第95話 王者さんのデート
前回までのあらすじ!
王者さん、ちょっと険が取れてきた?
ガイザスとの面会を終えて翌朝のことだ。
俺ん家の前に、王者がいやがった。腕組みした仏頂面で突っ立ってやがったんだ。
「……」
「……」
俺は朝日を浴びるために開けたドアを、そっと閉じた。
「待てい、ライリー。呼びつけておいてその態度は何事だ」
仕方なくもう一度ドアを開く。ドアをぶっ壊されそうだしな。木製だから。
朝日は気持ちいいが、岩石みてえなおっさんの顔面は朝から見れたもんじゃあないね。
「……呼んでねえし。何しにきたんだよ。飯ならウォルウォが運んだろ」
「あのような粗末なものが、この王者の糧になれるとでも思うておるのか。ふざけるでないわ。まあ、酒は悪くはなかったがな」
「朝から飲んでんのかよ……」
ウォルウォめ。こんなやつに贅沢なんてさせなくていいのに。
「夜も飲んだぞ。褒めてつかわす。我が国との交易を開くつもりであれば、あの酒は高値で取引してやってもいい」
「そうかい。こっちも別にかまわんぜ」
どうせクク村のアホのゴブリンどもがアホほど作ってウォルウォがアホみてえに勝手に持ち込んだアホリン酒だしな。
ウォルウォとレンがオアシスに住んでる限りは無料での供給が途切れることはなさそうだし、横流しするだけで金になんならリベルタリアにとっちゃありがてえ話だ。
ひゅ~、中抜き最高!
「んで、何しにきたんだ? さっきも言ったが、俺ぁ別に呼んでねえぞ?」
「いいや、呼んだ。貴様は昨夜、釣りでもしたければこいと余に言うた」
「あ~」
マジできやがったのかよ。社交辞令って言葉知らんのかね。
「ちっ。しゃあねえ、ちょっと待ってろ」
俺は家に引き返して、玄関に立てかけておいた釣り竿を手にする。ちょうど朝食の皿を洗い終えたルランゼが、エプロンで手を拭きながら首を傾げてきた。
「今日は釣りをするの?」
「ガイザスがな」
「へー! あの王様、そんな趣味あったんだぁ」
「知らんよ」
どちらからともなく近づき、口づけを交わす。
直後、勝手に玄関のドアが開かれた。
「遅いぞ、ライリー。いつまでこの王者を待たせるつもり……だ……」
「──!」
ルランゼが大慌てで俺を突き放して、恥ずかしそうにそっぽを向く。
「貴ッ様ァ……、大王たる余を待たせておきながら、女などとイチャついておるとは何事かッ!!」
「いや、おまえ。いつまでもくそも、数えるほども待ってねえだろ!? これだから高貴なご身分のやつらって面倒くせえんだ! あと一応言っとくが、俺の妻も魔王だからな。おめえは一国の王に過ぎんが、こいつはルーグリオン全土を支配していた大魔王様だぞ」
「む」
赤くなってもじもじしているルランゼを、ガイザスがギロリと睨んだ。
だが。吐き捨てる。すぐに。
「そうであったな。王者たる余の大敵であったほどの恐るべき存在が、たかが勇者風情に籠絡されおって。不甲斐なき話よな、ジルイール」
「えへへ……。でも、ライリーの妻の方が、魔王をやってた日々より毎日楽しいよっ」
ルランゼが嬉しそうに身体をくねらせた。
んあああ。すき。
もうね、愛しくて可愛くてギュゥってしちゃう。もう一回キスしようとしたら、両手で頬を挟まれてクイってされたけど。
あいかわらず、人前じゃだめなんだなあ。
「フン」
ガイザスが鼻を鳴らした。
どうやらガイザスの中で王という存在は、神様かなんかと同等らしい。おそらく、王となった俺と、元大魔王であるルランゼは、ある程度は認められているのだろう。
「まあよかろう。それが余の竿か。よこせ」
「ああ。ほいよ」
仕掛け付きの竿を投げて渡すと、ガイザスは眉間に皺を寄せた。
「貴様の分はどうした?」
「あ?」
「これは余の使う竿だ。貴様も竿を持ち、付き従うがいい」
「……死んでも嫌だねェ!」
ガイザスの額に血管が浮く。
「王の命令だ。従え」
「や、一応俺も王になったし」
「──ッ」
す~ぐ怒るな、こいつ……。
顔面が溶けかけの溶岩みてえになってら。
だが、嫌なもんは嫌だ。
