106話 魔法道具のご注文
「なんとでも言え。」
目の前にいるメリーに文句を言われても何処吹く風と言った感じで果汁水を飲んでいる櫓。
「うぐぐぐぐぅ!」
ローブで顔は見えないが、それを見てますます怒りが増している様な声をあげている。
「メリー落ち着いて下さい。」
隣に座っている藍がメリーの方に手を置いて椅子に座らせる。
「だってこの詐欺師に騙されたのよ?明らかに交換した情報量が違うじゃないのよ!?」
「しっかりと事前に確認していなかったこちらのミスなのです、取り敢えず怒りを抑えてもらえないと話が進みません。」
「くうっ!?」
メリーは藍に言われて渋々引き下がった。
その代わりに怒りをぶつける様に、テーブルにある様々な料理をやけ食いしている。
「申し訳ありませんでした、メリーが数々の暴言を浴びせてしまい。」
「パーティーのリーダー変わった方がいいんじゃないかな?」
「なぁんでぇすってぇ!?」
それを聞いて再び怒りを顕にするメリー。
「どうどう、素直で真っ直ぐなのはメリーの良い所ですが、馬鹿正直だとも言えます。そして今回は私の補佐が不充分だったのです、悪いのはメリーだけではありません。」
「そんな、藍は悪くなんて、元はと言えば櫓君が。」
「メリーそれでは同じ事の繰り返しです、話を戻しましょう。新たな対価をお支払いしますのでこちらの望む魔法道具を作り出してもらえないでしょうか?」
「対価か、どうするかな。」
口ではそんな事を言いつつ、協力してあげる気ではいた。
魔眼の情報どころか、そのスキル自体が手に入ったのだ、メリーには充分過ぎるほど感謝していた。
メリーの事をからかったのは、魔眼の事に関してもそうだが正直過ぎて詐欺などに簡単に引っかかりそうだなと思ったため、こう言う立ち回りを演じたに過ぎなかった。
「メリーの新たな情報、私に関する情報、お金でも結構です。我々はそこそこ稼いでいますから。」
藍が提示してくるが、メリーの呪いについては戦っている最中にペラペラと情報を漏らしてくれたので何となく分かっている。
そして藍の情報に関しては、調査の魔眼で知る事が出来るので聞く意味はない。
お金に関しても素材売却で明日には大量に入ってくるので、特に困っていない。
「まあ貸しと言う事で良ければ作ってやろう。」
「貸し、ですか?」
「ああ、今出された条件よりもAランクパーティーに貸しを作っておければ、今後役に立つかもしれないしな。」
「分かりました、それで構いませんよねメリー?」
「ええ、私は櫓君と違って約束を違えたりしないわ。」
「なら交渉成立だな、何を作って欲しい?」
現存しない道具であっても、作り方が分からなくても、何でも作れるのが錬金術の名人のスキルである。
しかし作りたい物の素材が全て揃っていなければ作ることは出来ない。
「火耐性が付加されている魔法道具です。」
「それくらい店売りでもあるんじゃないのか?」
「ええ、しかし付加されている能力が低いのです。私達が求めているのは火耐性Lv五の魔法道具なのですが中々見つからず。」
「だろうな、耐性Lv五なんて店売りで俺も見たことはない。」
付加されるLvが一つ上がる毎に、作る難易度や道具の価値は跳ね上がる。
火耐性Lv五と言えば、火に対する攻撃のみだが五割カット、つまり半減させられると言う事だ。
火を扱う事に長けている魔物と戦う時には間違いなく重宝するだろう。
「作るのは難しいでしょうか?」
藍は櫓の発言を聞いて不安になる。
知り合いの錬金術師にも直接作って欲しいと頼んだりしていたのだが、難易度の高い物を作ると失敗も多くお金が大量にかかるかもしれないのと、作る自信が無いからと断られていた。
「別に素材さえあれば問題ないぞ。」
櫓があまりにも平然と答えるので、二人は少し呆気にとられてしまう。
オークションに出品するために既に火攻撃Lv五の杖を作成している櫓にとっては、素材さえあれば何も問題はない。
「ほ、本当ですか?素材はこちらで揃えます、何がいるのでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ。」
櫓はボックスリングから取り出した紙に、錬金術の名人で作る際に必要だと表示された素材を書いていく。
「これが一個分の魔法道具を作るのに必要な素材だ。」
櫓は書き終えた紙を差し出すと、メリーが奪う様に受け取り内容を確認していく。
「幾つかは持ってるけど、他は買ったり採取したりするしかないわね。」
「それでも近場で事足りそうですね、この素材だけは少し高そうですがお金には余裕がありますし問題無さそうです。」
二人は紙を見て素材の入手方法について話し合っている様である。
「そう言えば火耐性Lv五の魔法道具を欲しがるなんて、何かそう言う敵と戦う予定があるのか?」
ふと疑問に思ったので聞いてみた。
「直近での予定はありませんが、高ランクの依頼の討伐対象などにはそう言った敵が多いのですよ。」
「私達の戦い方だと、藍が一定距離近づかないといけないから、危険なのよね。だからそう言った耐性系の魔法道具は探していたのよ。」
なるほどと櫓は納得する。
自分のパーティーではロジックで依頼を受けた際に、周辺にそう言った敵は少なかった。
ロジックの周辺は比較的強い魔物が少ないためだ。
しかしAランクパーティーともなれば、受ける依頼は強い魔物との戦闘が多くなって当然だろう。
備えておきたいと思って当然だ。
「そう言えばこの街に滞在するのは今日を含めて一週間だ、それを過ぎれば旅立つからそれまでに頼むぞ。」
櫓が話し合っている二人に向けてそう言い放つと、二人はガバッと揃って紙から顔を上げる。
「一週間ですって?もう少しゆっくりしていなさいよ!」
「まずいですよメリー、この素材はこの街に売られているかどうか分かりません、直ぐに探さなくては。」
二人はバタバタと慌ただしく席を立ち、急いで去っていった。
「お会計は済ませておいてあげるわ。」と言う言葉を残して。
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