43話 風音の本音
本日はオフである。基礎体力の底上げも続けてやるのは良くないからと身体を休ませる目的で今日一日は休みにすると風音は言い出した。
俺には、以前から行きたかった場所がある。靴屋… 王都でも探してみたがやはり、シューズは売っていないようだ。
店主に、履いているシューズを見せ同じ物を作れるか聞く。無理だと即答された。当然だ… まず、ビニールが無い。ビニールの部分を用意しなくて良いのなら、もしかすると作れるかも知れないと店主が言う。
俺は、紙と書く物を借りて欲しかったシューズのデザインを書いて店主に渡した。ついでに、参考になるならと、今まで履いていたシューズを脱ぎ置いてくる事にした。場合によっては、シューズを分解しても構わないと言い新しい靴を購入して戻る事にした。
見た事も無いシューズに、職人魂を揺さぶられたのか店主は俺が去った後もシューズを手に取り色々調べていた。
▽▽▽
「かあぁー!!… そこが入り口だったのか!? 」
ギルド応接室で、ゼスが天井を仰ぐ。
ゼスは以前、王都に拠点を移し活動している時期に噂の情報を統合すると王都付近に地下遺跡があるところまで突き止めていたのだ。だが、肝心の入り口が解らず調査が行き詰ったと話した。
応接室には、風音・ゼス・ブライト・トーマスの4人がソファーに腰掛け依頼の件を詰めていた。依頼を受けてくれるなら、情報は前もって渡すとトーマスの一言で受ける方向で話は進んでいた。
その情報の1つ、地下遺跡の入り口の情報をトーマスから聞いたところであった。
トーマスによると、王都から南下した場所に巨大な湖がある。その、崖の中腹に入り口があるのだという。続けてトーマスが言う。必要な物はギルド本部で用意するから心配するなと… 何の思惑があるのだろう。
「なんじゃトーマス… 何かあるんじゃな? 」
風音は、こういう事に鋭い。
「ハハハ かざねくんには適わないな 正直、地下遺跡の研究がお手上げ状態なんだ。今回の調査で現状打破を考えているんだが Sクラスの冒険者でも進入出来るようなら各ダンジョン同様に各支部で扱ってもらっても良いとギルド本部のお達しが出たんだよ ただし、強力な魔獣が沸くのであればその話は無くなるんだがね その辺も見極める為に、わたしが同行する」
「なるほどのう… で、依頼はメイドス経由でわしらに回すという事で良いか? 」
「そこは構わない メイドス経由なら、ここにも報酬は入る事になる」
「わかった それなら王都に前乗りしようではないか 何でも『税杯』に国中から人が集まるらしいのう 宿の確保は出来るか? トーマス」
「ああ 大丈夫だ うちのお抱え宿屋がある いくつ取る? 」
「念の為 3部屋かのう」
「了解した 後は報奨金だが… 金貨300枚が基本報奨金で、部屋を1つ発見したらプラス300枚というのはどうだろう? 」
「どうじゃ? ゼス」
「ああ 構わないよ まさか、2~3部屋くらいしか無いとか言わないだろうな!? 」
「無い無い ハハハ 探索班が地下に何かいると報告は記述されている」
「何かね… 当然、魔獣なんだろうなあ」
「前乗りするなら支部長 参加用紙と参加費を用意して欲しい」
「わかった 参加用紙と参加費は今、用意しよう」
「了解だ 本部に預けていいんだよな? 支部長」
「ああ そうしてくれ すぐに鳩で知らせておく」
参加用紙と参加費を預かる風音。
「よし! わしらは明日出発する ゼス 帰るぞ」
風音とゼスは、ギルド支部を後にした。
…
「と、いう訳じゃ 明日出発する 良いな? 」
「「「了解」」」
一通り、ギルド支部での話をゼスが説明して皆が納得した。
「そんなに王都に人が来るなら宿屋も予約されているんじゃない? 」
「問題ない 本部で贔屓にしている宿屋を手配してくれるようだ」
「なら良かったよね それよりも、また財宝とか出るのかな? 」
「可能性は十分あるな 王都にある地下遺跡だ 何も無い方が考えにくい」
「大変じゃなあ… 『税杯』の賞金と調査報酬とは これ以上、金なんぞいらんのになあ クックク」
