番外編② 王者さんの独り言
前回までのあらすじ!
イヌノコカワヨ
ザルトラム王国の誇り高き王者たる余には、二十八名の妻と、そして三十二名の子らがいる。
子らの大半は、十代の頃よりザルトラム王国の各領地に派遣し、将来その地の領主となって治めるべく、勉学武術に励ませている。
ゆえに彼らが余の手を患わせることは、滅多にない。
だが、妻らは違う。
二十代の頃より数年おきに増えていく妻らは、いまも二十代から五十代まで様々だ。彼女らは余を支えるため、王都ザレスの城に留まってくれている。
余は王者の器を持つ者として、彼女らを等しく長く愛してきた。誰かひとりに偏らず、全員を等しくだ。
ゆえにこの数十年は夜にローテーションを組み、彼女らの部屋を毎晩訪れた。それこそ乾く暇もないくらいにだ。
だが、若かりし頃であらば一晩にて複数名の部屋を巡ることもあったが、老いたいまはそれもままならぬ身となってしまった。
はっきり言おう。
…………死んでまう……。
彼女らの年がら年中の求めに応じておれば、余は遠からず最も情けない死因にて散華してしまうことだろう。
余は、もはや子を授かることもないであろう古参の妻らにそれらを話し、情けなくも許しを請うた。部屋は訪れるが、伽はもはや限界である、と。
年老いた妻らは、ともに酒や茶などを酌み交わすことを条件に、快くうなずいてくれた。
さすがは余が選びし妻らだ。
だが、半数を占める各国諸侯より嫁ぎし若き妻らは違う。彼女らは将来的に余の子を授かり、己が故郷の領主とすべく必死なのだ。むろん、自然と求めも激しくなる。
余は夜を越すたびに、窶れていった。
心の友たるリベルタリア王は、二十八名の妻を持つ余を羨むが、それこそ浅慮であると言いたい。まったく、どこまでも愚かなやつよ。
そのようなことだから、魔力嵐を失い、各国より領地を蝕まれるような状況に陥るのだ。
年に一度、数日のみ訪れるあのリゾート地は、いまや余の心のオアシスでもある。何せあそこには若き妻らがいないのだ。
静かな湖畔と、心の置けぬ我が友。愛らしき子らと、可愛らしき珍獣。尊敬すべき偉大なる大魔王に、神秘なる古竜。うまい酒とつまみ。
余は発見したのだ。
地に天の国あり!
いつしか余は、政務に携わる際もその地のことを考えるまでになっていた。あそこには、余の知らぬ世界があるのだ。
だが、あのオアシスが永世中立国を名乗るリベルタリアの領土でなくなるときがくれば、それは余の一年に数日しかない静かな夜を失ってしまうことに等しい。
ならん。絶対にまかり成らん。やつには負けてもらっては困るのだ。オアシスをなくせば、余の運命は絶望と快楽の中での腹上死である。
致し方なし。
同盟国を防衛するためとあらば、若き妻らも納得せざるをえなくなるだろう。夜の奉仕から逃れられると同時に、魔力嵐という絶対防壁を失ったリベルタリアに、絶大な恩を売れる良き機会でもある。
そうと決まれば絵図を作るか。
なるべく長く居座るため、防衛ラインに本格的な営地を築く。
そうだな。小さな街の規模くらいはあってもかまわん。兵と、そして土木に秀でた職人らを連れていく。可能であらば魔術師どもも引き連れ、リベルタリア周辺地区の砂漠の緑化に尽力させる。居心地をよくするのだ。
うむ。アホのライリーにも手伝わせよう。
そうしていずれは開拓地に商人を呼び寄せ、やつらの商売が始まれば、人が根付くだろう。
余は防衛のために、その地に留まることとなってしまうが、これはやむを得ぬことだ。王都ザレスの若き妻らには悪く思うが、これは高度に政治的な判断でもある。
こうしてガイザス王は、ウッキウキで立ち上がった。
──そうだ、リベルタリアへ行こう!
誰得回!
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