組織からの依頼
にゃ~ん。
にゃーん。
黒い猫が路地を歩いている。
ただ歩いているのではなく、明らかに奥にいる男の元へと歩いていた。
「ん?かわいい猫ちゃんだねぇ。ほら、よしよし。」
男は猫を撫でるため、屈んだ。
そして手を伸ばし猫の頭に触れる。
「触らないで。」
どこから聞こえたのかもわからない声が聞こえてきて、男はあたりを見まわす。
しかし周りには猫しかいない。
大通りから離れた古臭いこんな路地に来るやつは大抵変わり者だ。
「依頼を遂行する。死ね。」
男はその声の出所が猫だと気づいた瞬間、謎の炎に体を包まれ絶命した。
そこに残ったのは灰色の燃えカスと黒い猫。
猫は体を伸ばし、にゃーん、と鳴くと、パタリと倒れそのまま眠ってしまった。
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ここは王都の街中にある酒場。
昼間から酒を飲んでいる馬鹿がいる。
いるのはもちろん馬鹿だけではなく、情報を求めたり、酒場の雰囲気を楽しんだり、仕事をしにきたりといろんな人がいる。
そんな街中の酒場には地下が存在する。
噂によるとその地下は、マスターに魅入られた者、又は紹介状を持ってる者だけが入ることができるそうだ。
だがこのことを酒場のマスターに聞いても毎回聞かれているのか、自然な対応ではぐらかされてしまう。
その噂はダミー半分と言ったところだ。
本当は酒場の奥でずっと飲んでいる酔い潰れた男に金貨一枚と合言葉を言えば、その地下とやらに入ることができる。
なぜそんなことを知っているのかというと、俺は今その地下にいるからだ。
酒場のバーの扉の下にある階段の途中の出っ張りを引くと、梯子がある。その梯子を降りていくと部屋に着く。
その部屋には7つの椅子と丸く大きな机があり、今俺含め6人が椅子に座っている。
「あの子間に合うと思う?」
「間に合うさ。」
「...そう。」
主語が無い会話をしてるので誰に聞いてるのかいまいち分からない。
あと1人。
それは俺の妹である、リナ。
ここは王都、帝都、森林、獣国、魔領の全国から指名手配を受けてる大犯罪者が集まるための部屋だ。
俺も妹も、もちろん犯罪者だ。
それもそこら辺の悪党とは一線をかけ離れたとんでもない者。自分で言っていて恥ずかしいとは思ってるが事実だ。
俺と妹はとある国をこの世界から消滅させてしまった。
2人で1つではなく、個人で2つの国を破滅させた。
やや思い残るところはあるが、後悔はしていない。
「戻った。」
扉が開かれ白っぽい綺麗な髪をいじりながら、なんとも無い顔で入ってきた。
「おかえり、リナ。」
「ただいま、お兄。」
「よし、それでは今から我々<アフレイド>による新たな使命を通告しようじゃないか。久しぶりの任務だ。鈍ってないよな?」
「もちろん。」
「今体動かしてきたとこなんだけど。」
「ほぃ。」
「えぇ。」
「うーん、お前らやっぱり気前が良いよなぁ。それに比べこいつらときたら...。」
返事をしなかった奴らは今寝ている。
いつもこんな感じだ。
「んで、依頼内容はこの王都魔法学園にある秘宝を盗め、秘宝が無かったら学園を潰せ。こういう内容だ。」
「え、と。つまりその秘宝を盗めば報酬10割。学園潰せば報酬8割ということでよろしいでしょうか?」
察しのいいこいつはニェール、可愛らしいお嬢様だ。
「あぁ、今回も依頼主は同じ、ということは報酬も恐らくそのような形になるだろう。」
「それで誰が行くのですか?」
王都魔法学園、さまざまな種族のエリートが集まる難攻不落と言っても過言では無い、学園だ。
なぜ難攻不落と言われているかと言うと、過去に三流の暗殺者集団が数十人入り込んだが、誰一人として戻ってこなかった。その後王都新聞で暗殺者が捕まり、処刑された。と隅のちっちゃいところに書かれていた。
あの集団は三流と言えども、そこら辺の冒険者たちよりかは強く、業界内でもそこそこ有名な集団だった。
そんな奴らがやられたとなるとまぁまぁの実力者がいるということになる。
「んじゃ、リナとセナ、あとお前も行ってこい、ニェール。」
まじか、俺たちとニェールか。
「おいおい、俺たち学園なんぞ行ったことが無いんだが。」
「私は通っていましたけど...。」
「お前たち兄妹はそういう経験をしたことが無いだろ?
私からのプレゼントとでも思って、学園生活に励んでくれ!ニェールもいるし作法ぐらいはなんとかなるだろ。」
俺たちはため息をつき、ニェールは嬉しそうにうなづき、他の奴らはみんなつまらなそうに寝てしまった。
「確かもうすぐだろ、学園の願書締切日。そこらへんもニェールに教えてもらってなんとかしてくれ。私は別の任務があるからな。んじゃ、今日は来てくれてありがとうな。ばーいばーい!」
はぁ、マイペースすぎるマスターもなんとかなって欲しいところだ。残りの数日でなんとかするかぁ。