【第9話】初めて出会ったその日から
向こう側が透けて見えているのかと思うくらい、透明みたいな真っ白。
その純白と透き通ったルビー色の瞳に、恋をしたらしい。
合格発表の3日後、ウィズは家選びのため、再び北半球上級魔法学校を訪れていた。
他の受験生よりも少し長く、入学に憧れた時間を過ごしていた。合格が分かった時には、本当に本当に嬉しかった。掲示板の番号と自分の受験番号が一致しているか、何度も繰り返し確認し、確認するたびに1人で飛び上がって喜んだ。一度着地に失敗し、ハーフパンツから出ている膝小僧をすりむいてしまったが、その痛みさえ嬉しいくらいだった。
夢じゃない!!
そして、実は何よりも楽しみにしていることは、一人暮らしができることだ。楽しみどころの騒ぎではない。ウィズが切実に待ち望んだものなのだ。ここの学生になれば、家賃なしで学生都市に一人暮らしができる。光熱費は自費になるが、学生への優しさとしては充分だ。
これからは、起きる時間も、食べるものも、自分で決めていい。お風呂の順番だって気にする必要はないし、寝る時間だって自由。誰の顔色も窺う必要はないのだ。
ウィズは、住むならアパートタイプにしようと決めていた。光熱費が抑えられるし、通学時にすれ違ったりして、きっと住人と友達になりやすい。他人と近いけれど、パーソナルスペースは確保される。その距離感が良い。
共有の談話室が付いているアパートもある。そこが特に狙い目だ。
だが、共有のスペースは、ホールBの間取り図だけでは詳細が分からないのだった。
いくつか目星を付け、見てまわった1か所目。間取り図では共有スペースがあるはずだったが、実際には、屋外にベンチが一つあるだけ。建物は小綺麗で、色も可愛らしい空色をしているが、住人達と談笑する感じではない。
「こういうんじゃ、ないんだよネ…」
今度は、学校の西側にあるレモン色のアパートにやってきた。エントランスが一つで、各部屋への通路も屋内になっているタイプ。エントランスから入ってすぐのところにオープンな談話スペースがあり、ソファやテレビ、テーブル等が並んでいる。
「まさにコレだよ、コレ!!」
学生達は放課後、ここで語り合い、交流を図っているに違いない。1階の部屋がまだ空いている。最有力候補だ。
でも、近くにもう1つ気になる物件があるから、そちらを見てから決めるとしよう。
角を曲がってすぐのところにある、白いアパートにやってきた。レモン色のアパートと同じように、エントランスが一つで、各部屋への通路が屋内になっているタイプだ。似たような談話スペースが付いていて、悪くない。今なら1階と2階に1部屋ずつ空いているから、好きな方を選べる。
しかし、こちらは全体的に真っ白でシンプル。さっきのレモン色のアパートの方が賑やかそうだった。
レモン色の方にしようかな、と思って、手元の光る地図を見たその時。2階の部屋の表示が、黄色から緑へ、ちょうど変わるところだった。
今、まさに誰かが。
同級生になる誰かが、2階の部屋に住むと決めて、手続きしたのだ。
階段を降りる音が聞こえてきた。どんな人が住むと決めたのか、一目見てからでもいいじゃないか。そう思って、ウィズは足音の主の登場を待った。
それが、ミランダ・ブランチェットとの出会いであった。
*
「おかえりミランダ!」
「ただいま、コリーナさん!」
「良い家は見つかった?」
「うん、コリーナさんの言う通り、アパートタイプにしたら、もうお友達ができたの!」
「あらまあー!」
急に込み上げてくるものを感じて目頭を押さえながら、コリーナは感嘆の声をあげた。
ここはブランチェット・ホーム。
施設内の壁には、子供達が思い思いに描いた絵が飾られている。玄関の一番目立つところに額に入った絵があるが、あれはミランダがまだ小さかった頃に、彼女の似顔絵を描いたものだ。
