第86話 オアシス面子の解散
前回までのあらすじ!
人魔戦争が起こるよー!
考えた。足りねえ頭でこの先どうすりゃいいかをずっと考えてた。
オアシスに戻ってからもだ。ルランゼを泣かせねえ方法で、俺自身にいま何ができるかを脳みそ振り絞って考えた。
人類領域に出かけて探りも入れた。当然、勇者時代の伝手を頼ってザルトラム王国以外の国にも踏み込んだ。だが、どこの国も、民や末端組織は何も知らねえ。情報が開示されてねえんだ。
俺たちがヘタに聞き回ることで、尋ねたやつらが囚われる可能性を考えると、こっちから核心に触れることもできず、やきもきとした日を過ごした。
けれどある日、とある情報をつかむ。
そいつは大陸外からやってきた船乗りだった。つまり、この大陸のどこの国にも所属していない男だ。その船乗りが言うには、例の短剣に刻まれていたジギル帝国が、自国戦力では到底使い切れない規模の武具を大陸外から大量に仕入れているのだとか。
決まりだ。連合軍用だろう。
でなければ、ジギル帝国の戦力人口では使い切るに百年は有する量ということになる。百年も武器を保管していたら、使う前に錆びらあな。そも、使うあてもねえもんを百年分も買い占めるほど愚かな国じゃあない。なんせジギルは商業大国だからな。
それからおよそ一ヶ月。
おそらくもう開戦まで秒読み段階に入っているはずだ。
だから、俺は――。
そいつは喜色満面の笑みで俺に向かって手を振った。
「あはっ! ライリーの方から逢いにきてくれるなんて初めてじゃん! やっぱあたしを殺りたくなっちゃったっ!? んんっ、想像したらゾクゾクしてきた!」
一緒にすんな。ポジティブバーサーカーめ。
正直こっちはげんなりだ。だが背に腹は代えられねえ。
「よぉ~……」
俺は魔族領域ルーグリオン地方の、とある火山地帯にいた。
植物もほとんどねえ。硫黄の臭いと熱気、頻繁に起こる地震に、岩石の裂け目から噴き出る間欠泉。足場は冷えて固まった溶岩だが、ところどころまだ赤く沸いている。間違った踏んじまった日にゃあ、靴裏が溶けて足がおじゃんだ。
見える生物と言やあ、炎色の蜥蜴がちょろちょろ走り回っているくらいのもんだ。や、サラマンダーを生物と呼ぶにゃ、ちょいと抵抗があるが。ま、精霊だ。下位のな。
いやはや、ヒトの住むとこじゃあねえな。まったく。
俺は額の汗を拭った。
「こっちはあんましきたくなかったんだけどなあ。やむにやまれぬ事情があってな」
炎の精霊王イフリータ。
溶岩地帯に居を持ち、そいつはえっちらおっちら山を登ってくる俺を冷え固まった溶岩の岩石に腰を下ろし、肉感的な足を組んで見ていた。
う~ん、足の隙間から見えそうで見えねえ。
ちなみにルランゼは連れてきてねえ。
同じ目的を目指している限り、あいつは大丈夫だからだ。いまルランゼには、魔都ルインへの伝令に走ってもらっている。ついでにカテドラール領の領主となったラズルに、ある願いを頼むためでもある。
で、俺はサクヤの剣を杖にして、汗ドロドロで活火山登頂ってわけよ。
「しんどそうだねェ? 場所移す?」
「その方がありがてえ。熱すぎるし、ガスで呼吸は苦しいし、こんなところじゃ二割も力を出せねえよ」
「あっははっ! あたし的にも、それじゃ意味ないかんねェ! でも、一応こんな山でもあたしん家なんだから、あんま悪く言わないで? ヒトの身からすれば、ぼやきたいのもわかるけどさ!」
「そいつぁ悪かったな」
俺もオアシスを悪く言われりゃ気分が悪い。
だが、イフリータは炎色の髪の下で魅惑的な笑みを浮かべたままだ。上機嫌なのさ。よほど俺と殺し合いがしたかったと見える。
「けどさァ、どういう風の吹き回し? 逃げてたよねェ? あたしから」
「だっておまえ強えもん。殺り合ったら殺されるかもしんねえだろ」
イフリータが不満げに唇を尖らせた。
