57話 呆気ない幕切れ
待機室で待つ俺達。
決勝戦は、4都市入り乱れてのバトルロイヤル形式となっている。西が、前回優勝都市王都 オディール 南にマリル 北がトロレス そして東が俺達メイドスの陣地となった。
各都市の、思惑は別にして鼻っから全てを相手にするつもりの俺達だったが風音の作戦で、マリルとトロレスとは早期に決着をつけるつもりだ。
参加冒険者入場の銅鑼の音が鳴り闘技場へ入場する。
割れんばかりの歓声が闘技場全体を包みこんだ。
各都市の冒険者が戦闘準備に入る。召喚士は印を結び、支援系の回復職は攻撃職にバフを回す。
王都は、すでに5人くらいの小隊を組み各所に移動を開始している。トロレスとマリルの同盟の話は、どうやら本当のようだ。
トロレスが赤い布を腕に巻いている。マリルは黄色い布を巻き、全ての攻撃部隊が王都に向いていた。
「よし、用意するかのう 皆、準備じゃ! 」
風音は依代を2体出す。クロと白い依代は即、巨大化をはじめた。
「マジか… あれ!? 」
「あんなの倒せるのかよ… 」
「ヤバい… あいつらはヤバ過ぎるって… 」
すでに、一部の冒険者達は戦意喪失状態であった。観客の一部も騒いでいる
「あんな化け物… 反則だろう」
「蛇とか… 嫌だわ」
風音は、白い依代の頭に乗り座ると煙草を吸い出した。
「高みの見物と洒落込むかのう クックク 託也 お前のも出しておけ」
「えっ!? マジで? 」
「うむ… 簡単に攻められないところを見せるだけじゃ」
風音が小声で言った。俺は風音の指示でバジリスクを出す。
バジリスクは、俺と然程変わらない身の丈で現れたが手で触れながら思いを伝える。
(攻めて来た冒険者達の排除を頼む… 死なない程度にね 魔獣は喰らっていいよ 巨大化して待機)
バジリスクは俺の話を理解した様子だ。見る見るうち巨大化していく。
参加冒険者達が騒ぎ出す。
「ま… まだいるのかよ もう退場して良いかな? 」
「お… 俺は行かないぞ あんなところに攻めたら死ぬぞ… 」
「たくや 準備は良いか? 」
「うん いつでも行けるよ 頼んだよカリナ」
「了解」
カリナが透明化した。打ち合わせではカリナが俺と声が届く範囲で常に一緒にいるということだった。ゼスから預かった、閃光を放つマジックアイテム フラッシュボムを透明化したカリナが投げる前に教えてくれる。
俺達の準備は出来ている…
例え、開始直後に全ての冒険者が攻めてきても対応する自信はある。
みんなも同じだろう… 気負いも無く自然と構えていられた。
そして、決戦の銅鑼が鳴る。
ドーーーーーン!!
