第97話 その後のオアシス㊤
前回までのあらすじ!
王者さんを籠絡したぞ。
まったく、色男め。
しばらくして、ガイザスはザルトラム王国へと帰っていった。
実にあっさりとした別れだ。誰も悲しまねえし、見送りも少ねえ。俺とルランゼくらいのもんだ。
ま、あいつがこれまでしてきたことを考えりゃ、当然の帰結だと言えるだろう。だが生まれついての王者という人種ってのは、やたらとハートが強いようだ。
別れの際にこんな言葉を残しやがった。
「喜ぶがいい、ライリー。来年またきてやる。余の別荘を用意しておけよ」
「……おまえさん、社交辞令って言葉知らんだろ」
「まあまあ、お二人さん。せっかく仲良くなったんだから──」
「全ッ然仲良くねーわ!」
「勘違いするでないわ!」
「そういうとこだよ」
そうして。
ウォルウォがアホほど餞別にくれてやったアホリン酒と、長旅でも日持ちするラズルの燻製がいくつか入った大きな革袋を担いで、王者は砂漠の地をひとりで去っていった。
馬も護衛もなく、だが、迷いなど微塵も見せずに、力強く大地を踏みしめるように歩いてな。
あんにゃろう、来たときよか活力溢れてねえか。年齢は俺よか十は上のはずだが、ありゃあ長生きしやがるぜ。
ようやっと、重い重い肩の荷を、下ろせた気分だ。
だが、代わりに背負っちまったもんもある。
ヒトだ。
リベルタリアへの移住希望者が、ぼちぼち現れ始めたんだ。
人と魔。仇敵同士が共存するリベルタリアへの移住希望者など、そうそう出てくることはないだろうと高をくくっていただけに、これにゃ正直たまげたね。
人魔合わせてわずか数百程度だった人口が、四桁に達しようとしている。許容量オーバーだ。これ以上はオアシスの恵みでは賄えない。湖の魚が絶滅しちまっちゃあ意味がねえし、耕作地だってそう広くはない。
これ以上はバカスカ受け容れるわけにもいかず、俺はルランゼ以下、数名を伴って移住希望者のもとを走り回ることにした。
移住の理由には様々あった。
領主が課した重税であったり、天災や人災で枯れてしまった土地からの脱却であったり、街や村の近くに山賊団が現れたり、魔物の多発地帯になってしまったりだ。それらを解消してやれば、彼らとて故郷を捨てることはねえはずだ。
結局俺は勇者だった頃と同じように、山賊や魔物退治に精を出す。ガイザスあたりに言わせりゃ、王者の仕事ではない、と一喝されるだろう。
だがまあ、性に合ってんのかねえ。案外、走り回るのも悪くねえんだ。
そのうち、俺の活動に手を貸す者がオアシスから現れ始めた。
肉体が闘争を求めるイフリータや、元キッズ野盗団どもだ。精霊王はあいかわらずで、嬉々として山賊や魔物退治に勤しむ。手強ければ手強いほどに、やる気を出す。
いまじゃずいぶんと楽になったね。ああ、何が楽になったかって。勘違いするなよ。
山賊や魔物退治のことじゃあねえんだ。あのバーサーカー娘が、俺にケンカを売ってくることがなくなったんだ。ストレス発散は大事だね。
はっはっは、悪ィな、山賊ども。
元キッズ野盗団も、いまじゃキッズ自警団に格上げだ。組織だって各国に派遣し、各地で問題を解決、いまじゃ立派な商売にさえなっちまってるほどだ。
手強い魔族の多いルーグリオン地方にゃイフリータが、人類領域にゃキッズ自警団が向かう手はずになっているらしい。
領主の重税に関しては、国王夫妻である俺とルランゼが出向かざるを得なかった。
進言という名の内政干渉。圧力をかけて税の軽減をむりやりさせるんだ。あまり褒められた行為じゃあねえが、領主とてこのままでは領民に去られ、税収を失うことになる。そうなるよりはと、大体の領主は意を汲んでくれた。
自然、リベルタリアは各国の上級貴族からは嫌われ、庶民からは愛される国となった。まあ、嫌われたところで、うちに戦争吹っ掛けて勝てる算段もねえだろうしな。
実際問題、何度かリベルタリアへと暗殺者が送り込まれてきたことがあった。せっかく魔力嵐を苦労して越えてきた暗殺者たちは、しかしその大半がシュトゥンとウォルウォのムキムキコンビに弄ばれたあげく、アホリン酒をアホほど飲まされ、さらに手土産を渡されて追い返されていたが。
いや~、俺も一度その光景を見たことがあったが、笑えたね。
あの大胸筋サンドは、さぞや暑苦しかったことだろうよ。
天災で枯れた地の復興や、農業のノウハウ伝授、道路の整地なんかには、救援要請を受けたオルネの民が向かった。ゼラ爺はさすがに年齢的にもう長旅は堪えるらしく、いま彼らを率いているのは孫のイリスだ。復興担当だな。
各地の復興を終えるたび、イリスたちは種や家畜を分けてもらい、リベルタリアへと帰還する。自然、オアシスの家畜は増え、畑の規模もずいぶんと広がった。
用水路はもちろん、上水、下水の整備なんかも完璧だ。放っておいても、どんどん住みよくなる。
順調だ。すべてが順調だった。
だが、ガイザスが去ってからおよそ半年、その日がやってきた。
シュトゥンの魔都ルインへの帰国と、ラズルのカテドラール領への帰還だ。両者ともに、リベルタリアが国家として軌道に乗るまで付き合ってくれてたのさ。
俺はシュトゥンと握手を交わし、がっしりと抱き合った。
そんな俺たちを、ギンギンに血走った熱視線で見上げてくるレンが怖い。あの純朴だったホブゴブリンの少女が、いまや立派などすけべに成長したものだと、元祖としては感慨深い。
ラズルは燻製を作るための施設を残していってくれた。昨今ではリベルタリア女子たちが店を開き、完成した燻製や干物を我が家にもよく差し入れてくれる。
やっぱ説教くせえ偏屈爺が作った燻製よりは、ピチピチ女子の作ったものだね、と言いてえところだが、やや味気なく思えるのは、俺の寂しさからなのだろう。
でも、有能二人を借りっぱなしじゃあ、ルナちゃんにも悪いからね。
フェンリルは何気に居着いた。
ルーグリオン地方にいた頃から、もともと決まった領地を持たず、ワンワン軍団を率いて住みやすい山岳地帯を渡り歩いていたようだ。
時々、フラっと一ヶ月ほどいなくなるのだが、どうやらそれは元の住処の様子を覗いたり、評議会として魔王ルナとの協議に出ていたりするらしい。
だがそれも銀狼に譲り、そろそろ隠居を考えているそうだ。あの小物ワンちゃんじゃ、ちょいと力不足だと思うが、まあ大戦のねえ世の中ならそれもいいのかもしれない。
昨今では、初期から移住を決めていたウォルウォの酒飲み友達をやっている。まさに美女と野獣だ。たまに俺も混ざるから、さながら美女と野獣と珍獣だ。
ひときわ異彩を放つホブゴブリン嬢!
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