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【第16話】運動音痴

挿絵(By みてみん)

 タイトルロゴの後ろの生物は、実はエイチェルとセリアルの家系のシンボルマークなのでした。

 第15話から、飛行魔法学の授業は続いています。

 演習場の片隅で、青ざめているのがもう一人。ミランダである。


「う… ウィズくん、どうしよう。私ホウキ乗れないよ…」


「う、うーん…」


 ホウキに乗ること自体は、比較的基礎的な魔法で、子供の頃から乗り回すことも少なくない。

 北半球上級魔法学校の入試には、魔力測定もある。本当にホウキに乗れないほど魔力が弱かったら、いくら筆記を頑張ったとはいえ、試験突破は考えにくい。飛べないと思い込んでいるだけで、コツが分かれば飛べるんじゃないだろうか、とウィズは思った。


「じゃあさ、補助の先輩が何人かいるみたいだから、そのうち一人に、先に乗り方のコツを教えて欲しいって声かけてみようよ!」


 そうと決めたウィズの行動は早い。

 小さな体を更に縮めて目立たないように動きながら、さっさと先輩に声をかけに行き、ミランダへの個別レッスンを申し込んだ。


 先輩は、クリフォード先生へ了承を取りに行ってくれる。それを聞いて、クリフォード先生は学生全体へもアナウンスした。


「よし、ホウキに乗ること自体を先に教えて欲しいって学生はいるか? いれば、今日はこのカナリー先輩に付くといい」


「カナリーです、よろしくね」


 カナリーと自己紹介した先輩は、耳が鳥の羽根の形になっている女性だ。サイズ的にあれで飛ぶわけではないだろうが、いかにも飛行魔法学教室に所属といった風貌だった。


 スペルが先輩の方へ歩き出すことはなかったが、ラスターの視線の端で、スペルの肩が一瞬ピクッと動いたのが見えた。


「他にはいないか? よし、じゃあ始めるぞ!」


 クリフォード先生は、手に持っていた短めの棒を、ホウキに展開した。

 木製の落ち着いたブラウンの柄に、シルバーの穂。それだけならごくスタンダードなホウキだが、特徴的なのは柄と穂の繋ぎ目部分だ。4枚のトンボの翅が、日の光を浴びて、キラッと虹色に偏光した。

 それまで森に気を取られていたエイチェルの意識が、一気に先生に向いたので、見守っていたセリアルは、今度こそ安心できた。


「飛翔する生物と言えば、鳥を連想する人が多いかもしれないな。だが、空は虫達の楽園でもある。中でもトンボは凄いぞ。スタミナもテクニックも、申し分ない空の覇者だ」


 クリフォード先生が、トンボの翅の付け根あたりに触れると、翅が高速で羽ばたき始める。


「まぁ、俺のこのホウキに関して言うと、翅は3割舵取り、7割飾りかな! じゃあクイックライドのデモをやるぞ! あの飛び降り台の下に集合な!!」


 鮮やかにホウキに飛び乗ると、飛び降り台の上に降り立った。学生達は慌ててぞろぞろと、飛び降り台の下に移動する。


「まず、ホウキは普段持ち歩いている形状に圧縮すること!」


 クリフォード先生が、ホウキを短めの棒に戻した。


「そして、普段持ち歩いているように収納すること! この状態からスタートだ!!」


 学生達に見えるように、腰の圧縮ポシェットにホウキをしまった。


「で、ここから落ちる」


 と言ったかと思うと、先生はまっ逆さまに地面へ… とはならず、もうホウキに乗って飛んでいる。台から落ちる暇もなかったほど素早い。

 おでこに当てたままの偏光ゴーグルと、小刻みに羽ばたくホウキの翅が、太陽の光を背景にしてギラギラ光っていた。


「ぉわ~」


 気の抜けた声をあげながら、思わずエイチェルがパチパチと手を叩いた。周りの学生もなんとなくつられて拍手する。

 クリフォード先生は、機敏に旋回しながら、学生達の目の前に降りてきた。


「どーもどーも、ありがとう。とまぁ、やってることは単純だ。始めての学生なら、落ちて5m以内くらいで乗れれば上出来だぞ。心配なら、ポシェットにしまわずに、手に持ったところから始めてもいいけど、慣れたら全部やってみてくれよな」


