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暴君少女 風音-最凶不死者-  作者: きーぱー
都市税争奪対抗戦編
54/66

54話 兄貴誕生


 第3試合が終わると、『税杯』くじの換金を済ませ支部長ブライト・トーマスと別れた俺達は宿屋へと向かった。


 俺達は、何時ものようにゼスの部屋に集まると面を剥がす。


 「さて、まずはゼスの説明じゃな」


 風音が口を開いた。


 「ゼス どこら変まで覚えておる? 」

 「うーん… ドリボラの防衛が崩れて攻撃部隊が戻り始めた辺りかな… 」


 ゼスは、腕を組み首を傾げてあやふやな記憶を辿っていく。


 「ほとんど、覚えているようじゃな お前はその後、魔獣召喚士の召喚した魔物に手足を噛まれ動きを封じられるのじゃ」


 風音は続ける。


 「わしは、黒布を首に巻く残党達を探してドリボラのオブジェクト付近で殲滅をしていたのだが… 少々、ゼスとの距離が離れてしまった そして、わしが異変に気付いたのは観客の悲鳴じゃった 観客の視線の先には地面に転がされているゼスの姿があった」

 「俺は… 何も出来ないで転がされていたのか? 」

 「当然じゃ、4体の犬っころが両手両足を噛み動きを封じておった」

 「くそっ!… 」

 「わしが駆けつけた時には意識が朦朧としている状態じゃった 出血が多すぎたから無理もないわ そこに、託也とカーベルが駆けつけたのじゃ」

 「わしは… 急いで血を飲ませた これが事の結末じゃ」

 「死にかけたのか… 俺」


 ゼスは少し呆然としていた。事態が、こんな展開だと予想もしていなかったらしい。精々、戦闘中に頭を打って気絶したくらいに思っていたと後にゼスは語った。


 「ゼス 身体に痛むところは無いか? 」


 風音が尋ねる。


 「あ… ああ 特に無い」

 「すまんかったのう… 勝手にわしの血を与えてしまって」

 「何言ってるんだ かざねさん! 俺は嬉しいよ 嬉しいに決まっているじゃないか! 元々、俺の失態でこうなったんだ 普通なら死んでいたのに… それを助けてもらって… 」


 風音の顔から笑みが毀れた。


 風音にとっては、自分の血を与えた事は不本意であったに違いない。だが、ゼスの命がかかっている場面で躊躇している場合ではなかったのだ。退場し、治療士による治療も完全に回復する保証はどこにも無い。


 「風音様… 質問があります」


 カリナが、下を向きながら風音に問う。何となくだが、話の内容を察した風音だった。


 「ん!? どうしたんじゃ カリナ」


 風音は惚ける気だ。ネビルを含めた、裏家業グループの壊滅を…


 「何故、ネビル達のパーティーだけ目が潰されていたのでしょうか? 」

 「何の事じゃ? 知らないのう… 偶然じゃろう」

 「私は… ドラリスの冒険者達が話す内容を屋台の辺りで聞きました。」

 「… 」


 風音は、何も言わず煙草を吸いはじめた。


 「ネビルと、その手下達は全員… 目を潰されていたそうです」

 「わしは知らん 知らんと言ったら知らんのじゃ」


 風音が、返答に困った様子を見せる。


 「風音様… もし、私達のせいなのであれば 何故、一言声をかけて下さらなかったのでしょうか… そんなに… 私達は、頼りないのでしょうか? 」


 「カリナ その件は 俺が、かざねさんに提案した事だ」

 「ゼスさんが!? 」

 「ゼス!?… 」

 

 思わぬ展開に、風音もキョトンとしている。


 「ゼス!? お前は何を言って… 」


 ゼスが、風音の言葉を遮りカリナに事の成り行きを説明する。


 「この先、裏家業をしていたお前達を知る者が居なければ冒険者に専念できるじゃないか 俺達の、仲間になった以上は余計な事を考えて欲しくない 俺は、かざねさんに提案し目を潰してもらった それだけの事。闘技場に立ってからの提案だったからお前達に話をする時間も無かった それだけの話だ」


 「ゼスさん… それは本当の事なんですか!? 」

 「本当だ お前達はどう思っていようが 俺にとっては仲間だし、弟や妹だとも思っている 勝手で悪いがな。 そんな、お前達の不安要素を取り除ければと思うのはそんなにいけなかったか? 」

 「そんな! そんな事は無いです ゼスさん… ありがとうごさいます」

 

 「カリナ お前達も聞いてくれ… 今までやってきた事は、どうやっても消せない それは解っているだろ? 理由は、どうあれ やってしまった事は消せないんだ 一生、背負って生きなければならない それだけだ だが、だからって何も小さくなって生きる事は無い 冒険者になったんだ 冒険者を楽しもうじゃないか!! 俺からはそれだけだ」


