表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人魚とハンカチ

作者: 如月弥生

 「母さん、小さい頃よく使っていたあのハンカチって取って置いてない?押し入れ探してもなかったんだけど。」


 「あのハンカチって3歳の時にお父さんに水族館で買ってもらった?」


 「そうそう」


 少年が探しているのは魚やサメのかわいい絵がいっぱい描いてあるハンカチ。

 幼い頃に彼が気に入ってからずっと離さなかったそんなハンカチを探している。


 「あんたあの頃からサメ好きだったもんねー。なんで今更そんなのが必要なのよ?」


 「家庭科の授業で小さい頃の思い出の品的な感じで必要なんだよ。」


 「そうねー、押し入れにないんならもう捨てたんじゃない?」


 お煎餅をかじりながらテキトーに答える母親。


 「それじゃ困るんだけどなー・・・・。」


 「持っていくものないんなら写真でいいんじゃない?あんたの小さい頃の写真ならいっぱいあるわよ。」


 「それじゃ俺の思い出の品じゃないじゃん。」


 「思い出の品なんでしょ?いいじゃない、お父さんお母さんの思い出でも。」


 「なんか違うと思うんだけどなー・・・。」


 そう言いながら押し入れの中からアルバムを取り出し、それを持っていくことにした。




□□□□□□□□□□


 その日の夜、喉の渇きを覚え目が覚める。

 ふと窓を見ると目の前を小魚の群れが月明かりに照らされながら通り過ぎる。


 「え・・・!?」


 窓の外を見ると街が水に浸かった。


 「どうなっているんだ!?」

 

 少年は急いで玄関に向かい、扉の前で一呼吸。

 そして扉をそっと開ける。


 普通だったら水が中に入り込んでくるはずなのに家の中には一滴も水が入ってこない。

 突っつくと表面はゼリーのように揺れるだけで水が流れ込んでくることはない。


 外に向かって手を伸ばしてみる。

 すると手はぽこっと外に出て、それを戻すと手は濡れている。

 手についた水をぺろっと舐めてみると少ししょっぱい。


 思い切って外に出てみる。

 街の中を魚が泳ぎ、体全体で水を感じている。

 浮力はあるのに息は苦しくない、そして目を開いても痛くない。

 そんな今まで体験したことない感覚に嬉しくなり、つい泳ぎ出してしまう。


 両手で水をかき、両足を少しバタつかせる。

 体はスッと前に進み、心地よく浮く。

 小魚の群れと一緒に泳いだり、タコに墨をかけられたり、綺麗なクラゲを眺めたり、大きな魚を捕まえようと追いかけたりした。

 

 楽しくて少し遠くまで来てしまった。

 気づけば周りに生き物がいなくなって自分1人になっていた。

 

 海の世界に差し込む月の光はとても明るく、見上げるとそこにはとても綺麗な月があった。

 少年はしばらくその光景に目を奪われていた

 すると大きな影が一つ、水面の近くを通った。


 見覚えのあるシルエット。

 ただ、少年はヤツが同じ空間にいるとこんなにも怖いものだとは知らなかった。


 「サメだ・・・。」


 気づいた時にすぐ家へ向かって泳ぎ出す。

 手を大きくかき、バタ足を早くする。

 

 後ろを確認するとサメがこちらに向かって物凄いスピードで追いかけてくる。

 サメの影がだんだんだんだんと大きくなり、『もうダメだ』と少年が思った時だった。

 

 「こら、やめなさい。」


 女性の声がした。


 するとサメは動きを止め、ゆったりとどこかへ泳いで行ってしまった。


 「ごめんなさい、怪我はない?」


 声のする方を向くとそこにおとぎ話から出てきたかのような人魚の姿があった。


 「え、えっと・・・。」


 「ウフフ、もう覚えてないの?」


 人魚はからかうように笑顔を見せる。


 「はい、これ。必要なんでしょ?」


 そういい綺麗にたたまれた布を渡される。

 開いてみるとそれは魚やサメのかわいい絵が描いてあった。


 「これって・・・!」


 「あの時あなたが私の怪我を治すために使ってくれたのよ。」


 「じゃぁあの時の!?」


 「やっと思い出してくれた?」


 人魚は嬉しそうに笑顔を見せる。


 「返すのが遅くなってごめんなさい。お気に入りのハンカチだって言っていたから。」


 「怪我はもう治ったの?」


 そう尋ねながらハンカチをポケットに入れる。


 「うん。あなたのおかげでもう大丈夫。あの時はありがとう。」


 感謝を言われ慣れていないせいなのか、綺麗な女性と話す機会が少なかったせいか、少年は少し恥ずかしさを隠し頷く。

 

 「もう行かなきゃ。また遊びにきてね!」


 人魚はそういい、最後に笑顔を見せた。




□□□□□□□□□□

 

 目を覚ますといつも通り自分の部屋で寝ていた。

 

 窓の外を見ても街は水に沈んでおらず、魚もいなければサメもいない、スズメが『チュンチュン』と電線の上に数匹いる。

 

 ポケットに手を入れると何かが入っている。

 取り出すとそれは幼い頃、少年の大のお気に入りのハンカチだった。

 

 「あれは夢じゃ・・・?」


 ハンカチを眺め、昨日のことを思い出そうとする。

 だが・・・・・・。


 「こらー!!いつまで寝てるの!!学校遅れちゃうわよー!!!」


 下の階から母親の声がする。

 時計の針は7:20を指していた。


 「やばい!!早く行かなきゃ!!」


 ハンカチを鞄にしまい、下に駆け下りる。

 不思議な経験をした。

 

 また遊びにきてね!


 「今週の日曜日にでも行ってみようかな。」


童話ちっくなものを書いてみたいと思い書きました!


1回でいいから街の中を泳いでみたいなーと思ったのがきっかけです!


感想やレビューお願いします!



Twitterのフォローもしていただけると嬉しいです!


Twitter

@yayoi_kisaragit


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 日常と非日時の切り替えのタイミングが絶妙! [気になる点] 長編で見たかった [一言] 短編だけど...面白い!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