心にも無い事を、平然と口にする風音であった。
―― 次の日
朝早くから、各自必要な物を大型馬車に詰め込みギルド支部でトーマスと合流するとメイドスを出発した。今回も、風音が黒蓮に乗り策敵を行いながら王都まで進む。今回は、後ろにマリーを乗せて移動していた。
「むむうぅ… マリー羨ましい… 」
カリナは、恨めしそうに馬車の中で呟いていた。
…
無事に、ギルド本部へ到着した俺達一行はギルド本部を尋ねると都市税争奪対抗戦の受付をカウンターで済ませトーマスが手配した宿屋に移動する。
前夜祭まで後5日… そこで初戦の対戦相手が決まるのだという。俺達は、それまで目立たぬように過ごす事にした。
辺に、悪目立ちして事前にこちら側の情報を敵に教えたくないということからだった。すると、風音が袖口から面を取り出す。その面は恐らく"能面"であろう。詳しい事は知らないが能楽や狂言等に使われる少し不気味な面であった。
「カリナは、これを被っておれ」
風音は、次々と皆の顔を見つつ面を出しては渡していった。
「うーん ゼスはこれじゃな! 」
風音が、ゼスに渡した面は口髭と顎髭が生えている面だった。
「これは… 俺だけ髭って… 」
「ゼスは、この中で一番歳上だからのう クックク 似合ってるぞ」
「それにしても爺さんみたいな面だな ハッハハ」
「で、託也はこれじゃ」
俺が、預かったのは何処となく蛇っぽい面であった。
「もっと格好良いの無いの? 」
俺は、風音に聞くと素っ気無く遇われた。
「被ってみよ どうじゃ? そんなに視界も悪くならんであろう」
俺達は、面を被って確認する。風音の言う通り、面を被っている事が気にならない。普通なら面の目の部分が刳り貫かれていて、穴を通して周りを確認するはずだが必要無く、面全体が透明化しているような不思議な面だった。
「まあ 直接、顔に来た攻撃を多少だが和らげる効果もある お守り程度に、外を出歩く時は被っておれ」
風音は、そう言うと煙管を取り出し煙草を吸い出した。俺を横目で見ながら明日、買い物に行こうと言い出したのだ。
「託也 明日は、武具屋に行こうではないか」
「えっ!? 武器はこれがあるけど… 」
俺は、十手を握った。
「クックク 岡っ引きめが そっちではない 防具を買うぞ」
「防具? 必要かな… 」
「鎧じゃなく小手じゃな 念の為じゃ」
「わかった 明日行こう」
すると、カーベルが質問をはじめた。
「あのう 風音様 たくやって風音様の子供なんですか? 」
「「「 えっえええ!!?? 」」」
「カーベル… 涼しい顔して、突拍子も無い事を言い出すのう クックク そうじゃのう… そうといえばそうだし、違うといえば違うかのう」
「風音様… 俺、頭良くないから解んないッスよ… 」
「クックク すまなかったのう カーベル 何処から話すかのう… 」
風音は、腕を組み俺の顔を見つめるとゼスやカリナの顔を見渡した。ゼスは、顔を下に向け続きの話を聞きたくない様子にみえた。
恐らく、カーベルはメイドスで"手足れ"と呼ばれたゲイルとフランの戦闘時に傷を追った時、俺が言った言葉が引っかかっているのだろう。
『「うん… 風音は俺の母親みたいなものだから」』この言葉の意味が知りたかったのだと思う。
「皆 わしと託也の話をこれからしようと思う 聞いてくれ」
やはり、風音も俺と同じだった。仲間になった皆にも、自分達の状況を伝えなきゃならないと思ったのだろう。
風音は"時空の歪み"を見つけた時、この世界を去らなきゃならない事も言うのだろうか…
「まずは、わしの話からするとしようかのう」
皆が、風音を見つめる。
風音は、静かに話しはじめた…
「わしは元々、蛇神として祀られていた神じゃった 何故、神となったかは記憶が無いのでわからんが気付いた時には、そういう立場じゃった 約100年もの間、人間の世界を見守ってきたのじゃが、悪さする鬼が現れてのう… わしを祀っておった人間達を食いおったのじゃ その鬼は全てを食いおった… 大人から子供まで… わしは我を忘れて鬼を殺し、バラバラになった鬼の肉を喰らったのじゃ わしの全てを喰らい尽くした鬼が憎くて憎くてのう 全てを食われたわしは仕返しがしたかったのかのう… 今、考えれば正気の沙汰ではないのう クックク まるで、化け物じゃな… 」
