14話 北ダンジョン
―― 北ダンジョンの朝
ダンジョン前の小屋で1泊した俺は、食事の匂いと他冒険者達の声で目が覚める。すでに出発しているパーティーもあるのか、俺達の他は1パーティーしか残っていなかった。
昨夜の、怪しい髭親父のパーティーはすでに出発したようだ。風音とゼスはすでに起きている。
「おはよう… 」
「おう 起きたか託也 おはよう」
「遅いぞ もちっと早く起きんか」
「… 」
ゼスは食事の用意をし、風音は煙管を吹かしている。
俺は、毛布を剥がし身体を起こす。
「あ 黒蓮の餌あげてくるよ」
「もうやったぞ スープ分けてそっちに持っていってくれ」
「了解」
立ち上がると、残りの1パーティーも同時に立ち上がり小屋を出た。俺は炊事場へ行き器にスープを分け丸テーブルに運ぶ。後ろからゼスがサラダと炊きたての飯を持ってくる。
「かざねさん 用意できたよ 食べよう」
「うむ いただくとするか」
「いただきます」
俺達は、一番遅い朝食を取る。
「ふむ そろそろいいじゃろ ゼスよ やつらどう見る? 」
やはり、俺の予想通り他パーティーを警戒していたようだ。ゼスが続けて考えを伝えた。
「最悪を、想定したほうがいいかもしれない… くそっ! どこで漏れたんだ… 依頼を受けた時は誰もいないときを見計らって受けたんだが… 」
「それはやつらに聞けば判るじゃろう」
「まあ、そうなるのかな… 15人から18人か… きついな」
「やっぱ他のパーティー怪しかったんだね? 」
「何じゃ? 託也も気付いておったか うむ こうなる予想をゼスは事前に言っていたからのう」
「あの髭親父は、どう見ても怪しかった 他のパーティーも何も言わないしあそこまで咋だと俺でも判るよ」
「クックク そうか まあ何人いても同じじゃがな」
「今回は俺もやるよ風音 その為の特訓だったんだし」
「うむ 頑張れよ託也 まずは様子見じゃ ゼス 昼までは魔石取りをするぞ その間に探りを入れてみる」
「了解 頼りにしてるよ かざねさん! 」
俺達は、準備を済ませてダンジョンに進入することにした。
硬そうな岩肌で出来たダンジョンの入り口は、冒険者を招きいれるための大きな口にも見えてくる。
ダンジョンに足を踏み入れると、冷たい空気が外に向けて流れているのが肌で感じる。ランタンを持ち、先頭を歩くゼスの後ろに俺と風音が続く。
入り口から歩いて5分くらいだろう… 1層の広間が視野に飛び込んできた。魔物が確認できた数は5匹。ゼスは魔物の名前をリトルボアと教えてくれた。この5匹を倒すと5分は沸かないという。
風音はゼスの前に出るとパチンと指を鳴らす。100キロ前後のイノシシの半分の大きさといったところのリトルボアが1匹、泣き声と共にパタリと倒れ血を吐いた。
「ふむ この程度なら… 託也! 指1本でよかろう 撃ちまくれ」
「了解! 」
俺は風音の横に行き、両手で1本仕様の風穴を撃ち放つ。
ドスッ!
残りの4匹を、瞬時に処理する事に成功した。
「よし ナイフで魔石を取り出せ 練習じゃ」
俺はナイフを握り、魔物の腹を裂き魔石を取り出す。取り出した魔石は鶏の卵大の大きさで用意してきた土嚢袋に入れていく。
1層は、数も少ないので2層に移動する。2層の入り口は、1層広間の突き当たりにある階段を使っていくようだ。ゼスが先導する。
「2層は8匹のヘルドッグ こいつの処理は俺に任せてくれ! マジックアイテムの出番だ」
ゼスはそう言うと、ランタンを置きバックから数枚の紙を取り出した。
「ヘルドッグは魔法に弱いんだ もちろん、託也の攻撃でも倒せるがマジックアイテムも有能だってところ見せとかないとな」
ゼスは、2層の中央付近手前の床に2枚のマジックアイテムを設置する。この時点でヘルドッグには気付かれていない。設置した紙には、魔法陣らしいものが書き込まれていた。設置が終わると後方に移動し、反対側の壁際に集まっているヘルドッグ目掛け小石を投げつけた。
ゼスに気付いたヘルドッグが一斉に襲いかかる。しかし、設置した紙にヘルドッグが触れた瞬間、轟音と共に床から炎の柱が聳え立つ。
襲いかかるヘルドッグの集団が、次から次へと火柱に巻き込まれていく。すると、よろめいた1匹のヘルドックが2つ目のマジックアイテムを踏みつけ魔法が発動した。
今度は別の魔法のようだ。床から、バチバチと青白い電気が放電しはじめた。これには、範囲攻撃のような効果もあるようで少し離れたヘルドッグも感電に巻き込まれバタバタと倒れていく。
「おおっ! ゼスよ 凄いではないか 火と雷の術じゃな」
どうやら風音は、この魔法が気に入ったようだ。俺は倒れたヘルドッグに風穴を撃ち、死んでいるか確認しながら魔石の回収を行った。
「どうだい? マジックアイテムも馬鹿にしたもんじゃないだろ? 」
「うむ 悪くないのう でも高いんじゃないのか? その紙」
