104話 魔法で逆転
藍に合わせてクロードが動き、真っ向から迎え撃つ。
クロードは短剣二本を操る双剣使いで、藍は小太刀を扱っている。
藍が小太刀で真正面から高速で斬り込んできたのを短剣で受け止める。
「中々いい動きだな、瞬刀と言う二つ名なのも納得だ。てか俺も観戦ばかりしてられないか。」
櫓も遠距離からメリーを攻撃しようと、雷帝のスキルで手に雷を纏わせる。
するとクロードと斬り結んでいた藍が後ろに下がって距離を開け、懐から取り出したナイフを四つ櫓の方向に向けて投げた。
しかし投げられたナイフは櫓の位置から少しズレた場所に飛んでいったので投げミスかと思った途端、ナイフが段々と近づいてくる。
よく見るとナイフに極細のワイヤーの様な物が括り付けられており、ワイヤーを操っている藍が自分を中心にナイフを遠心力で大振りに振り回しているのだ。
「面白い攻撃をするな。」
櫓は上半身のみを後ろに反って四本のナイフを躱す。
そのナイフはそのまま大振りに回りながらクロードに襲い掛かる。
クロードはその場で屈んでやり過ごしたが、直後右肩に鋭い痛みが走る。
「っ!?」
見るとナイフが浅く突き刺さっている。
さっきの四本とは別に藍が投擲した物だった。
それにもワイヤーが括り付けられており、刺さって直ぐにワイヤーで引き戻して回収する。
「一方ばかりを見て油断しましたね。」
「この程度の浅い傷大した事はありません。」
「それはどうでしょうね。」
藍は櫓とクロードに懐から取り出したナイフを投げて、牽制しながら素早く後ろに下がる。
そしてある程度メリーと距離が近づくと、血の付いたナイフを鞘の様な入れ物に入れてメリーに投げ渡す。
そして今度は直ぐ様櫓の方に向かった。
「貴方の相手は私ですよ。」
クロードがその間に割って入ろうと、短剣を構えながら斬り込む。
「残念だけど貴方は退場よ。」
メリーはニヤリと笑いながらローブの中から藁人形を取り出す。
そして藍から受け取ったナイフに付着している血を藁人形に垂らす。
「この藁人形を通じ、対象の右足を呪い封ずる。」
メリーが喋りながら針を藁人形の右足に突き刺す。
するとクロードがその途端に地面に倒れ伏す。
「なっ!?右足が動かない!?」
「そこで大人しくしてなさい、これで二対一よ。」
藍と距離を取り膠着状態の櫓に向けてメリーが言い放つ。
さらに藁人形の残りの四肢にも針を突き刺していき、クロードは地面に沈んでいる。
「つまり敵の血さえあれば勝てると言うことか。」
クロードの血を藍が取り、それをメリーに渡して呪いを発動され、クロードは動きを封じられた。
その行動を見て二人の戦い方を把握したが油断はしない。
一連の動きはブラフで、他にも呪いを発動させる方法があるかもしれないためだ。
「そう言うことよ、私と藍が組めば格上にだって負けないわ、たった一撃入れるだけで勝ちなんですもの。」
藍は気を抜かず櫓と相対しているが、メリーは余裕の態度でご機嫌である。
「つまりどちらか欠ければ力は半減するかもしれないな!」
櫓は思い切り地面を踏み込みメリーに向けて突っ込む。
当然藍はその間に割って入って小太刀を振るって来るが、耐性の手袋を嵌めた手で受け止められてしまう。
「攻撃速度が速くても掴まれてしまえばどうしようもないだろう。」
「それならどうにかしてあげるのが相方の役目よ。」
藍の後ろにいたメリーが頭に被さっているフードを少し持ち上げ目を晒す。
(オッドアイだと!?)
メリーの右目はこの世界で一般的な茶色で、少し分かりにくいが左目は黒寄りの茶色と言った感じである。
櫓は思わずメリーの目を見てしまい、その途端身体が石の様に固まって自由が効かなくなる。
「時間がないから今のうちよ藍!」
「分かってる。」
藍は櫓に掴まれている小太刀を引き抜き、近場の腕を浅く斬る。
そして既に退避していたメリーの元までそのまま急いで後ろに下がる。
止まっていたのは三秒ほどで、直後櫓の身体に自由が戻り雷帝のスキルで手に雷を纏わせていく。
「この藁人形を通じ、対象の右足を呪い封ずる。」
「雷撃!」
櫓の攻撃より僅かに早く、櫓の血を垂らした藁人形に針を突き刺すメリー。
雷撃を放とうとした櫓の右足がガクンと曲がり、雷撃はあらぬ方向に飛んでいく。
その後クロードと同じ様に藁人形の四肢に針を刺して櫓の自由を奪っていく。
「ふふふっ、どう?これが私と藍、希望の光の力よ!」
メリーは勝ちを確信してご機嫌である。
「もう針は刺さないのか?刺されてない部分に雷を纏わせることは出来るぞ?」
「一人に対して使用できる針は四つまでなのよ。それと貴方の攻撃の有効射程範囲内には入ってないから大丈夫よ。」
メリーと藍は雷帝のスキルを警戒して少し離れている。
櫓は手足を使わなければ雷の操作力が極端に悪くなり、周りに放電する様な単純なことしか出来ず、その距離もあまり広くはない。
そして二人は充分に距離を取っているため、雷帝のスキルで攻撃を与える事は難しい。
「さあ降参しなさい、なんならさっきの発言を撤回してパーティーに参加してもいいわよ?」
「もう勝った気でいるのか?」
「その状態で何か出来るのかしら?」
「質問で返してやるよ、そんな遠くにいて間に合うか?俺の魔法に。」
櫓の魔法と言う言葉が聞こえた瞬間に懐から取り出したナイフを櫓に向けて投げる藍。
しかしそれは全て雷帝のスキルによる放電で弾かれてしまう。
藍はその後直ぐに突っ込み小太刀で斬りかかろうとするが、先に櫓の詠唱が終わってしまう。
「天召・三雷!」
櫓が魔法を発動すると一瞬視界が白で埋め尽くされ、耳を劈く様な爆音が響き渡る。
視界に色が戻って来ると櫓の近くまで来ていた藍が地面に倒れる。
今の一撃が死に至る程の攻撃だったため、外傷は一切無く気絶している。
「あ、藍!?」
「さあ呪術師、俺より先に止めをさせるか?」
櫓がまた詠唱を開始するとメリーが慌てて待ったをかけてくる。
「わあああ、待って待って、降参よ降参!」
メリーには攻撃手段が無いわけではないが、身体能力がそれ程高くない。
素早い藍が距離を詰めきれなかったのを見て、両手を上げて負けを認めるしかなかった。
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