第45話 追っ手は場所を選ばない
前回までのあらすじ!
おっさんの弱点を的確についてくる娘登場。
とはいえだ。
出られなくなっちまったんだよなあ、俺。ルーグデンス監獄からさ。
「ルナちゃんさあ」
「何だ?」
「気を悪くせずに聞いてほしいんだが、あの乳デカの偽魔王は誰? 俺はてっきりさっきまで尻デカのあんただとばかりに思ってたんだが」
「少しは気を遣え。わたしも女だぞ」
しまった。紳士の俺としたことが、余計な一言を付け加えてしまったか。
俺は爽やかな笑顔で親指をビッと立てた。
「フ、俺は尻のでけぇ女もイケる口だぜ」
「最高にキモい」
「それはやめろ! その言葉だけはマジやめろ! すんごい抉ってくる! おまえみたいな美少女が男性に言っちゃだめな言葉ナンバーワンだ! わかったな!? これはおまえの今後の人生のためを思って忠告してやってんだぞ!」
胸で両腕を組んで、ルナが俺を上から睨めつけた。
「わたしが美少女だというところだけわかった。他は理解できん。あいにくとわたしは男じゃないからな。勇者キモリー」
もうそれただの悪口だよ。いや、さっきのもすでに悪口だけどさあ。
「く……。いや、いまは話を戻そう。偽魔王だ」
あそこまで似ているんだ。変身魔法を駆使しても、さすがに骨格や体型までは変えられない。せいぜいが、自分とは別人になりすます程度にしか使われない魔法であって、特定の誰かになりすませるようなものではない。
なぜなら変身魔法とは、あくまでも体表に幻を纏うだけのものだからだ。つまり、大きすぎるものを小さく見せることはできないんだ。
俺は触ったからな。実際に。ばるるるんって、やぁ~らかかったなぁ。
「正体はわたしにもわからない。だが、父と何らかの関わりのある人物ではあったと考えている。姉様の乳母だったカエルラか、もしくは教育係の爺やなら何かを知っているかもしれない」
「カルエラは知らなかったぜ。フェンリル伝いに会ったんだ。彼女は王座の魔王について、何も語らなかった。ただ、ルランゼは絶対にああいうことはしないし、ルナもそういうことをするタイプには見えなかったってことだけ言ってたな」
ルナが眉間に皺を寄せて、微かに顎をしゃくった。
「……カルエラがそう言ったのに、おまえはわたしが偽魔王だと思ってたんだな。なんて失礼なやつだ」
いかん、やぶ蛇だったわ。
「い、いや、だって、俺、おまえの人となり全然知らねえもん! 知ったら知ったでそういうことしそうな性格してるし!」
「よし。シュトゥンに殺させよう」
「やめて!」
あの勝利はほんとに心理戦の賜物でしかなかった。正々堂々何も考えずに力と力のぶつかり合いになったら、もう終わりだ。
「ほんとにやるわけないだろ。もしも、仮に、万に一つでも、おまえが封印術の解除者に設定されていたら、姉様が出てこられなくなってしまう」
「だっろーっ!! ルランゼにとっての一番は、ルナたんじゃなかったもんなっ!? それがっ? 俺っ? かもしんねえしっ?」
ルナの額に血管が浮いた。
「…………解除後に殺させるって選択肢もあるんだが」
「ごめんなさいっ!」
という冗談はさておきだ。
俺たちは同時に表情を引き締めた。ルナが先に口火を切る。
「まあいい。当面の目的は同じだ。姉様の封印を解く。わたしのことなら心配するな。幸いシュトゥンが側にいてくれるから、今度はむざむざ人質にされたりはしない。シュトゥンを監獄送りにしてしまったことは、やつらの痛恨のミスだ」
「ああ。だがここから出る方法がない」
進退窮まった俺に、ルナは事も無げに言ってのけた。
「こんなところ、いつだって出られる」
「はえ?」
「そこらへんはわたしとシュトゥンに任せてもらおう。おまえは外に出たら監守からとにかく逃げろ。そして爺やを捜せ。カルエラよりもずっと以前から王宮勤めをしている魔人族だ。名はラズル。特徴というには少々弱いが、白髪の好々爺だ。身なりはいつもきちんとしている」
「どこにいる?」
「偽魔王に目をつけられていなければ、王宮勤めを終えたいまも魔都ルインの外れに住んでいるはずだ。あの偽物の正体を知っている味方がいるとしたら、爺や以外には考えられない」