施設長であるコリーナ・ブランチェットは、ミランダと血縁上の繋がりは無いが、ミランダを大切に、大切に、本当の娘のように育ててきた。
アルビノであるが故に体が弱く、幼かった頃はかなり苦労もした。人見知りで、引っ込み思案。脆くて儚くて、心配で愛おしい。
そんなミランダが、ある日、北半球上級魔法学校を受験したいと言い出した時には本当にびっくりしたものだ。
コリーナは、北半球上級魔法学校を卒業している。だから行きたい。コリーナのように、誰かに幸せをあげられる人になりたいから、と言い出したのだ。
普段から涙腺の弱い彼女は会話ができなくなるほど号泣し、ミランダを困惑させたのだった。
コリーナが在学していた頃より難易度が上がっており、受かるかどうかは正直微妙なラインだった。入学できたとしても、魔力があまり強くないミランダは苦労するかもしれない。しかし、本人が望むその道である。応援するに決まっていた。
あの日からもう、1年ほど経つ。ついに来月は入学だ。
ミランダは、その日出会った男の子のことを思い出していた。
白くてシンプルなアパートタイプの、2階の部屋に決めた。
手続きが済んで、帰ろうと階段を降りて行くと、彼はそこにいた。人がいるとは思っていなかったミランダは、心臓が口から飛び出すかと思うくらい驚いたが、あまり騒げない性格の彼女は、見た目上、固まって立ち止まっただけだった。
その時の彼の表情が忘れられない。
大好物のプリンが目の前に現れた時の子供のような、そういう顔で、ミランダのことを見上げていたのだった。
「は、はじめまして! ボクも新入生なんだけど、ここに住もうと思うんだ!!」
ブランチェット・ホームにいる子供達は、ミランダを含めて数人いるが、女の子ばかり。コリーナも早くに夫を亡くしている。初級学校と中級学校は共学だったが、男の子は、なんとなく粗暴で怖かった。仲良くできる男友達は1人もいないまま、ミランダは中級学校を卒業した。
つまり、男の子は苦手だった。
人懐こい銀色の瞳でぐいぐい話しかけてくるその男の子に、ミランダは当然戸惑った。しかし、横に並んでみると、あまり背が高くないはずのミランダよりもまだ小さい。さらに、ハーフパンツの裾から見える膝小僧には、治りかけのすりむけ傷がある。瞳と同じ銀色の髪は、寝癖なのかちょっと跳ねている。何とも無邪気で無防備なその姿に、自然と恐怖心が薄れていった。
「ボク、ウィズ・イクリプス。よろしくね!! ねぇ、名前を教えて?」
同じアパートに住む人が、怖い人だったらどうしよう。それはちょっと心配していたことだったが、少なくとも、人懐こい小動物のような彼がいてくれるなら安心かもしれない。
たとえ頭では怖くないと分かっていても、初対面の男の子と会話するなど、到底無理だったミランダにとって、自分でも驚く心境の変化だった。
「はい、これ。ミランダ」
「?」
コリーナから、お弁当箱くらいの大きさの小箱を渡された。プレゼント用の包み紙が可愛らしい。
「お祝いよ。開けてみて」
「…あっ!!」
包み紙をめくると、モビリンのパッケージが現れた。
ミランダの欲しいものの一つだったが、いつもあまりにも良くしてくれるコリーナに悪くて、ねだることができずにいたものだった。
「ありがとう! コリーナさん、ありがとう!!」
「お友達と連絡取るのに、必要でしょ?」
「うん、嬉しい!」
パッケージを開けると、真っ白で楕円形の新品のモビリンが、梱包材の間に収まっている。通常は、使い始めると持ち主の魔力に反応して染まり、髪や瞳の色と似た色に落ち着くが、ミランダの場合はおそらくこのまま真っ白だ。
ウィズのモビリンは銀色なのだろうか。ミランダと、連絡先を交換してくれるだろうか。
「私にも連絡するの、忘れちゃだめよ。今日も本当はついて行きたかったけど留守番だったから、気が気じゃなかったわ」
「うん、毎日連絡するね」