「いや、ホールファイヤーとラントニングサンダー は、マジシャン系の職業なら大抵は取得するスキルだから安価で手にはいる代物だ」
「使い方次第では面白いかもしれんな」
ゼスは、魔石の回収に加わりながら魔物のリポップについて説明する。
各層フロアーの床に描かれている魔法陣から、倒した魔物が復活するという。冒険者達は、復活時間と設置された復活ポイントを把握し、工夫しながら戦うのだと言った。魔石回収を済ませた俺達は3層を目指すため、さらに階段を進むと声がする。
「マーチン! 回収だ! 」
「おう! いくぞ マルク」
3層は、5人のパーティーが占領していた。パーティーは、フロアー内の岩を利用して魔物を討伐している。二人が、魔物1匹に対して物理攻撃し一人は岩の陰から支援魔法を行う。残りの二人が倒れた魔物を岩陰まで引きずり魔石を回収しているようだ。対峙する魔物はロックタートル、魔法耐性があり効きにくい。
冒険者の間では、物理攻撃で甲羅の隙間に剣を突き立て討伐するのが主流のようだ。
沸き時間を計算してか、リーダーらしき男がメンバーに岩の上で休憩を取るように支持をする。歳は、30歳前後の男で盾と剣を握るソードマン系だろう。
他に、神官服を着たアコライト系だろう20歳くらいの小柄な女と、リーダーと魔物に対峙していた、25歳前後で男の武器は鈍器だった。3人は岩を駆け上がりアコライト系の女が、リーダーと鈍器を持つ男に回復魔法を唱える。下ではまだ、マーチンとマルクがロックタートルの魔石回収を行っていた。
リーダーは、自身の剣を眺めると鈍器を持つ男に自分の剣を渡す。鈍器の男は道具を取り出し剣を叩き出した。
コンコン カンカンカンッ
剣から、不思議な光が漏れ出した。どうやら、マーチャント系の職業で上位職業がブラックスミスというらしい。マーチャント系は、どんな場所でも専用具があれば修理が可能なスキル取得され家系による成長が期待される職業。上位職業のブラックスミスは修理はもちろん、素材さえあれば簡単な武具をその場で作成できる、ハイパー仕様な職業だ。ソードマン系がいるパーティーでは欲しい仲間だろう。
そんな様子を、見ていた俺達に気付いたリーダーの男が岩の上から声をかけてきた。
「やあー 魔石取りかい? 4層5層は塞がっていると思うぜ」
親切心からなのか? 様子を伺っているのか判らないがゼスが返答する。
「ああ 連れが魔石狩りをやったことないから体験させようと思ってね まあ、半分はダンジョンのレクチャーも兼ねた社会科見学さ」
恐らく技とだろう。ゼスは気さくに答えると質問をする。
「いいパーティーだね 回復役にブラックスミスまでいるとは、あと… 」
と、岩の下で魔石の回収をしている二人をチラッと見て、途中で言うのを辞めたのだ。すると、『いいパーティー』と言われ気を良くしたリーダーが
「ああ まだマーチャントだよ 俺達は、みんなAクラス冒険者さ これから金を貯めて、装備も良い物にしてSクラスを目指してる 下にいるのはポーターとスカウト」
「なるほど やっぱ、冒険者になったからには冒険者を楽しまないとな あっ 昼飯はどうするんだ? 」
「小屋に戻って食べるよ そっちもか? 」
「ああ 良かったらスープでも ご馳走するよ」
「おお 一緒に食うか じゃあ昼に小屋で」
「ああ」
俺達は、4層を目指し移動を開始する。
…… …
階段中半まで来た所でゼスが足を止めた。すると、風音がゼスに言う。
「あれはいいのう マーチャントか 修理する職業が冒険者とは」
「ああ でも、かざねさんや託也には必要ないしな 修理だけならマジックアイテムで売っているし」
「ふむ で、ゼスはどう見た? 」
「ありゃ難しいな… 本当に言ってる事が正しければ白なんだが」
「そう思って話は聞いておる もっと簡単な方法もあるんじゃが 今回はよしておくかのう」
「話を聞いてるって事は依代使ったの? 」
「正解じゃ クックク 託也もわかってきたのう」
「見えなかったけど… 」
「手のひらサイズじゃ 細く小さくして忍ばせたからのう」
「本当、便利だよね 風音の依代は」
「ん? なんじゃ託也も欲しいのか? 」
「いたらいいかなって かっこいいじゃん」
「格好いいか クックク そうか じゃあ機会があれば1つやろう」
「マジ!? 」
「さっきからなんだい? その依代っていうのは」
「ああ ゼスさんは見たことなかったよね 風音の依代 依代っていうのは契約動物のことだよ」
「え!? かざねさん召喚もできるのか… ハイスペック過ぎだな… 」
「見たらびっくりするよ ゼスさん」
まるで、自分の事のように自慢してしまった…
相談の結果、とりあえず4層と5層にパーティーがいたら素通りする。しかし、普通に素通りするのではなくパーティー構成と職業を出来るだけ把握しとく事となった。話しかけられた場合の対応はゼス、俺と風音は無言のままでやり過ごすと決まった。