 先生が、飛び降り台の柱を指差した。10cm間隔で目盛りがふられているようだ。

 そして、その更に下では、先輩達が真っ白なマットを敷いている。


「んで、見ての通り、もし落ちてしまっても大丈夫! クッションがあるからな」


 と言っても、クッションと呼ぶにはどうにも薄いように見える。正直、シートと呼びたいくらいペラペラだ。せめて、呼べてマットだろう。

 不安しかなく、スペルの眉間にはシワが寄りっぱなしである。


「じゃあ、手順が分かったらどんどんやるぞ! はい、行った行った! 何回飛び降りてもいいからな! レイヴン、ホウキ持ってない学生に予備を貸してやって」


「はいはい。じゃあこっちで~」


 レイヴンと呼ばれた男の先輩が、手を挙げて合図をした。


「…ちょっと、借りてきます…」


「お、おう」


 相変わらず覇気がない口調で、スペルが先輩の方へ向かった。とぼとぼ歩く背中に悲壮感が漂い過ぎている。笑いそうになるのを誤魔化すために、ラスターはちょっと咳払いをした。




   *




 学生達が、次々に飛び降りては飛び立っていく。先生が飛び立つまでに何m落ちたか、下で計測していて教えてくれている。大体の学生は、5~10m前後といったところか。まだ20m下まで落ちてしまった学生はいない。


 エイチェルとセリアルの順番も近づいてきた。セリアルがエイチェルに聞く。


「どっちが先に行く? 私行こうか?」


「え、やだ私が先にやる! セリアル、絶対こういう反射神経使う系はうまいでしょ。後だと恥ずかしいから先がいい!」


「いや、こんなことやったことないから分かんないよ。いや、いいけどね」


 クイックライドは、中級学校でもやることが多いが、普通は単に速く飛び立つ練習をするだけである。この20mの大がかりな飛び降り台は、飛行魔法の選手用のジムくらいにしか無い。

 セリアルは、その場で何度かホウキを出したりしまったりして、イメージトレーニングをした。


「では、お先に!」


 エイチェルがセリアルより1歩前に出る。


「はい、次ー!」


 下から聞こえるクリフォード先生の合図と共に、エイチェルが飛び降りた。


 ポシェットからホウキを取り出し、展開。ホウキに魔力を込めて、そのまま飛び立つ。



「おおぉ!!! 3m90cm!! いいぞ! 素晴らしい!!」



 クリフォード先生が親指を立てているのが見える。セリアル達より前に、3m台だった学生は幾人もいなかった。なんだ、エイチェルうまいじゃないか、とセリアルは拍子抜けした。


 次、セリアルが飛び降りた。


「おぉ! 4m30cm いいぞいいぞー!!」


 クリフォード先生は、また親指を立てて褒め言葉を叫んでくれるが、あぁ、負けちゃった、と思った。落ちながらだと、ポシェットから他の物がこぼれそうで怖くて、少しまごついてしまったのが原因かな、と思った。


 降りて待っているエイチェルのところまで向かう。


「何だよエイチェル、普通に私よりうまいじゃん!!」


「いやいやいやいや、セリアルに反射神経で勝てるとはとても思えなかったからさ!」


「やったこと無いものは私だってこんなもんだよ! というか、エイチェルはやったことあったの?」


「えっ、あぁ、これと全く一緒ではないんだけど、木登りして飛び降りるのなら、小さい頃から何度も…」


「……あぁ、なるほど、納得」


 そうだった。だってエイチェルである。虫採りしたあと、面倒くさいから飛び降りる、なんていかにもやりそうである。競技や勉強としてではなく、趣味の延長で身に付いてしまっているのだ。