「だいたい、何が悲しくて岩石みてえな顔面したオヤジと湖でデートせにゃならんのだ。アホか。寂しいなら誰かお供をつけてやる。ちょっと待ってろ」
ウォルウォとかシュトゥンとかな。ムサいもの同士で仲良くやってりゃいいんだ。あと口うるさいラズル爺さんとかもいるぞ。
「断る。貴様がこい」
「じゃあリータっつー女はどうよ、炎のような赤髪とルビー色の瞳を持った、未だその身に汚れを知らねえ、それはそれは美しい乙女だ。ちなみに連合軍を追っ払った日、空を灼いたのは竜だが、大地の火は全部こいつがやった。超有能だぞ。あと、おっぱいがでかい」
ちょっとバーサーカー入ってる精霊王で、なおかつ性格にかなりの難ありだけどな。
「四の五のうるさいぞ、貴様。余が貴様と行くと決めたのだ。さっさと支度をせぬか」
「なぁ~んだよぅ、もう! あ、おまえ、さては小舟から俺を突き落として、浮いてきたところをオールで頭とか叩いて沈めるつもりだろ!? 言っとくけど、俺は泳ぎも達者だからな!」
「フン、そのような卑小な真似を、偉大なる王者であり、誇り高き戦士でもある余がするものか。それに余は泳げぬ。貴様にその気があればひとたまりもないわ」
「お、おお……」
自分から弱点を白状してるよ。
だからこそ、余計にこいつの目的が見えてこねえ。絶対、俺と行くよかリータみたいな美女とデートした方が楽しいのになあ。俺でもそうするよ。リータ以外とならだけど。小舟デスマッチとかさせられそうだしな。
ルランゼがくすくす笑いながら、俺に別の竿を手渡してきた。
「付き合ってあげなよ。そこの王者さん、結構必死に頼んでるように見えるよ」
「だぁ~ってよぅ~……」
「いい加減うるさいぞ、ライリー。さっさと支度をしろ」
いちいち命令するんじゃあないよ、ほんと。
「はぁ~も~」
俺は竿を担いで、仕方なく家を出る。
ふと気づくと、ドアの横にレンが立っていた。心ここにあらずといった具合に、俺とガイザスの間で交互に視線を揺らしている。
「おう、レン。どした?」
ハッ、と気づいたようにレンが目を見開いた。
そして頬を染め、口元に両手をあてて。
「………………尊い……」
そう呟くと、さっさと踵を返して去っていく。
「お、おい、レン?」
呼びかけに振り返り、レンがもう一度呟く。
「……尊いですね……」
「何が!?」
そして去っていった。
「何しにきたんだ、あいつ」
「余が知るか」
だが次の瞬間、俺は気づく。
あの聡い娘のことだ。意味のないつぶやきなどするわけがない。ならばレンは、忠告をしにきたのではないか、と。
ゾク、背筋に悪寒が走る。
俺は慌ててガイザスに言い放った。
「ガイザス。い、一応言っとくが、俺に男色の趣味はねえからな?」
結構いるのだ。特に若い時分から女に不自由をしない立場にある王侯貴族どもには、そういう趣味のやつらが。
ガイザスがくわっと目を見開き、雷轟のような大声で叫んだ。
「気ッ色の悪いことをッ、抜かすなァァーーーーッ!!」
「あはい」
叱られた。泣きそう。
仕方なく、とぼとぼ歩きながら小舟へと向かう。
気まずい。せめてあとひとりでも誰かいれば、もう少し間も持つだろうに。
「──ヘッヘッヘ、ゴッスジ~ン! ゴッスジィ~ン!」
「おっ、犬ぅ!」
犬がものすごい速さで駆けてくる。こいつがいれば多少なりともこの空気も打破できるはずだ。俺は両手を広げて犬を迎えるべく、中腰で待った。
が、犬は俺の背後のガイザスを見るなり、直前で四肢を滑らせて方向転換する。
「ヒェ!? アッ、イ、犬、ドランゴサァ~ン、呼バレテタッタッタ、スタタタタ」
「嘘つけコラァ!」
逃げやがった……。
仕方なく、俺はガイザスとふたりきりで湖へと漕ぎ出した。
誰得展開を絶賛暴走中!
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今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。




