第82話 雄犬は精霊王にも牙を剥く
今回だけの注意!
視点キャラの知能レベルの影響により、読みにくい文章になっております。
吾輩は犬である。名前がすでにもう犬である。
ゴスジンが旅立ってから早四日。オアスッシにて吾輩は一日千秋の思ひで、あの戦いの日々を生き抜いた戦友である我が友、ドランゴサァ~ンとともにその帰りを待つ日々を送っている。
ゴスジンは旅立つ日、何ゆえ連れてってくれんか~と泣き叫ぶ吾輩を見て、熱き漢の瞳でこう言った。
「犬、畑を頼んだぜ。毎日適当に水まいといてくれるだけでいいからよ」
そうか、そうだったであるか。ゴスジンはただただ吾輩を置いて去ったわけではなかったのだ。
おまえにしか任せられない。そう言われたのである。
吾輩という絶大なる信頼を置く相棒を断腸の思いでオアスッシに残すことによりて、ゴスジンは背後の憂いなく旅立つことができるのだと、賢明なる吾輩は思い至った。
だから、雄一匹、犬。決断した。
地面を叩いていた犬の前脚は、気づけばサムズアップップだった。
吾輩は涙を隠し、その日から一所懸命に畑にお水をまいた。ドランゴサァ~ンもまた、吾輩の頭の上でケェケェ応援してくれた。正味の話、重いから下りて欲しかったけど、無碍にはできぬ熱き想ひがそこにもあった。
あった? ある? ドランゴサァ~ン?
ドランゴサァ~ンは吾輩の頭の上でぐっすりだった。
そんな日々を過ごして四日と半日。
ピンチ~がやってきたのである。
赤き雌である。赤き雌がオアスッシをご訪問されたのである。
「へえ~! アッハ、最近ここに出入りしてるやつがいるって噂を聞いて見にきたんだけど、キミ、ライリーんとこのぽんこつペットじゃん! キミがいるってことはさァ、やっぱライリーもここにいるってことだよねェェェ!?」
恐ろしい笑顔。炎のような色をした大きなお目々をグリングリンにひん剥いて。
瞬間、吾輩の尻尾くるりん。股間ぱぁんになった。
はわわ~。犬、死ぬ。もう死んだ。炎の妖精王サァ~ンのヒトである。
赤き雌は周りを見回して、頭をぽりぽり。
「んでも魔力感じないなァ。ねえ、ライリーいないの?」
応えぬ! 例えこの万民を惑わす可愛らしき毛皮をむりやり剥がされようとも、雄一匹この犬、ゴスジンを裏切ることなどあり得ぬ! たとえ犬のこと置いて、ゴスジンが嫁御様だけ連れてオサンポに出たとしても!
犬……置いてかれた……。
「ゴゴゴスゴスゴスジン、イ、イ、犬オイテ、オサ、オサ、オサンポッタ? クゥ~!」
「へぇ~、そうなんだぁ。残念」
本能が! 犬の本能が! 本能が悪い! カラダがオサンポを求める!
かくなる上は犬が、この赤き雌をやっつけることで、ゴスジンに褒めてもらう他あるまいよ!
吾輩は覚悟を決めて、ドランゴサァ~ンを頭の上から下ろした。
ぽい、ドテってなった。
友よ。これよりは修羅の道。自ら死の淵に向かいし犬に、付き合う道理はないのだぜ。
クゥ~、犬カッケ!
そうしてすっくと立ち上がり、愚かにも吾輩に背中を向けてまだキョロキョロと辺りを見回している赤き雌の背後に正々堂々と忍び寄り。
――殺れる!
「~~っ!?」
いまさら気づいたとてもう遅い! かつて魔王城にて凄腕の魔人サァ~ンをも沈めた、犬の必殺六連肉球を喰らうがいい!
「オテ、オテ、オカワリ、オテテテェ~イ! …………決マタ……」
「あっはっ! こそばいって! 何、おまえ? あたしのこと好きなの? アハッ、だったらちょっとだけ遊んであげよっか~っ!?」
ひぇ……っ!? ぜんぜん効かん……!? い、命を弄ばれちゃう……!