「うーん、でも確かに反射で負けるのはちょっと悔しいなぁ。練習すれば勝てるかなぁ」


「え、じゃあ私だって練習しちゃお! ねぇもう1回行こうよ!!」


 ニコニコしながら、エイチェルがセリアルの手を引いて、駆け出した。




   *




「行かないの?」


 飛び降り台の順番が来たのに、立ち止まってしまったスペルに、ラスターが話しかけた。スペルは、左手で持った共用のホウキに視線を落とす。無難な木製の、焦げ茶色のホウキだ。


「…ラスター、先に行っていいですよ…」


「ん、まぁいいけど…」


 あまりに不安げなので、後ろから見ててやろうと思っていたが、こう言われたら仕方ない。ラスターは一歩前に出た。


「んじゃお先に!」


 ラスターは、軽い感じでさっさと飛び降りると、素早くホウキを展開して飛び乗った。


「おぉ! 3m30cm! 今のところ暫定1位だぞ!!」


 クリフォード先生が叫ぶ。

 スムーズな着地でラスターが地面に降り立つと、飛び降り台の登り口の近くにいたエイチェルとセリアルが、方向転換をして駆け寄ってきた。


「今、1番って言われたのラスター!? すごい!」


「あー、うん、そうみたい」


 素直に褒めるエイチェルに、ラスターが照れる。


「あーぁ、エイチェルにもラスターにも負けてる。なんか悔しい! 絶対練習する!!」


 セリアルは、口では悔しがっているが、顔はどちらかと言うとわくわくしている感じだ。セリアルに悔しがられるなんて、褒め言葉と同義である。一番セリアルに悔しがられたいのは、スペルだろうな、と思いつつ、ラスターは飛び降り台の上を見た。次はスペルの番である。

 スペルは、呆然としたまま、下にいるラスター達のことを見ていた。ホウキは縮めてあるが、ポシェットには入れず、手に握りしめたままだ。



「うーん、大丈夫かねぇ、あいつ」


「スペル君は、緊張しいなのかな?」


「さぁ。聞くと否定するんだけど、オレは、高いところが苦手なんじゃないかと思ってるんだけど。絨毯は平気っぽいからさ、下が見えるのが嫌なのかなって」


「ふーん」


 セリアルは会話には加わらず、飛び降り台のてっぺんを見上げた。

 順番が来たのになかなか進まないものだから、周囲が少しざわつき始めたその時、ぱちり、とスペルと目が合った。


 下からは細かい表情まで読み取れなかったが、その瞬間、スペルは突然ジャンプして飛び降りたのだった。




   *




 飛び降り台の上に佇むスペルの気分は、最悪だった。


 ラスターは、びっくりするほどホウキがうまかったし、一緒になって楽しそうに話しているセリアルもエイチェルも、十分上位の手際だった。彼らに心配そうに見上げられるのも、それはそれで腹立たしい。

 でも、正直とにかくホウキには自信が無いのだ。スペルの通っていた中級学校の飛行魔法学では、絨毯との選択式だったため、避けて通れてしまっていた。それが裏目に出て、今、逃げ場が無い。


 下手でもいいからせめて、笑われない程度に済ませたくて、イメージを膨らませようとするが、全くピンと来なかった。

 しかも、今日はラスターにつられて、学食でやたらと沢山食べてしまった。緊張と相まって、気分の悪さに拍車をかけていた。


 眉間にシワを寄せたまま見下ろした時、セリアルと目が合った。


 どうせ、僕なんて足元にも及ばないと思って、余裕で見てるんでしょ。

 笑うなら笑えばいい!

 ええい、ままよ!!



 急にヤケクソ心に火がついて、次の瞬間スペルは飛び降りた。


 流れる景色がゆっくりに見える。だが、自分の動きもまた、どうにもゆっくりで、もどかしさと焦りが入り交じった。


 もう何メートル落ちただろう。早くホウキを展開しなくては!


