29話 櫓様にもらった剣の仇
冒険者の遺体をボックスリングに入れた櫓達は、ローガン山脈の麓まで下り馬に乗ってロジックに向かった。
ロジックは午後十時には門が閉められ中に入れなくなる。
昼過ぎに出発したが、片道半日かかるため今日中に着くのは無理だと判断して、来た時と同じく途中で野営することにする。
「じゃあ早速スキルの練習といくか、この薪に火つけてくれ。」
「ぅえ!?」
ボックスリングから薪を取り出していつも通り火を起こしてくれるかと思ったら、ネオンに火をつけるように言う櫓。
いきなりすぎて素っ頓狂な声を上げてしまった。
「なんて声出してんだ。安心しろたとえ火加減を間違えたとしても必ず守る。」
「わ、わかりました。」
ネオンの変な声に微笑しつつ落ち着かせる。
変な声を出してしまったためか、櫓の真剣な言葉に照れてしまったためか頬を赤く染めながら了承する。
「スゥー・・・ハァー、落ち着いて、使用する魔力は少し、薪に少し火をつける程度の火力。」
ネオンはトラウマのため七年間狐火のスキルを使用していない。
スキルも魔法と同じくイメージが重要となる。
久々のため言葉に出してイメージを明確にしていく。
薪に向けて右手を伸ばす。
「狐火!」
魔力を消費して右手の少し前に小さな火の玉ができる。
それを薪に向けて飛ばすと、着弾してすぐに薪に火がつき焚き火が完成する。
「ふぅ〜、よ、よかった〜。」
「やったなネオン、上出来上出来。」
「ありがとうございます〜。」
成功して力が抜けたのか、その場に座り込む。
「取り敢えず座っとけ、串焼きは俺が用意するから。」
「すみません櫓様。」
ボックスリングから取り出したホーンボアの肉を一口サイズに切り分けて串に刺し、塩をサッとかけて焚き火の周りに並べていく。
「悪かったないきなり使わせて。」
「い、いえ。使えるようになりたいと言ったのは私ですから。」
「にしても一発成功してよかったな。成長したことにより魔力制御の技量が上がったとかか?」
「それもあるかもしれませんね。まあ薪に火をつける程度の事はできましたが、問題はそれ以上なんですけどね。」
「焦らず少しずつ火力を上げて練習していこうぜ。俺の雷帝のスキルなら、火で周りを囲まれようと一瞬で抜け出したりもできるんだからさ。」
「はい!頑張りますのでよろしくお願いします。」
焼けた串焼きを食べ終えたら、交代で見張りをしつつ仮眠をとる。
先に櫓が寝てネオンが見張りをする。
焚き火の薪が燃える音のみがしばらく聞こえていたが、ここから見えるすこし遠くの森の中で何かがこちらに向けて歩いてきている音がした。
獣人は普通の人間より身体的能力が高いため、常人に聞こえないはずの距離での音もネオンは聞き取ることができた。
ネオンは櫓が起きないようにそっと立ち上がり、忍び足で森に近づいていく。
森から出てきたのはゴブリンであったが、既に至るところに切り傷をつけ血を流していた。
ネオンを見つけると邪魔だとばかりに持っていた木の棒で殴りつけてくる。
「そんな攻撃あたりはしません。」
ゴブリンの攻撃を軽々避け、ロングソードにより一刀両断にする。
しかしまだネオンは警戒を緩めてはいない。
ゴブリンのきた方向からまだこちらに向かってくる音がしているからだ。
「このゴブリンの様子からして何かから逃げてきていたようですね。」
ネオンが油断なく構えていると森の中から出てきたのは、標準の大きさよりは小さいながらも櫓と出会った時に自分が殺されかけた相手。
「あ・・・アイアンアント!?」
「キシャアアア!」
「ぐっ。」
ネオンを見つけると鎌のような前足で斬りかかってくる。
咄嗟にロングソードで受け止めるがその重さに歯噛みする。
前に見た時より小さいがそれでも二メートルはあり、ネオンよりも大きい。
攻撃を受けて止まっていたネオンに再度前足が振られる。
咄嗟に躱してロングソードで斬り付ける。
「はあっ!」
アイアンアントの足の根元に振り下ろしたが当たった瞬間剣がバキンッという音とともに半ばから折れてしまった。
「なっ!」
ネオンには分からなかったがアイアンアントが鋼鉄化のスキルを使い、身体の強度を高めたためであった。
そしてその様子を寝たふりをしながら遠見の魔眼により観察する櫓。
実はネオンが立ち上がったあたりから既に起きていた。
(剣が折れちまったか、あれはやばいな。いつでも助ける準備はできてるがネオンどうする。)
ネオンが助けを求めてきたらすぐに駆け付けれるようにはしていた。
しかしネオンがそうするまでは様子見をしようと決めていた。
「剣が折れてしまっては・・・いやまだ私にはスキルが。」
アイアンアントの攻撃を躱しながら戦いの続行を選択する。
「薪に火をつけた時よりも少し多い魔力を、だいたい私の拳くらいの火の玉を、両手に一つずつ。」
薪に火をつけた時と同じく言葉に発しながらイメージを明確にしていく。
「狐火!」
「キシャアアア!」
噛み付いてこようとしたアイアンアントに向けて右手の火の玉を放つ。
アイアンアントの顔面に直撃して一気に燃え上がる。
「キシャアアアアアアアアア!!!」
悲鳴のような声を上げてネオンから逃げようとする。
しかしまだネオンの左手には火の玉が残っている。
「燃えろおおおお!」
残った火の玉も放ち背中に着弾して全身を火に包まれる。
「キシャ・・・ア。」
アイアンアントの声が小さくなっていき次第に燃える音しか聞こえなくなる。
(戦闘でもしっかり使えたな。まぐれってこともあるから注意は必要だが徐々に慣らしていけば、ネオンにとってかなりの戦力となってくれるだろう。)
そんなことを考えているとネオンの狐火によりアイアンアントは跡形もなく燃え尽きた。
ネオンはそれを確認すると焚き火の場所まで戻り、また見張りを再開する。
「はぁ〜、櫓様にもらった剣が・・・どうしよう。」
ネオンが小声で呟いた。
アイアンアントをスキルで倒した喜びよりも、剣を折ってしまったことの方で落ち込んでいた。
(それリザードマンの住処で大量に手に入れた安物なんだけど・・・。帰ったらもっといい装備買ってやるからな。)
どうでもいい安物の剣で落ち込ませてしまい、櫓の方が申し訳ない気持ちになってしまい密かに決意して再び眠りについた。
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