41話 底上げ開始
41話より都市税争奪対抗戦編となります。
風音は、煙管を忘れたと言い出しギルドへ戻る。カウンターの奥を覗くと支部長はいない。まだ、応接室に残っていると思った風音は、そのまま2階の応接室に入って行った。
「おっ かざねくん これかな? それと話があるんだね? 」
支部長が、風音の煙管を手渡した。
「うむ 例の件じゃ 早速、取り掛かって欲しい」
風音は、そう言うと袖口から『ディオルド硬貨』を2枚取り出した。支部長は驚き風音に尋ねる。
「か… かざねくん こんなに必要ないだろう? 」
「いや、預かっておけ 少し具体的に話をするぞ 紙と書く物を用意せい」
風音は『屋敷』の平面図を書き出した。平面図といっても定規を使って縮小寸法を使った図面ではない。玄人の目から見れば、素人が書く落書きであったのは言うまでも無い。ただ、風音は、こんな風にこうして欲しいと要望を付け加えながら書き足していった。正面に座る支部長は、風音の要望を別の紙に覚え書きする。
「玄関はここじゃ 正面から少し入ったここに2階への階段 2階は個室を10個ほど作って欲しい やつらの部屋じゃ 他にも… 」
こんな具合で、説明する風音の言葉にブライトはどんな家を作りたいのか全貌が見えてきた。特に風音が注文したのが台所だった。3つの釜を同時に使えるように広いスペースが要求されていた。他にも井戸、食糧貯蔵庫などを足していく。
「そしてこっちが… わしが寛ぐ空間じゃ!! 」
正面玄関から、突き当たりまで行くと右に曲がる通路を作り風音本人が寛ぐという離れを建造しろという。そしてブライトの興味を一番誘ったのが五芒星を象る石を家の周りに埋めろと指示される。
確かに、結界に使う魔法は存在する。メイドスの都市全体にも、外敵が街の中に入って来られない様に結界が張り巡らせている。
しかし、風音が言うには招かれない客は門を潜る事さえ出来ないのだという。
逆に、門の外から家の中にいる人間に声をかけ手招きされると入れる様になるのだ。不思議な魔法である…
「と、まあ こんなもんじゃな あんまり遅くなると勘ぐられるかも知れんからのう 今日は帰るとするか 支部長頼んだぞ 即取り掛かってくれ」
「ああ しかし、これだけの規模になると街の職人達だけで対応するのは… 大変な作業量になるはずだ」
「賃金を上げてもかまわん その為の『ディオルド金貨』じゃ 金に糸目はつけん」
「わかった 手配してみる 他都市から応援を頼むとしよう」
こうして、『屋敷』を建造する計角が動き出した。
▽▽▽
ゼスの家に戻った俺達は、洗濯したり、馬に餌を与えたりと各自が進んで出来る事を分担して作業を行っていた。共同生活も自然と板に付いてきた。
ゼスとダムには、馬車を操縦して疲れたろうと休んで貰っていた。カリナは家の中の掃除をしている。
「ゼスさん 洗濯物あれば一緒に洗いますから出して下さい」
マリーがゼスに声をかけた。洗濯は、マリーとアルマが2人でやると決めたらしくゼスや俺の洗濯物まで面倒見てくれるようになった。ただし、ダムとカーベルは自分で洗わないと駄目らしい。今までは、各自で洗濯していたようで急にカーベルやダムの下着などを洗濯するのは抵抗があるらしい。カーベルは裏で巻き割りをしていた。
「ありがとうマリー 籠に入れとくよ」
ゼスは、立ち上がり着替えを洗濯籠に放り込む。俺は、風呂掃除を済ませて風呂の準備をしていた。井戸水を汲み上げて直接風呂に水を張る。すると、アルマが風呂場へやってきて洗濯物を出して欲しいと言ってきた。
俺は、部屋に戻り紙袋に着替えた服や下着を入れてアルマに渡す。この世界の洗濯は手洗いだから大変だなと俺は思った。冬なんて冷たくて手が悴むだろう…
