102話 Aランクパーティー
「そうだけど、あんたら誰だ?」
向こうは自分のことを知っている様だが、櫓はこの二人の事を知らない。
「私はメリー・カースド、冒険者をしていて、パーティー名希望の光のリーダーよ。」
「同じく冒険者の斑 藍です。」
二人は冒険者カードを見せながら自己紹介をしてきた。
(二人ともAランクとは高いな。ローブの方はあの身のこなしでは疑わしいけど。と言うかこの世界に来てから俺以外で初めて漢字の名前を見たな。)
正確に言えばこの世界の文字と元いた世界の字は違うのだが、この世界の字を習っていくに連れて平仮名、片仮名、漢字の様な概念がある事も学んだ。
そして眼鏡を掛けている女性の名前はこの世界で言う所の漢字に当たるのだ。
「それでAランクのお二人が俺に何の用だ?」
「単刀直入に言うわ、私のパーティーに入りなさい。」
メリーがビシッと櫓を指差しながら言い放った。
ここはまだ冒険者ギルドの中である。
まだ夕方前で人は少ないとは言えいないわけではない。
「おいおい、あの男希望の光に勧誘されてるぞ。」
「うわー羨ましい、女の子二人だけのパーティーと組めるなんて。」
「俺の事も勧誘してくれねーかなー。」
「無理無理、あんたの実力じゃ勧誘なんてされないわよ、二人ともAランクなのよ?」
メリーの声が大きかったため、周りの冒険者がそれを聞いてざわついている。
「なんで俺を誘うんだ?」
「貴方が強いからよ。私達もロジックに滞在していたんだけど、貴方の噂を色々聞いたの。いきなりBランクになったとか、冒険者になって直ぐに魔人を倒したとか、最強の傭兵団を部下にしたとかね。」
メリーが言っていることは全て本当の事だ。
しかしそれは本当の事であっても普通のことではないので、それを聞いた周りの冒険者達は驚きざわついている。
「なるほどな、人違いではない様だ。」
「当たり前よ、ちゃんと調べてわざわざ貴方をスカウトしに追ってきたんだから。これからよろしくね!」
メリーは笑顔で右手を差し出してきた。
断られるとは微塵も思っていない様である。
後ろで待機している藍はそれを見て小さく溜息を吐いている。
「いや、悪いがパーティーに入る気はないぞ?」
「え?」
メリーは櫓が断るとは思っていなかったため、素っ頓狂な声をあげている。
「と言うか俺は既にパーティーを組んでいる、他を当たってくれ。」
そのまま立ち去ろうとすると、メリーが急いで行く手に立ちはだかる。
「ちょちょちょちょっと待ってよ、なんで断るの?女の子二人しかいないからハーレムなんだよ?Aランクパーティーなんだよ?お金だって沢山あるから困らないんだよ?」
「俺のパーティーも女の子しかいないし、パーティーランクは別に拘ってないし、俺も金なら沢山持っている。」
メリーが提示してくる条件は既に今のパーティーで事足りている。
それに邪神討伐の目的があるため、他の者の下につき行動するつもりはない。
「そんな〜、私のパーティーには貴方が必要なのに〜、世界一強いパーティーを作る私の目標が〜。」
「強い奴が欲しいなら別に俺でなくてもいいだろ?」
「貴方はそこら辺にいる冒険者とはレベルが違うじゃない、今はBランクだけど既にAランク以上の実力を持っているし。ねえ〜お願いよ、私のパーティーに入ってよ〜。」
肩を掴んでガクガクと揺らしながら懇願してくる。
「揺らすな、いくら頼まれても今のパーティーを抜けるつもりはない。」
櫓にキッパリと断られてガクッと膝をつく。
「そんな雑な頼み方で仲間になってくれる訳ないではないですかメリー。」
それまで黙っていた藍がやれやれと首を振りながら櫓の前に出てくる。
「これがなんだか分かりますよね?」
藍は腰に下げている袋の中から取り出した物を櫓に見せる。
「それは雷華草!?」
見せられた物は花弁が黄色く雷マークの様にギザギザした華だ。
ロジックにいた頃、錬金術の名人で作ろうとした物の材料に必要で探し回ったのだが、見つけることが出来なかったのだ。
「櫓さんが雷華草を欲しているのは知っていました。」
「それを渡す代わりに仲間になれってか?」
藍は左右に首を振りながら答える。
「流石にこんな物では対価にはならないでしょう。私は今回の勧誘は無理と判断して、代わりに櫓さんの情報を少しでも得たいと考えています。」
「なるほど、情報と雷華草の交換と言う訳か。何の情報が知りたい?」
「私は櫓さんがどれほど強いのか知りたいのですが、直接戦っている所を見たことが有りませんので、メリーと模擬戦をしていただくと言うのはいかがですか?」
藍は床に膝をついて項垂れているメリーに視線を向ける。
「え?私?」
自分に話が来るとは思っていなかったため、顔を上げて首を傾げている。
「少しでも強い所を見せれば気が変わってくれるかもしれませんよ?」
「確かに!私ギルドの訓練場の使用許可貰ってくる。」
メリーは藍の言葉に乗せられて、元気よく受付嬢の元に歩いて行った。
「まだ戦うとは言っていないんだがな。」
「それでも負けるとは思っていない様に見えますから、受ける気ではあったのでしょう?」
「まあな、雷華草を探していたのは事実だし。」
「これは引き受けていただいたお礼に差し上げましょう。」
藍は手に持っていた雷華草を櫓に差し出す。
「いいのか?戦う前に持ち逃げするかもしれないぞ?」
「そんなことをしないのは分かっていますが、それならば追加報酬を用意しましょう。メリーに勝てたのならばこの雷華草の群生地を教えますよ、この街からそう遠くない場所にありますので。」
「なるほどな、確かに今後のことを考えればこれだけでは足りないからな、持ち逃げの選択は無くなったか。」
櫓は速攻で倒して雷華草を取りに行こうと心の中で決めた。
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