「あはは、真面目ね。毎日じゃなくてもいいのよ。充実して過ごしていると、すぐ1週間くらい経っちゃうんだから!」
「そうなの?」
「そうよ。便りが無いのは元気な証拠! …もちろん、あんまり長い間連絡がなかったら心配だけどね」
そう言うと、コリーナはミランダを抱き締めた。
「おめでとうミランダ。あなたは悩みを吐き出さずに頑張る癖があるから、無理だけはしないで」
「うん」
「寂しくなったり、困ったことがあったら、いつでも帰って来てね」
「うん…」
「私ももう若くないから、新しい子を受け入れる予定は無いの。あなたの部屋は、ずっとあなたのものよ」
「うん… うん…」
たまらずここで、ミランダが泣き出した。
実の親を見たことすら無いけれど、寂しい思いをしたことがないのは、とにかくコリーナのおかげだ。人見知りのミランダが、一番心許せる人である。
他の姉妹達が帰ってくるまで、二人は旅立ちの別れを惜しんだ。
*
今日は入学セレモニーがある。
ホウキで行けばまだ余裕だな、なんて思いながら、ウィズは歯磨きをしていた。1階にあるウィズの部屋の洗面所の窓からは、階段が少しだけ見える。何となく外を見ていると、階段を降りる音がした。今日はまだ在校生は授業がないから、こんな時間に出掛けるとしたら新入生のはずだ。
予想通り、白くてヒールの赤いブーツの先が見えた。ミランダだ。
ウィズはあわてて口をゆすぎ、玄関へ走った。
「ミランダちゃん!」
「あっ おっ おはようウィズくん…」
「おはよう! もう行っちゃうの? 早くない?」
「私は徒歩だから…」
「そうなんだ。ボクも今行く! ちょっとだけ待ってて!!」
「うん…」
早速お友達ができた! と喜んだものの、まだ突然声をかけられるのには慣れておらず、ミランダはばくばくと音を立てている心臓の上に手を当て、落ち着くために深呼吸をした。
昨日、廊下で会った時に挨拶はしたが、やっぱり緊張してしまって、モビリンの連絡先交換はおろか、今日の朝の予定すらも聞くことができなかった。昨日はそんなミランダの様子を察してか、ウィズもあまり突っ込んでは聞いてこなかったのであった。そんな様子だったから、もう別々に登校するしかないと思い込んでいた。
ほどなくして、ウィズが家のドアをばーん! と開けて出てきた。大きめのとんがり帽子が可愛らしい。
「健康にいいよね! ボクも歩いて行くことにする!!」
ウィズはよく喋る。
ミランダは元々物静かな上に緊張してあまり話せず、相づちを打つだけの方が多かったが、ウィズは特にそれをとがめない。返答に困るような質問もしてこなかった。
「学校、とっても楽しみだけど、ちょっと不安もあったりとか、しない?」
「うん… 私あんまり魔力が強くなくて。安定しないからホウキも乗れないし…」
「それで、徒歩なんだ」
「勉強ついていけるかな」
「大丈夫だよ! ボクも勉強得意じゃないし、魔法へたくそなんだ!」
「そうなの?」
「そうなの! なかなか受からなくて、実は2浪もしちゃった!!」
驚くべきことに、この小さな男の子はミランダより2つも年上だった。全然そうは見えない…。無邪気で可愛い少年である。
気まずい沈黙は1度も訪れることなく、目的地、アンバー・ハニカム大講堂までの道を歩き切った。
天気は爽やかな晴れ。はるかに浮かんだ筋雲が、ゆっくり流れていた。
*
こっくりとした甘い香りに包まれながら、ミランダは固まっていた。
座ったまま、こんな高いところまで持ち上げられてしまうなんて、全然予想していなかった。下は見たくないのに、下ばかり見てしまう。どうして手すりが無いのだ。危ないじゃないか。
校長先生が話し始めても、なかなか頭に入って来なくて、突然手元に現れたハチミツのボトルに驚き、思わず手を引っ込めてしまった。声にならない悲鳴を上げる。
「っ!!」
落ちちゃう!