赤き雌の禍々しき両手が吾輩に伸ばされた。むんずと吾輩の頭部をつかむと、摩擦熱を利用し、発火を促すかのように激しく動かされる。
「よ~しよしよし、わしゃしゃしゃしゃ~っ!」
「ギャギャギャッフン……ダ? ワッホ、ウッホ! ヘッ、ヘッ、ヘッ、ヘッ!」
「おまえ、かぁわいいねェ! 飼い主はあんなえっちおじさんなのにねェ? イヒヒ!」
何たる魔性。魔性の雌。誘惑。
気づけば吾輩は転がって腹を見せてた。
「よしゃしゃしゃしゃ! ねえあんた、あたしがライリーを殺したら、あたしんとこにおいでよ!」
「ハ!?」
その言葉に吾輩は覚醒した。
慌てて飛び起き、ドランゴサァ~ンのところまで逃げ戻る。
「ドランゴサァ~ン!」
――ケエ!
ドランゴサァ~ンはすかさず吾輩の頭に跳び乗った。
合体は完了した。
すまぬ、すまぬ、黄泉路へと付き合ってもらうぞ、友よ。すべては、我らがゴスジンのためゆえ、不甲斐なき犬を許せ。
吾輩は号令を発した。
「ドランゴサァ~ン、ファイアァァ~~~!」
――ケェ?
長い首を傾げて、吾輩の顔を覗き込む。
「ゲボォ、ナルヤツ。出ス? 感ジ? 強メニ?」
――ケェ!
我が意を得たりと言わんばかりに、ドランゴサァ~ンがうなずく。しかし同時に、赤き精霊王サァ~ンが近づいてくる。歴戦の犬である吾輩を舐めているのか、ノーガードで両腕を広げて、ぶるんぶるんのお乳を揺らしながら。
「ねえッ、何やってんのさァ? こっちおいでよォ! 遊んだげるからさァ!?」
ひぇ……! 犬、また誘惑されちゃう……!
そうはさせじと、ドランゴサァ~ンがチャージを開始した。
――ケェェ~~~~…………ッ!!
橙色の小さな閃光が空気中からドランゴサァ~ンの口内にいくつも集まってくる。ドランゴサァ~ンのお胸が、精霊王サァ~ンに負けじとぷっくりぽよんぽよんに膨らむ。
チャージ完了なり。
「ん? あれ? あれれ~? その子、よく見りゃ鳥じゃないじゃん! え? マジ? すっげ! ちっこすぎて気づかなかったけど、もしかして火竜っ!? や、炎竜!? へえ~! こりゃまた珍しいねっ!!」
――~~ッ、オボエブッシャァァァ!
「へ? ちょ――わっ!?」
瞬間、渦巻く炎を伴いながら熱線が精霊王サァ~ンに直撃し、彼女を呑み込んで暴れ狂う。なおも威力の減衰はなく、湖の表面を蒸発させながら向こう岸のさらに向こう側に見える魔力嵐を貫通して空に消えた。魔力嵐が真っ赤に染まり、恐ろしい炎の竜巻へと変化する。
もわわわわ、とオアスッシの気温が急速に上昇していく。
フ、またつまらぬものを灼いてしま――。
「――ホァ!?」
「はぁ~っ! こりゃびっくりだねェ!? 竜なんて見たの、何世紀ぶりだろっ!? アッハハハハッ!! 以前火竜とは楽しくブレスの撃ち合いとかしたことあるけど、炎竜はすごいねっ!! あたしの炎に迫る炎熱だったよ! そんなの従えてるなんて、ライリーってほんと何者なのっ! きゅんきゅんしてきちゃう!」
立ってた。元の位置に。余裕で。
ドランゴサァ~ンのドランゴブレスと同じ色に全身を染めて、なぜか真っ裸になってて。
吾輩は思った。
へ、へ、へ、変態だぁ~!