パカッパカッ
馬が、歩く音が聞こえてきた。風音が帰ってきたようだ。
「よしよし 黒蓮 お疲れじゃったのう」
風音は、黒蓮を撫でると玄関から戻ってきた。
「帰ったぞ」
「おかえり」
「おかえりなさい 風音様」
みんなが、今までやっていた作業の手を休め風音の元に集まる。
「ん? なんじゃ 呼んでおらんぞ? 」
「いや、 特に意味は無いんだけど 何時もこんな感じじゃない? 」
「まあ良い ついでだから話しておくかのう お前ら 明日から特訓じゃ」
「えぇぇ!? マジで? 」
「マジですか… 」
「… 」
「『税杯』まで特訓じゃ 少しでも底上げしないと やられるぞ? 」
「強いのいるの? 」
「わからんから底上げしとくんじゃろう 基礎体力作りといったところじゃな わしも、皆のスキルを把握しきれていないからのう まずは、お前達が何を出来るのか知りたい」
「体力作りか… 確かに、相手が何倍もいるから体力は削られそうだ」
「そういう事じゃ 大怪我したくなければ出来る事をやっとくしかないのう」
こうして、俺達は明日から基礎体力の底上げをメインとした訓練をする事になった。都市税争奪対抗戦まで20日ちょっとしかない現状では新しい何かを会得するより、よっぽど現実的な訓練だと思う。
―― 次の日
俺達は、風穴の訓練をしていた林にいた。風音の前で、各自が使用出来るスキルを披露する。マリーは、風音の指示で別行動だった。最優先課題のポーロにメイドスギルド支部の位置を覚えさすために召喚調教を単独で行っていた。
まず、はじめにスキルを披露したのはダム。ソードファイタースキル ダッシュインパクトを披露した。木を、敵に見立ててダムが走り出す。木の手前から加速し高速8連続の突きを繰り出す。目標物の木が、折れる事は無かったが人の身体であればどんな部分でも突き破りそうな勢いがあった。連続使用可能だが1日に、3回が限界とダムが説明する。それ以上スキルを使うと、身体が重くなり動けなくなってしまうと言った。今までも、裏家業で使った事は2度くらいしかないという。
次にカーベルが、ストライカースキル 乱感掌を木に放つ。木の真横に立ち、両手で人の耳と顳顬の辺りを狙い挟む様に叩きつけた。
パーーーンッ
辺りに鳴り響く、乾いた打撃音。乱感掌は、人体の三半規管を狙った技で成功すれば鼓膜が破れ吐き気と眩暈を起して気絶するという。ヒット時に多少でもずらされると効果は半減されてしまうとカーベルは言う。
正直、人と相対する場合の使用は視界を奪った後でしか効果を発揮できないとも言った。使いどころが難しいスキルであった。もう1つのストライカースキル ラッシュアタック。高速の12連撃。 ナックルを嵌め威力を高めたラッシュアタックは相手の足止めにも利用できる。使用後3分で再使用可能だが、これも回数制限があり1日に5回しか撃てないと言った。
「よし、アルマはわしに付いて来い ここで魔法は危ないので闘技場に移動するぞ」
「はい 風音様」
「ゼスとダム・カーベルは 朝 話した通りじゃ イノシシを上に持ってくるんじゃ」
「「「りょ… りょうかい」」」
風音は、白い依代を落としてアルマと移動をはじめた。ゼス達は、風音の依代の後に続き林の奥に進んで行く。俺とカリナは自主練の指示を受けていた。俺は、風穴の訓練で今より威力と速さを求められた。カリナは、新しい武器に慣れて毒に頼らない攻撃パターンを完成させろと指示を受ける。殺すのではなく、戦闘不能にするパターン… やはり、手足を攻撃して動きを封じるしかないだろう。
都市税争奪対抗戦に向けて、各自の特訓が始まった。




