ムチで打たれたい人
一人南に向かうクロエは、お腹が空いたら木の実などを食べ薬草を摘んでそれを売りながら生きていた。
この知識は城に閉じ込められていたクロエの唯一の楽しみである読書から学んだ知識で、何度も何度も様々な本を繰り返し読んでいたので全て頭に入っていた。クロエは見えるもの全てを奪われたが知識だけは彼女のものだった。
ある村で新聞を見た。
ジェルベージュという名の軍団が破竹の勢いで次々に小さな王国を倒し領土を広げているという内容だった。
先日会ったジェルベージュのトップであるジュネは昔は騎士だった。
彼は自国の王を殺し王になった。その後四つの王国を倒しその領土は統一されジェノヴァと呼ばれた。
数ヶ月前に命の選択肢をくれたジュネ、クロエを覚えていてくれた。
クロエも彼を忘れていなかった。……ジェネ。昔会った時と同じ目をしていた。
ジェノヴァは南にあるのでこれから行く場所ではあるが、この短期間で次々と戦い、国を統合して行く彼は選ばれし人だと思った。
次はマーチス王国を狙っていると書いてあった。
ここはマーチス王国なのでもう来ているかもしれない。
クロエはなるべく戦闘に巻き込まれないようにするために宿に泊まることをやめ町外れの森の中で休もうと考えていた。
森に入ると空の星が綺麗に見えてきた。立って空を見上げて遠くにきたと思った。見慣れない星の並びに世界は広いと思った。
その時、急に馬の足音が聞こえてクロエは驚いた。なぜならその馬の数が尋常じゃない何百の数だ。
先頭に真っ白い馬にまたがる長髪の男を見た。あれはジュネだと思った。
クロエの二十メートル前で止まった。どうしたものかとクロエは思ったが、フードを深く被りそのまま奥に進み始めた。
「誰だ!」の声と同時に白い馬とそのあとを四頭の馬が一斉にクロエの周りを取り囲んだ。
ジュネの仲間思われる男は剣を抜きクロエに向けた。
「エメ、まて、これはクロエだ」ジュネが言った。
「はいジュネ様、クロエでございます。旅の途中ここに参りました」
「クロエ,また会えたな」はジュネは長い髪をかき上げ少し首を傾けて嬉しそうに微笑みながらクロエに言った。
その微笑みを見て城にいる頃、嬉しそうに微笑んでくれる人は居なかったクロエは少し嬉しくなった。
「はいまたお会いできました。」
クロエはつい膝を曲げて淑女のように挨拶をしてしまった。
「あ、まだまだ習慣が抜けませんね」と言いながらジュネに微笑み返した。
ジュネもそんなクロエを見て胸に手を当てて微笑んだ。クロエはその美しい姿に見惚れていた。
そんなクロエを見ていた兵士の女が「あのやばい女王!生きていたのか!!」と嬉しそうに話しかけてきた。
「はい、おかげさまで、、」
「で、あれからここまできたのか?よく死ななかったな」女の兵士は意外にも喜んでくれた。
「ジュネ、女王どうする?」他の兵士が聞いた。
ジュネは「クロエ来い」と言ってまた馬に跨ってさきほどの場所に移動した。クロエは歩いてついて行った。
三、四百人くらいの兵士が居た。みな馬を降りて野営の準備をしていた。
そこに場違いな馬車が入ってきて止まり,その馬車の中から着飾った女性が二人降りてきた。
その様子を横目で見ながらクロエは先程声をかけてくれた女兵士、ジュリアに連れられてジュネ達が囲んでいる焚き火の前に座った。
先ほど馬車から降りてきた女達は「ジュネ!」と言ってジュネの隣に座ってお酒を注いだりジュネの髪を触ったりしていた。
クロエはなぜ自分はここにいるのだろう?と思いながらも大人しく微動だにせず座っていた。
ジュリアが「女王様動かないやばいやばい」と言って喜んでいる。
クロエは昔から女王たるもの数時間でも動かず過ごせるように教育されていたので特に意識をしていなかったが、どうやらその様子に驚いたようだ。
「ジュリアさま、驚きました?失礼いたしました。」クロエは謝った。
「やっぱ女王って動かないんだ、最高だな!」男性の兵士エメが言った。
クロエは気が付いたことがあった。
このジェルベージュという軍団のトップはみんな美形だ。
トップはは五人、ジュネ、ジュリア、エメ、カイル、セリーヌだ。
ジュネは黒髪のロングヘアーで金の瞳の持ち主、悪魔的な妖しい美しさがある。
ジュリアは赤い髪で少しカールがあり、目はグリーンの美人、
エメは髪は金色で瞳はダークグリーンの天使のような男性、
カイルは髪はシルバーで瞳はブルー、クールな美男子、
セリーヌはブラウンヘアーに瞳もブラウンで知的な美女だ。
「皆さんはお美しいですね」クロエはそのままの感想を言った。
「ブッ、女王本当すごいな、、」エメは大笑いだ。
クロエはおかしなことを言ってしまったかと思い「失礼いたしました」と謝った。
それがまたウケる。
クロエは分からなかった。自分が少しだけずれていることを。
「ジュネ!」
先程の女達はジュネに夢中だ。
ジュネとキスをしたり胸に抱かれたりしていた。クロエはそれを見ていた。
ジュリアはクロエに言った「女王様はあんな破廉恥な姿も見るの?はしたないとか言わないんだ」女達はジュリアを睨んだ。
ジュリアは全く気にしていない。ジュネはお酒を飲んでいる。
「はい。ああすれば良かったのかと、反省をしております」その言葉を聞いてジュリアはお酒を吹き出した。
「女王あんた何したのよ!」
クロエはここに来る途中にあった事を包み隠さず話した。
ある村の宿でクロエは木の実を売って得た所持金を盗まれてしまって大変困っていた。
そこの主人が客を取って稼げと言ったのでクロエはやってみようと思った。
しかしそんな事をしたことがなかったので何も分からぬまま客の部屋に行って、男が服を脱ぎベットで寝転び、クロエにああしろ、こうしろと要求した。
その意味がわからないクロエは無表情でこうすれば良いのでしょうか?それはこんな意味でしょうか?と一つ一つ確認していたら客が怒りだした。
そしてそのままクロエは追い出された。その苦い経験を話した。
「大変残念なことに何一つ出来ない私は未だに罪人しかなれておりません。」と言ってため息をついた。
全員が腹を抱えて笑っている。「だからジュネ達の事を見てたんだ!!」「うう,ウケる」ジュリアは大喜びだ。
「で。女王あんたそのあとどうしたの?」
「お客様に追い出されてしまい途方にくれておりましたら違うお客さまに誘われてついて参りましたところ、その方がムチで叩いてほしいとおっしゃって、私はムチは扱えますゆえお客さまをムチ打ちをいたしました。」
「城でも鞭打ちの刑がありますゆえ見よう見まねではありますがご満足頂けたようで。しかしそのお客様は私を女王とお呼びになったのでもしかしたら私を知っている方だったかもしれませんね。お金は沢山いただけましたわ」
ジュリア達はもう震えていた。
「じょ、女王最高だな!!」エメが言った。
カイルは「打たれたいな」といって笑っている。
セリーヌは笑い転げて起きてこない。
その様子を見たジュネは「おい、何があった?俺にもおしえろ」と言ってジュリアに聞いた。
「ジュネはそっちで楽しんでいなさいよ!こっちは女王で楽しむわ!」と言ってジュリアは笑っている。
ジュネは不服そうにお酒を飲んだ。
その様子を眺めながらクロエはその話がそんなに面白い話だと思わなかったので不思議な顔をしていた。