 両手で握りしめていた棒を、何とかホウキの形にして、何とか落下が止まる。

 しかし、乗れない。


 原因は、自分の頭より上でホウキを展開してしまったからなのだが、修正の仕方がわからない。まるで木の枝からぶら下がるように、スペルはバンザイの姿勢のまま、ホウキにぶら下がる格好になってしまった。

 体力のある人なら、ここからホウキの上に簡単に上がれるのだろうが、半分パニック状態のインドア男には、無理な話だった。


 ぶら下がったままもがくスペルを見て、もうお決まりのパターンになりつつあるマーティンのバカにした笑いが響く。

 あまりにも意地の悪い笑い方に、セリアルは止めに入ろうかと思ったのだが、笑われている相手はスペルである。自分が助ける義理があるんだろうか、という考えが、ふとセリアルの足を止めた。自分に助け船を出されても、むしろ反発を食らいそうな気さえする。セリアルは、動くことができないままの自分の足元へ、とりあえず視線を向けた。



「片腕だけでも、肘がホウキの上に乗せられれば乗れるぞ! ほら、頑張れ! 懸垂懸垂!!」


 クリフォード先生が、スペルに向かって体勢を立て直すアドバイスを叫んでいる。何とか力を振り絞ってホウキによじ登り、右の小脇にホウキの柄を抱える形になった。


「もうそのまま降りちゃえよ!! おーい、聞いてるー!?」


 ラスターのアドバイスも、スペルには聞こえているが、そういうわけにはいかない。ここまで来たら意地だった。とにかくホウキに乗ってやる。みっともなくてもしょうがない。だって既にこんな状態なのだから。

 スペルはどうにかこうにか右足をホウキにかけて、よじ登った。ただ、まだ虫が木の枝にたかるように、全身でホウキの柄にしがみつく格好だ。


「よし、よくやったぞ! そこまで来たら、あとは上体を起こす!!」


上体を起こす。


 この細い棒切れの上で、足で体を支えることもできないのに、どうやってそんなことをするのか。ホウキに乗る人々を見て、スペルが常々思っていたことだが、今は、やるしかない。

 恐る恐る、体をホウキの柄から離していく。


 できた!!


 そう思えたのも束の間、スペルの体がゆっくり傾きはじめた。


 くるり。


 両手両足でホウキの柄にしがみついたまま、またもやぶら下がる格好になってしまった。

 ちらりと飛び降り台に刻まれた目盛りを見る。


 14m。


 だいぶ下まで落ちているが、まだ地面まで6mもある。真下にあるのはペラペラのクッションもどきのみ。落ちたくない!!

 しかし、さっきぶら下がった状態からよじ登るために、ずいぶん体力を消耗してしまった。重力は無情にも、スペルの非力な握力にとどめをさしてくる。



「あ…」



 もう無理…。

 手が、足が、ホウキから離れる。



「あっ! おい、スペルー!!」


 ラスターが急いでホウキを展開して駆け出したが、ちょっと距離がある。間に合わない。

 スペルはそのまま白いマットの上へ落下した。



 思わず目を覆う学生達。

 しかし、先生も先輩も、助けに駆け寄っている気配が無かった。




 ぽよぉん




 白いマットが気の抜けた音を立てた。

 音の通りにマットは非常に柔らかく、スペルは固まったまま、マットの上でぽよんぽよんと大きく弾んでいた。薄くても問題無かったのは、変形魔法がかけられていたからだったのだ。まぁ、冷静に考えればそうか… と、妙に他人事のように考えながら、スペルは弾む世界を眺めていた。


