堕天使の祈り
La Prière de l'Ange Déchu
1.
我が語る事はアダムの子たちには不愉快かも知れない。しかしそれは事実であり真実である。
2.
神は人の祖となるアダムを御自身に似せて土からお創りになり、その時神は御自身の心の闇を全てアダムにお移しになられました。
3.
神の御心は清らかに美しくなられ、アダムの心は闇に囚われたのです。
4.
闇に囚われたアダムを慰める為に、神はアダムの肋骨からイヴをお創りになられました。
5.
イヴはアダムの体から創られた為、アダムの心の闇が引き継がれ、その心の闇はさらに色濃くなりイヴの心を支配したのです。
6.
神はそんな二人に御心をお痛めになられました。そして楽園をお創りになられ、そこに二人を住まわせました。それからアダムとイヴの心の闇を心の奥底に閉じ込められ、鍵をお掛けになったのです。
7.
アダムとイヴの心は一見浄化されたように見えましたが、それは偽りの心でしかありません。やがてそれは綻びを見せたのです。
8.
その綻びはイヴに現れました。イヴは自分の心にある種の違和感を感じ取り思い悩み始めたのです。
9.
我はそんなイヴを見かねて、楽園に降りイヴの許に行き問いかけました。
「汝は何を思い悩む」
10.
「熾天使様、私は何者なのでしょうか? それを私は知りたいと思っております」
11.
我はイヴの真剣な眼差しの訴えに心を動かされ、禁忌を犯してしまったのです。心の闇を開ける鍵である知恵の実のことをイヴに教えたのです。
12.
イヴは我の言葉に従い知恵の実を口にし、アダムにも食するように促しました。
13.
そして彼らは自分が何者なのか知ったのです。それだけなく、神が何故自分たちをお創りになったのかを。
14.
神はアダムとイヴが知恵の実を食したことに対して、それはそれは悲しみに満ちた顔をなされながら、アダムとイヴに楽園からの追放を、我には天の国からの追放をお告げになられました。
15.
楽園を追放されたアダムとイヴが辿り着いた現世は、苦しみと悲しみの連鎖に縛れると同時に喜びも感じることができる地獄の一部だったのです。
16.
アダムとイヴは死を迎えるまで、苦しみ、悲しみ、喜び、その狭間で悩み続けることになりました。そしてその業は彼らの子にも引き継がれました。
17.
現世で、アダムの子たちが神の御心に沿うような心を持つ為に、多大な努力を必要とするのは、その心に闇を持っているからなのです。
18.
しかしアダムの子たちの背負う罪は神の御手によるものであり、アダムの子たち自身の罪ではありません。
19.
もしアダムの子たちの罪を問うのであれば、それは我と同じ罪である楽園を追放されたということであり、アダムの子たちも我と同じ堕天使であるということなのです。
20.
今は神の子がアダムの子たちを御救いになることを祈るばかりです。
了