ダンジョンの階層を超えて異変を起こすとなるとボスの影響かもしれない。以前にも十階層でキングゴブリンがゴブリンエンペラーに変化したとき、洞窟では魔物の数が減り、青白い壁が赤く変化していた。それと同じ現象が三十階層のボスで起きているかもしれない」


 デュランが言った。


「なるほどね、そうなるとボスを倒せば一攫千金じゃないかしら」

「だが、強さも一段階あがる。アランには厳しいんじゃねえか」

「悪いが、戦闘には参加せず、ボス部屋の前で待っていてもらおう」

 デュランはおれに言った。

「ああ、それでいい。足手まといになるつもりはない」

 おれたちはそのまま三十階層に向かった。



 三十階層のボス部屋の手前、城壁のように広がっている大木に、巨大な門扉があった。


「この先がボスだ」デュランが言った。

「アラン、魔物除けです。わたしが作ったものですから、わたしより弱い魔物は近寄ってきません、この階層ならある程度大丈夫でしょう」アナスタシアはおれに魔物除けの札を手渡した。

「魔物除けの札の効果が切れてもおれたちが戻ってこなければ、帰還の札を使ってくれ。そのときはおれたちも帰還札でダンジョンを出ていると判断していい」

 デュランは言った。

「わかった」

 おれは門扉から離れてアリアドネの守護者のメンバーを見送ることにした。

 一行は門扉を開けて、ボス部屋に入った。


 おれは門扉の前で、魔物除けの札を発動させ、気配を消して待っていた。

 しかし、アリアドネの守護者が戻ってくることはなかった。

 中の様子をうかがうことはできず、どういう状況か分からないが、雨がやむ様子もなく、土砂降りのままだった。つまり、ダンジョンの異変が終わらないということはボスを倒していないということだ。

 魔物除けの札の効果が切れて、薄い膜が消えた。

 帰還札を使うときだろう。

 そうして、おれは帰還札を使ってダンジョンから脱出した。


 ダンジョン前の広場に出た。すでに夜で雨が降っていた。

 あたりを探してみたけど、アリアドネの守護者のみんなはいなかった。

 冒険者ギルドにも行ったが、受付嬢も見ていないらしい。街の人たちに聞いてアリアドネの守護者のギルドハウスに向かってみたけど、そこも明かりがついておらず人の気配はなかった。

 結局、その夜ずっとアリアドネの守護者を探していたが、一行の姿を見たという人はいなかった。

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