無事かどうかがかなり危ぶまれるな。偽魔王の正体を知っているのだとしたら、すでに始末されていてもおかしくはないんだ。
だが、まあ。
偽物が誰であろうと、王座から引きずり下ろさなければならないのは同じことだ。ラズルが見つからなかった場合には、ルランゼを解き放ってもう一度あの偽魔王に会いに行く。
よし。方針は定まった。
「で、どうやりゃここから出られるんだ? あの腐乱死体だらけのエリアからは、どうやったって階段まで届きそうにねえんだが。まさか本気で死骸を積み重ねるとか言うわけじゃないよな」
「それは――」
ズン、と地の底――いや、天井から降り注ぐように衝撃が走った。
「わっ!?」
足を揺らして体勢を崩し倒れかけたルナの腕をとっさに持ち、俺は踏みとどまる。これでも剣士の端くれだ。体幹にゃちょっと自信がある。
天井からパラパラと健在の欠片が降り注いでいた。
「何だぁ、いまのは? ここじゃよくあんのかい?」
「あるものか! 魔法の爆発だぞ!」
「ああっ!?」
俺はルナと視線を合わせた。
「シュトゥンは魔術もいける口か?」
「あいつは根っからの戦士だ。付与すら使えない」
それであの強さかよ。
ウォルウォといいシュトゥンといい、側近団は脳筋ばっかだな。
「囚人の中に魔術師は?」
「いない!」
追っ手かよ! こんなところにまで!?
舌打ちをしてルナの腕を放し、俺は扉へと走った。だが手が届く寸前にそれは開かれて、汚らしい恰好をした囚人が一人転がり込んできた。
俺は反射的にそいつの腕を取って床へと押し倒す。
「誰だッ!!」
「ひ……!」
「ライリー、大丈夫だ。ここの囚人たちは、みんな同胞と思っていい」
俺はうなずき、そいつから手を放した。起き上がる男の前で膝をつき、ルナが尋ねる。
「落ち着け、何があった!?」
「ひ、姫様、大変です! シュ、シュトゥン様が……シュトゥン様が!」
「――っ!」
ルナが扉を越えて駆け出す。俺はすぐさま後を追った。
左右に牢屋が並ぶ廊下を走り、清めの水場へと辿り着く。
「シュトゥン! シュトゥン! どこにいる!?」
だがそこにシュトゥンの姿はない。
二度目の震動が訪れた。
「くっ」
今度は壁にもたれて、ルナは自ら耐える。剣戟の音が天井から響いいてきたのはその直後のことだ。
「上かっ!」
屍のフロアだ。
スカートを指先でつまみ、水場の水をまき散らしながら走るルナを、俺は上階へと続く階段の途中でようやく捕まえることができた。
「放せ、何をする――!」
「下がってろ。俺がいく」
ルナが怒りの形相で俺に怒鳴りつけた。
「わたしに命令するな!」
「あのなあ、おまえさん。もしかしてルランゼと偽者が対峙したときも、そうやって冷静さを欠いたせいで人質にされたんじゃねえのか?」
彼女の唇が大きく開かれ、けれども言葉はなく、歯を食いしばる音だけがした。
「……おまえの言う……通りだ……ッ」
「俺がなんとかする。シュトゥンは俺との戦いで負った傷が癒えてねえ。だからおまえはここにいろ。絶対に上に顔を出すな。何があってもだ。いいな?」
シュトゥンの傷は、心臓近辺の大穴だ。平気な顔をして動いてはいるが、決して軽い傷ではないだろう。それが証拠に、あいつは俺に言った。
不意打ち以外ではもはや戦える傷ではない、と。
「し、しかし――」
「返事をしろ! 早く!」
「ぐ……わかった……ッ。ライリー、あんたに任せたッ」
目に涙まで浮かべちゃってまあ。
口じゃきついこと言っても、相当に情の深い女だ。育った環境が違っても、やっぱルランゼの妹なんだな。
「おお、任せろィ」
俺は穴あきローブの隙間から包丁の柄をつかんで、左手一本で上階へと続く扉を押し上げた。
そんなに強くはないけどいつも頑張る、ステキなおっさん!
楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。
今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。