 「「「ゼスさん」」」


 「何か、格好良くなったね ゼスさん」

 「よ… よせよ 託也」

 「うむ 格好いいのう ゼス クックク」

 「かざねさんまで 止めてくれよ… 」


 事の真相を知っているのは風音とゼスの2人だけ… 同じ事を考えていたのだろうが風音の様子から見ると提案したのは風音であるのだろう。

ゼスは、困った様子の風音を見て自分が提案したという事で場の雰囲気を変えてしまったのだ。そして、風音が一番伝えたかった『一生、背負って生きなければならない』事をゼスは代弁してくれた。

 

 「話は終わりじゃ! 酒を持ってこい 今日も飲むぞ! 」

 

 「「「「「おーー! 」」」」」


 何時もと変わらない酒を飲む時間となった。

 

 皆に、程好く酒が回り出した頃…


 「へへっー 今日は儲かったな 最高だ! ねっ? ゼスの兄貴! 」


 酔いが回ったのか、カーベルがゼスを兄貴と言い出した。


 「「「ゼスの兄貴!? 」」」


 「ん!? どうしたの? みんな ゼスの兄貴も言ってたじゃん 俺達の事、弟や妹みたいだって へへっ… なんか嬉しかったよ 俺」

 「いや… 確かに嬉しかったのは解る 俺も嬉しかった」


 ダムが言う。


 「うん! お兄ちゃんがいたらゼスさんみたいな人がいいな」


 マリーまで言い出した。


 「お… お前ら 止めろって 何か恥ずかしいだろ」


 ゼスが、赤面して困っている。


 「確かに… 俺も兄貴がいたらゼスさんみたいな頼りになる人が良いな 俺がいた施設は高校卒業すると… あっ 18歳になると大抵の子供は施設から出て仕事に付いたりしてるんだけど、それまでの生活って自分の事で一杯だったんだと思う。良く言えば個人を尊重してくれたっていうか… まあ、今のゼスさんみたく本気になって心配とかしてくれる年上って、俺の回りには居なかったから 何となくだけど、カーベルの気持ちが解るよ」


 「なっ? たくやもそうだよな? たくやも今日から兄貴って呼べよな! 」

 「兄貴か… いいね! 」

 「あたし達は ゼス兄さんて呼ぼうか? カリナ」

 「ゼス兄さん… うん いいかも! 」

 「お前ら… 」


 酒のせいじゃない。みんなの兄貴、ゼスの誕生だった。ゼスは帽子を深く被り照れた顔を隠した。


 風音は、話を聞きながら何時ものように嬉しそうに笑っている。


 話が盛り上がっている真っ只中、ゼスと風音の顔色が変わる。


 「全員、面を被れ ゼス、感じたな? 」


 風音が、小声で面を被れと指示を出す。頷くゼス…

 ゼスは、腰の短刀を抜き玄関に向かう。俺達は戦闘準備に入った。


 「誰だ? 名乗れ!」

 「私は、トロレスのバルド 今回の『税杯』の参加者でトロレスの冒険者を率いている者だ。貴方達と話がしたい… 」

 

 「話は聞えた ゼス 中に入れてやれ」


 風音が中に通せとゼスに言う。


 ガチャッ


 ゼスは部屋の鍵を解錠しドアを開けた。


 「やあ、バルドだ よろしく頼む」


 バルドと名乗る男は、両手を軽く上げ敵対しないとの意思表示を示した。


 「そこの蔭に隠れているのは? 」

 「ああ… 出て来い! 連れてきてやったぞ」


 「その声… ゼス… きっさまー! 」

 「うっ!? お前は! 」

 

 階段の影に隠れていた、もう1人の連れがゼスに向かって怒りを向けてきたのだ。ゼスの反応は、少し焦った様子だ。後退りするゼスに、その人物が飛び掛かった。俺達は、一斉に攻撃する動作に入った。その時、ゼスが俺達を制止する。


 「待った! ちょっとした知り合いだ こいつは! 」


 ゼスに飛び掛かったのは、とても小柄な女の子だった。白と緑を基調にした神官服を着ている。短めの杖を腰に携え、銀髪で髪を後ろで束ねている。白い肌で歳は14歳前後であろう。その姿に俺達は攻撃の構えを解いた。


 「「「「子供!? 」」」」



 「ヒッヒィィ!! 」


 面を被って武器を持つ、俺達の姿を見て女の子が悲鳴をあげた。


 「いい加減、ゼスの兄貴から離れろ」


 カーベルが、珍しく啖呵を切った。


 「あ… ああ はい すいません… 」


 怯えた女の子が、ゼスの胸倉を掴んだ手を外しトロレスの代表バルドの蔭に隠れた。しかし、ゼスの方を向いて再び睨みつけた。


 「まあ 玄関先での話も何じゃ こっちに来い 座れ」


 風音が2人をテーブルに招き入れた。


 一体、俺達に何の話があるのだというのか。代表のバルド…

 そして、ゼスが知り合いだという女の子も気になる。また、一悶着ありそうな予感がした。

 

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