21話 独り言
ダンジョンを出た一行は、小屋で食事の用意をしていた。風音は、すでに飲みはじめていた。食事が終わると小休憩を取り夜中に小屋を出発し、メイドスへ帰還する事になった。
―― 食事中
「ゼスー 酒… 酒がないぞ」
ほんのりと頬を赤く染め、酒の催促をする風音。
俺達は、丸テーブルを3つほど一ヶ所に引っ付けてゼスの作ったサラダとスープの鍋を置き、各自が自由に取り分けられるようにセッティングした。ゼスは、人数分賄えるほどの干し肉入り野菜炒め物を作りテーブルに運ぶ。
一方、同じ炊事場にはカリナが黒ロープメンバーの食事を用意していた。中々の手際でキノコの炒め物を作ってテーブルに運ぶ。
「かざねさん これ食べてみてくれ」
ゼスは、小皿に分けた野菜炒めを風音に勧めた。
「うむ… おっ 美味いではないか!? 」
「だろ 実は、この間一緒に行った店の親父にタレを分けてもらったんだよ」
「ゼスは、まめたいのう ゲスいしのう クックク」
「我ながら ゲスいとは思うよ フフッ」
カリナは、その様子をチラチラ見て炊事場の中をうろうろしていた。俺は、様子に気付いて立ち上がり炊事場に入る。すると、小皿にキノコの炒め物が分けられていた。どうやらカリナも風音に食べて欲しいようだ…
俺が、炊事場に入ったのに気付いたカリナは小声で話しかけてきた。
「た… たくや殿 お願いがあるのだが」
「たくや殿? 辞めてよ たくやでいいよ 何? お願いって」
畏まったカリナは、顔を赤くして味見をしてくれと言う。かまわない、と了承し一口食べる。特別美味くはないが、不味くもなかった。正直に感想をカリナに伝えた。
「うん 普通に美味いけど」
俺の一言に、一瞬で不安が解消されたのだろうかカリナは小皿を運び風音の前に差し出した。
「なんじゃこれは? 」
「私が作りました 良かったら召し上がって下さい 風音様… 」
「ふむ… キノコか」
風音はキノコを箸で摘み、少し眺めてからキノコを口の中に入れる。味を確かめるように…
「カリナ… 」
「はっ はい! 」
「… 」
「… 」
風音は目を瞑り、少しの間を空けてキノコ炒めの評価を下す。
「カリナ 普通に美味いではないか」
「あっ… ありがとうございます!! 」
頭を下げたカリナの顔は満面の笑顔になっていた。がっ…
「いやなっ いくらカリナが女子でも料理なんて出来ないと思っていたんじゃが 普通に美味かったぞ まあゼスほどではないが… 」
「… 」
カリナは、ゼスをチラっと見てすぐに風音の方に視線を向けた。ゼスを見た時、少しだけ顔が引き攣っていたように思えた。見られたゼスは、気付きもせず、飯を食う。
風音は、皆が飯を美味そうに食う姿を見ながら呟いた。それは、誰かに言った言葉ではなく風音自身に呟いた言葉に聞こえた。独り言…
「楽しいのう… 皆で飯を食い 酒を飲み… 」
親父と遊んだ頃から、すでに半世紀以上の時を一人で過ごしてきたのであろう。ただ見ているだけでも楽しいものなんだろう。
俺からしてみれば、施設で育った慣れもあるから楽しい気持ちは判らない。だが、風音の立場を自分に置き換えたら相当きついものを感じる。半世紀もたった独りとか…
「わしは寝るぞ… ゼス 時間がきたら起こしてくれ」
「わかった みんな出発は夜中だ 北ルートでメイドスに向かう 遅れるなよ」
皆は、ゼスの説明に頷き食事を済ませると片付けをし各自が横になり出す。
すでに、細かい指示は風音からゼス、ゼスから皆へと伝達系統が出来つつあった。俺の場合は、風音やゼスから直接言われたり言われなかったりと…
―― 夜中
「たくや… 起きろ」
ゼスの声で俺は起きた。ダンジョンで動き回ったせいか、ぐっすり眠れ割とスッキリとしていた。風音も寝起きだったのか、ぼんやりと煙草を吸っている。俺は、ゼスと風音の毛布を畳むと自分の分も合わせて馬車の荷台に運び込んだ。物音に気付いたカリナ達も次々と起き出し荷物を運び込む。
俺達は、準備が整うと北ルートでメイドスに向けて出発した。
辺りは暗闇が広がり、馬車から灯すランタンの明かりだけを頼りに移動をする。ダンジョン付近や山道の夜間移動をする者はほんとんどいないので、外灯の類の物は一切設備されていないのだ。
…… …
日も登り、そろそろギルドが開く時間だ。俺達は、すでに到着して魔石の入った袋を玄関前に置き待機していた。