でも、間に合わない!!
すくんでしまって動けないミランダの横から、さっと手を伸ばした男の子が、ボトルをキャッチした。
「ミランダちゃん、大丈夫?」
ウィズが、ハチミツを差し出してくれる。
「ポシェットに入れちゃった方がいいね」
「うん…」
ぼそぼそと返事をして礼も言えないまま、受け取ったハチミツをなんとか圧縮ポシェットにしまった。
もし下まで落としてしまったら大変だった。きっと割れたり大きな音がして、皆の無用な視線を集めてしまっただろう。ゾッとしながら、うっかりまた下を見てしまい、さらにゾッとする。
椅子の端をギュッと握りしめ、少し震えているミランダの右手。ウィズは、その上にそっと自分の左手を重ねた。
「大丈夫、落ちないよ」
驚いてウィズの方を見る。
「ボクが絶対、落とさない!」
セレモニーの進行を妨げないように小さな声で、でも力強く、ウィズは言った。椅子を握りしめる力が弛んだので、すかさずウィズはミランダと手を繋いだ。
校長が、ニヤリと笑って一瞬こちらを見たが、二人は気づかなかった。
*
セレモニーが終わり、ミランダがほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、なんとなくグループになった学生同士で、お昼を食べに行こうという話が持ち上がっている。
ウィズも、近くにいた学生に誘われていた。
「どうする? ミランダちゃん、ボク達も混ぜてもらう?」
「う、うん…」
友達は、欲しい。
人見知りも、克服したい。
自分から言い出せたわけではないけれど、誘ってもらえたなら、行かなくては。勇気はこういうところで使うべき。ミランダは思い切って、誘いに乗ることにしたのだった。
しかし、その勇気と覚悟は、残念ながら全然長持ちしなかった。
気さくな学生がどんどん声をかけ合い、グループは膨れ、学食に着く頃には10人を越えていたからである。10人どころか、15人はいたかもしれない。困った。きっと順番に自己紹介する流れになるだろう。
人前で、しかも初対面の人だらけで話すのは、とにかく苦手である。せめて少人数なら頑張りたかったが、この人数は自信がない。
席に着いたものの、ミランダはうつむいてしまい、何を話せばいいのか一所懸命考えた。だが、考えれば考えるほど、言葉はミランダから逃げ出して行ってしまう。何も思いつかないのだった。
「じゃあ、順番に自己紹介をしようよ!」
予想どおり、気さくな学生が提案する。まぁそうだろう。自己紹介なしで、いきなり談笑してご飯が食べられるほど、まだお互いを知らないのだから。
いよいよ追い詰められたミランダは、泣きそうだった。
「あ、ゴメンちょっと、ボク達抜ける!」
隣にいたウィズが、急に立ち上がった。
「ボク、ウィズ! この子はミランダ。よろしくね。でも、ミランダちゃん、高いところ苦手で、さっきのセレモニーで疲れちゃったみたいだから」
そう言われたミランダは、誰が見ても確かに気分が悪そうである。
「いいよいいよ、無理しなくて! ウィズとミランダね。また今度!」
隣に座っていた女子学生も、とがめずに笑顔で許してくれた。
助かった…。
ウィズに手を引かれてテーブルを離れながら、ミランダは心が痛かった。助かった、とは思ったものの、登校初日から、助けてもらってばかり。何もできず、困ってばかり。情けなくて、情けなくて、涙が出そうで、唇を噛んでいた。
学食の一番端っこの席まで来て、ウィズはミランダを座らせた。ウィズは向かい側の席に座る。
「ああいうの、苦手だった? 気づかなくてごめんね」
「ううん… こちらこそ、ごめんね…」
「うん?」
「ウィズくんに友達ができるところだったのに、私のせいで…」
「大丈夫だよ! 同級生だもん。そのうち話す機会くらいあるよ。気にしないよ!」
ウィズは、ニカッと歯を見せて笑った。