躊躇なし。トロレスとマリルの同盟が王都 オディールの攻撃部隊に突っ込んだ。
「「「「「潰せえぇー! 王都を潰せぇぇー!! 」」」」」
「「「「「うおおおおおおー!! 」」」」」
「左回り込め! 王都の裏を取れー!! 」
かなり激しく、王都を攻め立てるトロレス・マリル同盟。冒険者達の、表情から本気で潰しにかかっているのが解る。
王都側も負けてはいない。前回、前々回の覇者として開始早々やられないように必死だ。
闘技場の至る場所で、剣を交えた金属音や冒険者同士の怒声が闘技場に響き渡る。
「くそっ! こっちには後が無いんだ! 何時までも調子に乗るなよ王都! 」
「毎度、勝てると思ったら大間違いだぜ!! 」
ビーノ達のパーティーも前線に参加している。
だが、王都側の一部小隊も負けてはいなかった。
ギルド本部で絡んできた若い2人組が暴れてる。1人は槍使い、ソードマンの派生職業で上位職ランサーと呼ばれる。槍術スキルを駆使し、攻め込むトロレス。マリル同盟をなぎ倒していた。
「ヒャッハー! この『税杯』で名前を売って、ギルド本部長の持つ二つ名"槍聖"の名を引き継ぐ!! 」
そして、俺とカリナを田舎者と馬鹿にした男が盾と剣を持ち、堅い防御で一歩も引かないでいた。ソードマンの派生職業、上位職クルセイダーである。
しかし、別の前線では、確実に少しずつだがトロレス・マリル同盟が押し始めていた。
「これでも喰らえ! 魔獣どもめ!! 」
同盟側から、魔獣や犬系の嗅覚を潰す匂い袋が召喚士の付近に投げ込まれた。
キャンキャン キューン…
デザートウルフやヘルドックを従える召喚士達が持ち場のラインから下がっていく。
風音は、戦況を眺めつつ解せない顔付きになっていた。巨大化した白蛇の頭から飛び降りゼスに話しかけた。
「ゼス… あやつの感知はどうなっている? 」
「さっぱりだ… こっちに来る気配を感じない」
「あやつ… 王都のオブジェクトを割る気じゃな」
「まさか!? 」
「いや、さっきトロレス・マリル同盟が匂い袋を使って魔獣や犬系の排除をしていた あやつが接近するチャンスじゃ」
風音は腕を組み悩む。
「どっちを相手しても構わんのだが うーん… どうせ叩くなら王都の方が楽しいからのう 託也 カリナ 準備じゃ! 」
「おっけー 何時でも良いよ」
「オブジェクトを割ったら一旦、陣地に戻る 良いか? 」
「「了解!」」
風音はマリル、俺とカリナはトロレスに向かった。
風音の方が、早くマリル側に到着したようだ。
防衛陣が風音に気が付いた。
「き… きた メイドスが」
「うむ そろそろ時間じゃからのう 見学してるのも飽きたので少し遊んでもらおうと思ってのう ワニと遊んでみようかのう クックク」
それを、聞いた魔獣召喚士ジーン。横には召喚したキングアリゲーターが地面を太い尾で叩き付け威嚇している。ジーンは、防衛ラインから少し前に出て風音に答える。
「これはこれは… 大変恐縮ですね 噂通り… いえ、それ以上の兵でしたよ 貴方は」
「ほう… 誰に聞いた? 」
「メイドスにいたビーノです 彼は貴方に敗れたと言ってました そして、剣獣殺を排除。昨日の戦い振りを見たら 今回、一番危険なのは貴方だ!! 」
ジーンの使役するキングアリゲーターの尾が風音に襲いかかる。
しかし、風音にはかすりもしなかった。
「遅すぎるのう… ワニの攻撃は、その尻尾だけか? 」
「クッ… 」
普段は自信に満ち溢れるジーンの表情に焦りが見える。
「ふむ… 何じゃ これで終いのようじゃな? つまらん あまり時間も無いからのう 遊びは、また今度じゃ」
風音は、高速移動でオブジェクトに行くと軽く手を添えて粉々に叩き割った。
パーーン!! バラバラバラ…
一瞬の出来事。
誰一人、反応出来ずに車のタイヤが破裂したような音と共にオブジェクトは吹き飛んだ。
「どれ… 託也とカリナはどうなったかのう」
▽▽▽
「カリナ いる? 」
「横よ」
俺は、カリナと走りながら位置の確認をする。
「このまま突っ込むよ」
「わかった」
俺達は、トロレス陣地のオブジェクトを目指す。気が付いた防衛陣が攻撃の構えを見せた時、カリナが叫んだ。
「行くよ! たくや!! 」
カリナが突然、透明化を解きフラッシュボムを投げ込んだ。
「な… なんだ!? 」
閃光を放った、フラッシュボムを見た防衛陣の動きが止まる。
「くそっ… ただのフラッシュボムか! 」
カリナが閃光を見なかった防衛陣に襲いかかる。
俺は、その隙にオブジェクトを両手風穴で破壊に成功した。
ズゴーン!! ガラガラガラッ…
パーーン!!