切なく語る風音… カリナは涙を零し聞いている。
「元々、力があったのかもしれんが それ以降は不老不死の身となり今に至っておる 鬼を喰らってから400数十年 500歳の婆じゃ クックク 死ぬに死ねず、途方もない月日が流れていった… この容姿じゃ 子供と遊ぶくらいしか出来なかったしのう たまに、遊んでいる子供に混ざって缶蹴りや鬼ごっこをして暇を潰してきた訳じゃ だいたい、こんなもんじゃ わしの話は」
そう言うと、風音は俺をチラリと見て
「次は、託也の話じゃ こやつは、わしが住む山の祠に捨てられておったのじゃ 生まれてすぐの事じゃろう もう、泣く事も出来ず死にかけておったのじゃ わしは迷った… 人の世界に関わって良いのかとのう しかし、生まれてきた託也に罪は無い わしは、初めて人にわしの血を飲ませた… 賭けでもあったが、わしの血を取り込めば生きるであろうとな だが、わしがそのまま育てる訳にもいかないでのう 昔、遊んだ託也の養父に連絡を取り育ててくれと頼んだのじゃ 源一郎は立派に育ててくれた… これで、察しはついたであろう? わしの血を取りこんだ事で託也にも、わしの能力が一部じゃが継承されたのじゃ」
風音は話を続ける。
「源一郎が、病で死んだ事を機に託也は わしの元を訪れ知っている事を教えてくれと言ってきおった その時じゃ、わしが元蛇神として最後のお役目として守っていた穴に託也が引きずり込まれたのじゃ 別の世界に飛ばされてしまう穴にのう… わしは手を掴み引っ張り出そうとしたのじゃが遅かった わしは、その穴を"時空の歪み"と呼んでおる わしと託也は"時空の歪み"に引きずり込まれて、この世界に飛ばされたのじゃ そして、この世界でも"時空の歪み"は存在していると思うのじゃ それを探すために託也と2人で旅をする事にしたのじゃが ゼスと知り合い、カリナと出会い、カーベル・マリー・アルマ・ダムが仲間となった… 」
「そんな… それでは"時空の歪み"というのが見つかったら 元の世界に戻ってしまうのですか!? 」
カリナ達は涙を流していた。見かねた俺は、自分の気持ちを話す事にした。
「風音 俺、このまま戻らなくてもいいと思っているんだ」
「なんじゃと!? どうしてじゃ託也!? 」
「だって楽しいじゃないか あっちに戻っても、やりたい事も無い 父さんは死んでしまった… 俺は、風音や皆と一緒に旅をしていたい! 」
「それが本当の気持ちなのか? 」
「風音だって本当は皆と一緒に暮したいんじゃないの? 」
「わしは… わしは、お前達と一緒にいるのが楽しくて楽しくて しょうがないんじゃ… 1人で、じっとしながら生きていくのは辛いからのう」
「風音… ずっと側にいるから」
俺は、風音を抱き締めた。今まで泣きたいのを我慢していたのだろう… 風音は俺に、抱きしめられながら大粒の涙を一粒流した… 祠で、はじめて出合った時のように。
今まで黙って話を聞いていたゼスが、鼻を啜り背中を向けながら
「ズビッ… かざねさん… その 元の世界ってのに戻るって言うなら俺はついていくからな これだけは譲れないぜ… 」
「ゼス… 」
風音は、鼻の頭を赤くしてゼスを優しく見つめる。
「風音様!… わたしもついて行きます!! 何と言われようと絶対ついて行きますから!! 」
カリナは、涙をボロボロと落としながら訴えた。そんな、周りの歔欷の声に我慢できなくなったマリーやアルマが声にならない声で
「「わたしも行きます 絶対ついて行きます!! 」」
カーベルとダムも、泣き声を我慢しながら
「「風音様について行きます!! 」」
「グスッ… この馬鹿やつらめが… 」
風音は、ニッコリしてそう言うと酒をゴクゴクと飲み干し眠くなったから寝ると奥の部屋に行ってしまった…




