116話 謎の女性
暗殺者の男は倒し終えたのでネオンの方に視線を向けると未だ戦闘中の様だ。
戦斧を背負っていた大男は床にうつ伏せになっているので倒したのだろう。
もう一人の騎士や私兵を吹き飛ばした男は無傷でネオンと戦っているが、ネオンはかなり息が上がっている。
大男に体力を大分削られた様だ。
「ネオン、代わりに倒してやろうか?」
「はぁはぁ、大丈夫ですので奥に進んでください。運動不足なだけですから。」
そう言って男に斬り掛かっていく。
「あいつやられたのかよ、役に立たないな。」
突き出した掌から空気の塊の様な物がかなりの速さで打ち出される。
ネオンは何とか足に力を入れて踏み止まる事が出来たが、意識していないと簡単に吹き飛ばされてしまいそうである。
次々に打ち出されているので中々距離を詰めきれない様である。
しかし男の方も決定打となる攻撃は無い様だ。
腰に剣を下げてはいるが未だ抜いておらず、遠距離で様子見をしている。
「なら逃げられても面倒だし、先に行ってるぞ。」
櫓は通路の端っこを通って外で見た領主のいる奥の部屋に移動する。
しかし敵の男が通すまいと櫓に掌を向けてくる。
「そう簡単に行けると思わないでほしいね。」
「貴方の相手は私ですよ。」
櫓に気を取られてる隙に一気に距離を詰めて斬り掛かるネオン。
攻撃は躱されたが櫓への攻撃も出来ていない。
その間に櫓は戦っている二人を抜き去って扉に向かう。
罠を警戒して透視の魔眼を発動させるが特に扉付近に罠は無い。
部屋の中には領主の他に三人いる。
その内二人は扉の両脇で剣を構えている。
櫓が入った瞬間に二人がかりで斬り掛かってくるつもりだろう。
特に騎士は障害にならないと判断して普通に扉を開ける。
「おらぁ!」
「くらえ!」
二人同時で剣を振り下ろしてきたが、知っていたので回避は簡単だ。
「閃拳!」
目にも止まらぬ速さで放たれた量拳が左右の騎士の腹に埋まり、その一撃で意識を刈り取られた二人が床に崩れ落ちる。
「また会ったな領主。」
「ひ、ひいいいぃ!?」
騎士二人が目の前で簡単に倒されてしまい、かなり動揺している。
悪い事をしているという自覚はある様で、街での偉そうな態度は無く、自分に唯一楯突く櫓に怯えている。
「大人しく投降しろ。」
「だ、だまれ!おい高い金を払っているんだ、早くこいつを殺せ!」
領主は座って呑気に酒を飲んでいる女に向かって叫ぶ。
「ギャアギャア喧しいね、酒が不味くなっちまうよ。」
そう言って女は犬耳を塞ぎながら酒瓶を呷っている。
(獣人か、珍しいな。)
領主に任命されたと言う事は、爵位は分からないがこの領主も貴族なのだ。
貴族は獣の特徴を持つ獣人を差別している者が多く、雇う者も居るが高額な金を出したり、目の届く範囲で好き勝手な行動をさせたりする者などはいない。
つまり普段の行動を大目に見ても、お釣りが来るだけの仕事をするのだろう。
「き、貴様、雇い主の命令が聞けないのか!?」
「なんだい?私と殺ろうってのかい?あんたから殺ってもいいんだよ?」
「うぐっ!?」
領主に対して一歩も退かずに対等に言い合っている獣人の女性。
言い負かして再び酒瓶を美味そうに呷っている。
「まあ貰った分の仕事はするさ。」
そう言って初めて櫓の方に視線を向けてくる。
結構呑んでいたのだろう、口調はハッキリしているが酔いが回って顔が赤くなっている。
「ん?あんたが領主の言ってきた相手かい?」
「そうみたいだな。」
「ふーん、中々良い男じゃないか。」
櫓の事を上から下までじっくりと眺めて何やら考えている様だ。
「前言撤回だ、戦いより一緒に飲まないかい?」
「っ!?」
櫓は扉を開けた位置から動いておらず、部屋の中に置いてある机で呑んでいる獣人の女性を見ていた。
しかし気が付いた瞬間に隣から女性の声が聞こえ、肩を組まれていた。
櫓は肩組みからすり抜け、女性と距離を取る。
「おっとっと、急に動いたら酒が溢れちまうだろ。」
揺れて溢れそうになった杯のバランスを取りながら言う獣人の女性。
急に接近されたのが先程の暗殺者の様なスキルなのであれば能力を知っておこうと調査の魔眼を発動させる。
名前 ???
種族 ???
年齢 ???
スキル ???
状態 ???
しかし表示された情報からは何も得る事が出来ない。
どう見ても獣人だろうと思える耳も見えているのに、種族すらも獣人と表示されない。
全く情報が表示されないと言うのは初めての事なので警戒度が増す。
(メリーの様に魔法道具で隠している感じか?しかしメリーの時と違ってそれらしい魔法道具は見当たらないな。)
外見に身に付けているそれらしい魔法道具を調査の魔眼で調べるが、身体強化や耐性が付与された物ばかりしか見えない。
相手の言動に惑わされず、次は見逃すまいと気を引き締めて向かい合った。
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