「ライリーってさァ、いつも自己評価低いよねえ~。あたしン中ではさ、あんたもう成体の竜くらいの強さのイメージなんだけどォ?」
「……あほか……」
こんなしょぼくれたおっさんを捕まえて竜とか。ぶっちゃけ炎竜の二代前の成竜にゃ、手も足も出んかったわ。
尻を滑らせて、イフリータがスカートをなびかせながら俺の前に降り立つ。熱気がむわっと上がった。まだ戦闘態勢でもないというのに、おっそろしい威圧感だ。
ワンパンで頭粉砕されそう……。やっぱ勝てそうにねえなァ……。
とりあえず本番をおっ始める前に、精神攻撃を与えておくか。こいつが羞恥攻撃に弱いのはすでに経験済みだ。
「くく。パンツ見えたぞ」
俺はどすけべ顔でサムズアップをしながら言い放った。
ところがイフリータはにっこり笑って。
「パンツくらいなら別に平気! 見たい? 見る?」
ええええ……。効かねえ……。弱点なくなったの……?
「いや、情緒がねえのは、ほら、その……な?」
なんっっっっで俺が押されてんだ! く、素直に乗りてえところだが、いざとなったらルランゼの泣いてる顔が頭にチラつきやがるぜ!
そんな葛藤をしていると、イフリータが軽い調子で言い放った。
「だってさぁ、蹴ったり殴ったりしてたら、そりゃ見えるじゃん? だから~、中身まで見えてない限りはもうあきらめたんだっ」
「……思い切りのいいやつは嫌いじゃねえよ……」
「あはっ、嬉しっ! ライリーみたく強いやつは好きだよォ! ぶっ殺したくなっちゃうからっ! うちら相思相愛だねェ!! あっははははは!」
やめて! その歪んだ愛情を俺に向けないで!?
「で、さっきの質問に戻るんだけどさ、なんで殺し合ってくれる気になったの?」
「あ~。おまえが欲しくなった」
イフリータの眉間に皺が寄る。
「はあ。はあ? なに……? いまの……?」
「おまえを張っ倒して、俺のものにすることにしたんだ。ちょいと事情があってな」
イフリータの頬が一気に染まった。
「ちょ、ちょちょっちょっちょ――な、な、何言っちゃってんの!? え? 怖っ! マジで何言ってんのライリーッ!? あたしのことカキタレにするつもり!? 熱くて脳みそ湧いちゃったッ!? 今日のあんた怖いよっ!?」
おお。これこれ。やっぱこの表情だよな。うんうん。弱ってる女は可愛いわ。
情緒が出てきた。おもくそ誤解されてるが、せっかく精神攻撃が効いたんだ。わざわざ訂正してやる義理はねえ。
「俺が勝ったら、おまえを俺に預けてくれ。絶対に後悔はさせねえぜ」
「だ、だからどういう意図でそんなこと言ってんのってぇぇーー!」
俺は険しい表情で拳を握りしめ、赤面するイフリータに歩み寄る。
イフリータが不安そうな表情で両腕を胸の前に持ってきて、数歩後ずさった。けれどもすぐに溶岩の岩壁に背中を当てて、至近距離に迫った俺を見上げる。
怯えた瞳。炎のように揺れている。
瞬間、俺はイフリータの肩越しに溶岩壁に手をつく。壁ドンというやつだ。
「ひ……!」
あえて低く渋い声で、その耳元に囁く。
「俺のものになれ、リータ。そうすりゃ退屈とは無縁の人生を送らせてやる」
「……な、に……を……?」
すっと腕を戻して、俺は踵を返した。
決まったぜ……。
「まあ、俺の寿命が尽きるまでの契約ってことでいい。詳しくは勝敗を決したあとだ。さあ、とっとと山を下りるぞ。モタモタすんな。急いでんだ、こっちは」
「は、はふ……うぃ?」
つか、こんな場所で戦ったら、三割あるかないかの勝率が完全消滅しちまう。せめて火山からは離れた麓、欲を言えば水場のあるところじゃねえと。
息をゆっくりと吐く。
負けられねえ。ここで負けちまったら、何もかもが最悪の方向に向かう。どんな手を使ってでも勝たなきゃなんねえんだ。
そうして静かに告げた。