同じ頃、風音もマリルのオブジェクト破壊に成功したようだ。観客席からは溜息が聞えてきた。
「「「「ああああー… 」」」」
「なんてこった… 」
「ありえねぇ… 飯代も無くなっちまった… 」
「戻ろう!! 」
俺は、カリナと自陣の防衛ラインまで急いで戻った。
風音は、すでに自陣に戻っていた。
「2人とも ご苦労じゃったのう 後は攻めるだけじゃ!! 」
「「「「おおー! 」」」」
トロレスとマリルは、自陣に戻り恨めしそうに俺達を見て待機室へ戻って行った。
「ゼスは、左を感知しながら押し上げろ サポートにカリナとダムが付け わしは右側を感知しながら押し上げていく 他は中央を押し上げろ 防御はクロだけおいて置く 行くぞ!! 」
「「「「了解! 」」」」
ここで、風音が氷穴を展開する。
前回と同じく、針の形態にして高速回転させながらズンズンと前に進んでいく。王都側の攻撃部隊には、すでに疲労が見える。
しかし、風音は容赦無く氷穴を突き刺していく。
グサグサグサッ
次々と、冒険者達に突き刺さる氷穴。前日より、若干だが針が膨張する時間を早めたようだ。針が刺さると約5~6秒で膨張が始まる。
「グアァァァ!! 足が… 足があぁぁー!! 」
「痛い… 足が破裂する!! 」
次々、倒れていく王都側の冒険者達。その悲鳴を聞き耳を塞ぐ観客達…
防衛陣まで聞えてくる悲鳴に怯える冒険者。
だが、風音の攻撃は止む事は無かった。
俺達、中央の後ろには巨大化したバジリスクが…
ゼスの後ろには、風音の依代 巨大化した白蛇が控えている。
風音は、闘技場の中央に寄り氷穴の範囲を広げていく。
無数の針が、広範囲の冒険者達に突き刺さり数秒後には、その場で蹲り悲鳴を上げるのだった。
「あ… あれは鬼だ 鬼だ!! 」
「こっちにきた… いや… いやぁぁぁぁぁー!! 」
「どけ! 早くどけえー!! 」
ついに、防衛していた冒険者の一部が逃走を始めたのだ。混乱する王都。
「カテリーナ… 」
観客席にいた、ギルド本部長アドルフが最後尾で指示を出していたカテリーナに声をかける。カテリーナの顔からは血の気が引き脂汗を垂らしていた。
すでに、披露困憊な状態であった。
「本部長… 」
「カテリーナ… 降参しろ これ以上、冒険者達を傷つけてはならん… 」
「は… はい」
カテリーナは審判を勤める特務機関員に告げる。
「降参… オディールはメイドスに降参する… 」
ドンドンドンドンドドドドドンドーーン!!
試合終了の銅鑼の音が闘技場に響き渡る。
「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」」
「勝ちおったー! やりおったぞメイドス!! 」
「当たり前だ! 昨日の試合見たら当然だぜ!! やったぜ! 」
「ありがとうー! やってくれたぜ! あんた達最高!! 」
メイドス… 俺達に歓声が沸いた。
しかし、それだけではなかった。別の歓声が聞えてきた。
「化け物どもがー!! 」
「鬼め! とんでもない奴らだ」
俺達に対する野次… 嫌われるよりは好かれたい でも、お前らに好かれたいとは思わない。闘技場に足を踏み入れて戦うわけでもない、お前達に何を言われても響かない。
「クックク 嫌われてるのう お前達は気にすることはない わしのことじゃからな 鬼や化け物とは まさにその通りじゃ クックク」
風音は自分の事だ、お前達の事じゃないとおどけてみせる。
「風音… 」
「かざねさん… 」
「「「風音様… 」」」
「そんな顔するな あんな野次どうてことないわ 上を向け! 」
俺達は顔を上げて闘技場を後にした。
割とあっけない幕切れであった。