カリナ達は冒険者じゃないので、交換してもらえないので買い取り屋で換金すると言う。相場は3分の1… 登録する事で3倍お得だと話すとカリナ以外は全員知らなかったと言った。
「私は知っていたが… すでに裏家業を生業としていた為、出来るだけ人が集まる場所にはいきたくなかった」
「登録して3倍なら それだけで食っていけたんじゃ? 」
「私も含めて… 皆、裏家業でしか生きていけないと思っていたし」
「大丈夫じゃ! お前達はまだ若い 今からでもやり直せる 信じろ」
風音の一言で全員冒険者登録をする事となった。鶴の一声…
だが、その容姿でお前達はまだ若いと言われても… ね。
他の冒険者達が、ぞろぞろ集まり出してきた。ゼスは、知り合いと気さくに挨拶を交わしている。
ギィィィ
「おはようございます」
俺と風音にギルド説明をしてくれたミラさんが玄関を開けた。俺達は魔石を中に運び込む。
「かざねちゃん たくやくん おはよう」
「うむ おはよう」
「おはようございます」
俺と風音は、ミラと挨拶を交わす。
「ミラさん 魔石換金お願いします」
「はい では、カウンターまで」
俺は、ゼスの頼みで一人で魔石交換をする事になった。土嚢袋5つを両手に持ちカウンターの上に置いていく。
「託也 頼んだ かざねさん 行こう」
「うむ」
風音とゼスは、ギルド支部長に声をかけ2階の応接室に入った。
「支部長」
「おはよう ゼス」
ゼスが、人差し指を上に立て応接室にと誘導する。その仕草に支部長はギョッとした。ゼスがニヤリと笑うと支部長は信じられないといった顔になり一瞬、笑みを零した。当然、今回の北ダンジョン調査の件は支部長の耳にも入ってた。そして応接室から、支部長の悲鳴にも聞こえる雄叫びが聞こえた。
「うおぉぉぉぉ! ゼス!! やったなゼス! やったぞぉぉぉ!! 」
まるで自分が発見したかの如く、両手を高々と上げ涙している支部長の姿が目に浮かんだ。当然だ… ゼスが応接室に持ってった大量の古代通貨と装飾品を見たのだから。そんな想いに耽っているとミラの顔つきが、どんどん変わっていくのが判った。端から下の階層で取れた魔石を、カウンターに置いていっただが段々と魔石の大きさが大きくなっていく事に気付くミラ。
「ねえ… たくやくん これはゼスさんが倒したの? 」
「ゼスさんが倒したのは2層のヘルドックだけど」
「じゃあ他は? 」
「風音と俺だけど? 」
「じ… じゃあ これは? これはどうしたの? 」
「あ それはキングタイガー 俺が倒したけど… なんか不味かった? 」
「ちょっと… ちょっとこのまま待ってね」
ミラは2階の応接室に走りこんだ。そして、5秒後…
「ぎゃああああ」
バターン
誰か2階で倒れたような音がした。
どうにも騒がしいギルド支部であった。
「なんだなんだ!? 今日はやけに騒がしいな」
数人の冒険者が騒ぎを聞きつけカウンターに近づいてきた。
「ん? なんだ このあいだ闘技場にいた坊主じゃねぇか お前の連れ 女の子強かったな! 今日は何の騒ぎなんだ? ん? えっ… 何それ? 」
「ん? キングタイガーの魔石だけど… 」
ブフォォォォー!!
冒険者達は握っていたエールを口から一斉に吹き出した。エールとは元の世界でいうビールのような酒であった。
「な… なんだって!? キングタイガーだと… これは誰が倒したんだ!? ゼスか? あのちっこい 嬢ちゃんか!? 」
何か知らないが、興奮しながら冒険者達は質問してきた。
「俺だけど… 」
ブフォォォォー!!
また吹き出す冒険者達… コントですか?
「で… その先は? どうなったんだ? 教えてくれ!? 頼むから… 」
「それは… 」
言えばまた大騒ぎだろう… もう付き合い切れないので嘘をついた。
「いや そこで戻ったけど? 」
バレなきゃいいんだけど…
「なんだ… てっきりゼスがいたから未開拓地のマッピングしたと思ったが そうだよな もう何十年も開拓されてないのに あのゼスがな… でも、坊主もヤバいな… あのキングタイガーを倒したんだろ… ヤバすぎだろ」
簡単に信じる冒険者達… 自分達の席に戻っていく。
ここのギルド職員といい冒険者達といい、まるでコントを見させられているような気分になってしまう。当分は、騒がしくなりそうな予感がする…
ミラは、しばらく戻ってこなかった。