「リータ。本気の俺と戦いてえなら、これが最初で最後の機会だと思ってくれ。だから、散々逃げてた俺から言えた義理じゃあねえが、頼む。おまえのすべてを賭けて、俺と全力で戦ってくれ」
「う、うん……。うん……わかった。……全身全霊でライリーのこと、殺すよ」
「クカカ。ありがとよ」
しばらく歩いて。
やっぱなんか後悔してきて。
立ち止まって、俺は頭を掻きながら振り返った。
「あ~、なんだ、やっぱ殺さないで? 俺まだ死にたくない。ほら、俺っていま新婚さんだから。ね?」
先ほどまで複雑な表情をしていたイフリータだったが、この一言で表情が変わった。
戦闘狂そのものに戻っちまったんだ。
「ううん、やだっ殺すっ。あたし結婚してたの知らなかったし、だとしたらあたしのこと愛人にしようとしてたってことじゃん? そりゃ殺すよねーっ! ……絶ッ対ッ殺すッ!」
ごもっとも……。
なんであんなこと言ったんだ、俺ぇ……。
例の調査後にルランゼと決めたことは一つだ。
どれだけ考えたって、俺がガイザスを暗殺する以外に連合軍の結成を止める方法は思いつかなかった。けれど頭を抱える俺に、ルランゼはこう言ったんだ。
――ここでは魔族と人間が、こんなに仲良く暮らしているのにね。
正直言って、人類連合軍の進軍を止める方法は、最初から思いついちゃいたんだ。たぶんルランゼもな。
互いが互いに遠慮して、言い出せなくなっていた。魔王として苦しんできたルランゼと、勇者として擦り切れちまった俺だから。ずっと思いつかないふりをし続けてきた。
だが、もうここまでだ。これ以上時間をかけたら、取り返しのつかない戦争が起こってしまう。
だから俺は声を絞り出した。
――オアシスを……独立国家にしよう……。
むろん、それには時間がかかる。本来ならば到底間に合わない。
国民もろくにいやしねえ。だが領地がどこの国家にも属していない場合は、その領地は主張を開始した者の所有地となる。
そいつを一国と認めるか認めねえかは、各国家元首次第だ。つまり、ルナやガイザス次第。
ルナは問題ないだろう。だがガイザスは間違いなく兵を送り込んでくる。それもザルトラムの軍だけではなく、連合軍を投入してくるだろう。どのみちルーグリオン地方に攻め入るには、砂漠越えが必須となるからな。
やつの目にオアシスは、さぞや邪魔に映ることだろう。
そして、そのときが俺たちに与えられる、最初で最後の機会だ。
領土侵犯を理由に、連合軍にオアシスの圧倒的火力を見せつけ、全軍から戦意を奪う。完全に撤退させるんだ。
オアシスと事を構えることは、決して割りに合わないのだと、そう思い知らせる。
だがそれにはルランゼと炎竜だけじゃまだまだ火力が足りねえ。数名でいい。たった数名でいいんだ。
炎竜の全力ブレスに、ルランゼの光線・結界魔術。そしてイフリータの轟炎に、欲を言えばラズルの結界魔術や、防ぐことのできねえ咆哮を放つフェンリルにも手伝って欲しい。
そのために、オアシスの面子は一度解散した。
俺はイフリータの調伏と勧誘のために、火山地帯へ。
ルランゼはルナへの伝令とラズルの力を借りに、魔都ルインへ。
炎竜はちょいと頼りねえが、ウォルウォとレンのもとへ手紙を持たせた。
犬はさらに頼りねえが、フェンリルのところへと走らせた。
正直やりたかなかったが、仕方ねえ。
――俺たちが、世界の抑止力になる!
楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。
今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。
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『少女勇者さんと、魔族のお医者さま』
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