「さ~すがに金属糸の服でも溶けちゃったかあっ。ん~。アッハ、まいっか! えっちおじさんのライリーは幸い留守みたいだし、ここにはコボルトと炎竜しかいないみたいだし? それに、これまたおもしろいものを発見できたんだからねェ?」
全裸の精霊サァ~ンが、狂気に犯された瞳で吾輩たちを睥睨する。ペロリ~ンチョと唇を舌でなめて。
「ねえねえっ、あんたたちさァ、いまのもう一回やってみなよォ! 今度は全力で!」
「……ひぇ……、ド、ドド、ドランゴサァ~ン、モモ、モウ一回……!」
しかしドランゴサァ~ンは吾輩の背中でぐったりと萎えておる。
お腹空いたか、ドランゴサァ~ン。
全裸の精霊サァ~ンが、残念そうにつぶやいた。
「え~? もうダメなの? ん~、まだ子供だからかなァ? …………にひひ、追い詰めたら、もう一回くらいは出るかなァ?」
「ヒョ……」
逃げねば。逃げねば、犬、丸焼きされる。
なのに、後ろ足がガクガク震えて、犬、へっぴり腰。股間に巻いた尾が邪魔でうまく逃げれん。
やがて犬とドランゴサァ~ン、全裸の精霊サァ~ンの影に呑まれた。
「ハワ、ハワワワワン……」
「ほらぁ、撃ちなってばァ! アッハハハハハハッ!!」
泣いた。犬は泣いた。
ももも、もも、もうダメだぁ~! ゴスジン、犬は先に逝って待ってるぅ!
そのときである!
吾輩の敬愛するスーパーヒーローマン、我らがどすけべぃ、ゴスジンの声が遠ぉぉ~~くの方から響いたのは。
「お~い! おめえら、何してんだぁ? てか何事だ、さっきの真っ赤な魔力嵐は! 死ぬかと思ったじゃねえか!」
全裸の精霊サァ~ンが、嬉しそうにピョンと飛び跳ねた。
ぷるるん、揺れた。
「あっはっ、ライリーじゃ~んっ! やったネ! や~っと殺し合えるっ!!」
でも、すぐに残念そうに肩を落とした。
「……あ。だめだ。あたし全裸だった……。う~、せっかくのチャンスなのにぃ~。あ~んもう、ツイてなぁ~い。――ねえ、そこのワンコくんさァ」
「ヘァッ!?」
「ライリーにまたくるから~って言っといて? じゃあね! 絶対、絶対だよ? 絶対くるからねっ!? また遊ぼうねっ!!」
全裸の精霊サァ~ンは遠くのゴスジンと嫁御様に手を振ると、くるりとプリケツを向けて、犬より速い足で走り出す。そのまま炎色の軌跡を残して遠くの方の魔力嵐に飛び込むと、オアスッシの外へと帰っていった。
助かった~。さっすがはゴスジン。実に良き間。
それからしばらく、ゴスジンと嫁御様が仲良うお手々を繋いで犬の近くにやってくる。本来であらば犬たるもの、ゴスジンを自ら出迎えるが役割ながら、腰が抜けたままにて候。
「戻ったぞ、犬。さっきまでここに誰かいなかったか?」
「変態サァ~ン? マタクル、言テタ! 犬、ドランゴサァ~ンとガンバタ! ヤッツケタ!」
「そうか。おめえが追い返してくれたんだな。えらいぞ、さすがの番犬だ。サスケンだ」
ゴスジンが屈んで、犬の頭をなでなでしてくれた。
ウッホ、ワッホ、コレコレ。昨今では嫁御様の尻ばかり撫でるものであるからして、犬は間接的にあの尻に頭をこすりつけるしかなかた。
ゴスジンが嫁御様を見上げてつぶやく。
「てか、あの魔力嵐を抜けてこられるレベルの変態ってなんだよ。よくよく考えりゃかなり怖えな。不安になるわ。ルランゼ、下着とか減ってねえか調べといた方がいいぞ」
「う~ん。そうだね。わたしたち二人だけだから、これまでなぁなぁにしてたけど、うちにもやっぱ鍵とか付けた方がいいかも。ライリーが留守にしてて、わたしだけのときに変態さんに侵入されたらヤダもん」
嫁御様がゴスジンにそっと身を寄せると、ゴスジンが嫁御様の尻に手を置いてもっと近くに引き寄せた。
チュッチュしとるな。犬を差し置いて。
「そいつぁ気の毒だな。変態の方が」
「えへへ」
クゥ~!
イチャイチャしてないで、犬ももっと撫でて!
犬、大金星!
負け知らず!
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