ミランダは、ありがたさと自分の情けなさで、こらえられず瞳が潤む。
「うぅ… どうしてそんなに優しく…」
「…苦手な空気の中で、自分を殺して居続けるのって、苦しいよね。ボク知ってるから」
「…」
ありがとうと言いたいが、言葉が出てこない。これ以上、どうやって涙をこらえよう。唇を噛む力が強まった次の瞬間、ウィズは唐突に、とんでもないことを言った。
「あとね、一目惚れかな」
「えっ?」
「ミランダちゃんに!!」
だからね、下心なの、とウィズは続けた。正直すぎる。
どうして涙をこらえていたんだっけ? 一瞬にして忘れてしまうほど、ミランダの頭は真っ白になった。そのあと、何とかして学食で昼食を食べたはずだが、何を食べたか、どんな味だったか、まるで記憶がない。
「ボク、ミランダちゃんの彼氏になりたいなぁ」
今日1日だけで、もう何度目か分からない衝撃を受けて、ミランダは思考停止状態だった。
今日の午後は、特に授業もない。ウィズとまた歩いて帰りながら、ミランダは何も話せなかった。朝と同じ道のりだが、なんだか長く感じた。
15歳は、まだ子供だと思う。15歳同士の「おつきあい」だったら、友達に毛が生えた程度でもいいと思う。多分。しかし、幼く見えても隣を歩いているこの少年は、2つも年上ではないか。どこまで考えているのか、何を自分に望んでいるのか、さっぱり分からない。
「あんまり深刻に考えないで。友達に毛が生えたくらいのものだから! それに、ミランダちゃんが嫌だとか、怖いと思うことは、絶対しない!」
まだ入学セレモニーが終わったばかり。こんな、会ったばかりの女子に、彼氏になりたいと発言するなんて、もしかして、すごく軽い男の子なのでは? もしかして、すごくプレイボーイ?
「ボクも、一目惚れなんて初めてしたから、よくわかんないけど、うかうかしてて、ミランダちゃんが誰かに取られちゃったら、嫌だなぁって思って…」
口に出してすらいないミランダの不安を、ウィズはことごとく潰してくる。真実である保証はどこにもないが、嘘をついているようにも見えなかった。
「それとも、誰か他に好きな人がいる? ボクのことは嫌い?」
ミランダは慌てて首を横に振った。
嫌いなものか。初めて出会ったその日から、何度ウィズのことを思い出したか分からない。今日だって、ウィズがいなかったら、どこかで1人泣いていたかもしれない。
でも、好きか、と聞かれたら、まだ分からないというのが正直なところだった。
「まぁ、戸惑うよね、そうだよね。じゃあこうしよう! お試し1週間!! 騙されたと思って、ね!!」
ウィズの提案はこうだ。
お試しで1週間、恋人ごっこをして欲しい。それで嫌だったら、普通の友達に戻りましょうとのことだ。断るのが苦手なミランダは流されるほかなく、その条件を飲むことになった。
かくして、1週間のお試し期間が始まった。
一緒になって教室を間違えるハプニングはあったが、怖がりで泣き虫なミランダのエスコートは概ね完璧。放課後お話するのはアパートの談話スペースを利用し、ミランダの部屋には決して上がり込まない。そして、手を繋ぐ以上のことは一切してこなかった。
まぁ、入学直後の1週間そうしていれば、周囲からは「いつも一緒にいる2人」と認識されてしまうわけで、まんまと外堀を埋められたとも言える。ブランチェット・ホームを離れている寂しさも相まって、結局ミランダは折れた。
しかし、いずれにしても、嘘でもいいから騙されてみたいと、ちょっとでも思ってしまったミランダの負け。ウィズの勝利である。
「ボクも1週間、ミランダちゃんのことを見てたけど、ボクやっぱりミランダちゃんが好き! ねぇ、これからはみーちゃんて呼んでいい?」
勝敗が決まったその晩、ミランダはコリーナに近況報告をした。しかし、いきなり「彼氏ができました」とはとても書けず、「新しいお友達ととっても仲良くなりました」と送ったのだった。