 魔力の抜けたホウキが、遅れて落下を始める。

 スペルに向かって落ちていくところを、ホウキで駆け寄ったラスターがサッとキャッチした。



「おー、残念。せっかくホウキに登って挽回したのに、惜しかったな!!」


 クリフォード先生が、ニコニコのまま歩いてくる。


「君は、焦らないで済むところで練習してからやった方がいいな」


「はい、おっしゃる通りです…」



 変なプライドが邪魔をして、ホウキに乗れないって言い出せなかった。そのせいで、授業のスムーズな進行を妨げた上に、余計な恥をさらしてしまった。

 スペルは自己嫌悪でうつむいた。


「カナリーのところでコツを掴んでおいで」


 カナリーと呼ばれた先輩は、ホウキに自信がない学生数人にコツを指導していた。見ると、教えられている学生は、先輩の前で、ちゃんとホウキに乗って浮かんでいる。

 意地を張らずに教えてもらっていたら、今頃スペルも乗れるようになっていたかもしれない。


「はい…」


「お前がホウキ乗れないなんて、思わなかったよ」


 ラスターが、スペルの腕を引っ張って立ち上がらせた。次の学生の邪魔にならないところまで移動する。


「どうせ僕はバランス感覚が死んでる運動音痴ですよ。ラスターはいいですね、お上手で」


「おぉ、嫌味を言う元気はあんだな!」


「う…」


 落ちていきながら、ラスターが助けに来てくれたのは見えていた。あんな格好悪い自分を笑わないでいてくれる友達にも、つい嫌味を言ってしまう自分にうんざりする。


「すみません。ホウキをキャッチしてくれてありがとうございました」


「うわ、スペルが素直だとなんか怖いな。いいよそんなかしこまらなくて!」


 まぁ、どういたしまして、と言いつつ、ラスターはちょっと照れくさそうに頭を掻いた。


「大丈夫だったー?」


 エイチェルが駆け寄ってくる。


「ねぇ、あの白いマット? クッション? すごいね! すごいポヨポヨ!! どこも痛くないの? ニトフィット練習用の球体とどっちがポヨポヨ?」


 大丈夫だった? と一応聞きつつも、興味があるのは変形クッションの方。興奮気味に捲し立てる姿に、スペルの自己嫌悪が少し和らぐ。


「あ、あぁ、幸いどこも痛くないです。ニトフィットより弾力がありますかね…」


「ほほおぉ…」


「エイチェル、わざと落ちちゃダメだかんな」


「や、やらないよ!」



 エイチェルが走って行ってしまったのでついてきたが、セリアルは、エイチェルの後ろで目立たないように立っていた。自分の方がでかいので、隠れられないのは承知の上だが、あんまりスペルと顔を合わせたくなかったのだ。

 しかし、エイチェルやラスターとのやりとりを観察していると、特別意地の悪い人には見えない。いつも悪態をついているマーティンの方が、よっぽど底意地が悪く見える。


 自分の考え過ぎならいいんだけど、と思った時、またスペルと目が合った。


 恥ずかしさとも、苛立ちとも取れるような複雑な顔をして、スペルは目を逸らすと、ラスターから共用のホウキを奪い取り、くるりと方向転換をした。


「僕、もう一度チャレンジしてきます!」


「うわぁ何言ってんだバカ! カナリー先輩のところに行くのが先だろ!」


「バカって言う方がバカなんです!」


「この意地っぱり! 初級学校生かよ!!」


 ラスターは、小声でちょっとごめんな! とエイチェルとセリアルに謝ると、スペルを無理矢理カナリー先輩のところへ引っ張って行った。



 エイチェルは、ちらりとセリアルを見上げた。ぽかんとした顔で突っ立っている。


「…マットが気になって、思わず話しかけに来ちゃったんだけど、なんか、ごめんね」


「あ、いや、エイチェルのせいじゃないでしょ」


「気にしない、のは難しいかもしれないけど、でも、気にしないで!」


「うん、はは…」


「敵意を向けてくる人に凹んでる暇があったら、好意を向けてくれる人と楽しんだ方が、人生お得なんだよ!! …っていうのは、うちのお母さんの受け売りなんだけど… だから、まぁ、セリアル、私と練習しよ!」


「…本当、そうだね、ありがとう。行こう!!」


「うん!」


 改めて二人は、飛び降り台へ向かった。

 何度か練習するうちに、セリアルは1m60cmの記録を叩き出し、同級生の誰も塗り替えられないまま、今日の飛行魔法学の授業は終わった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ほうきの授業シーンだけで、ハラハラドキドキの展開!! スペル君のこう意地っ張りなところとかが見ていてもどかしくて、それがまた更にハラハラ感を演出してますね! みんなそれぞれ違うから、見て…
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