28話 ネオンのトラウマ
「・・・。」
「・・・。」
「さて、帰るか!」
「帰るかじゃないですよおおおぉ!」
クレーターを見ていた櫓はネオンの方に振り返って笑顔で言うが、ネオンは櫓の魔法の凄まじさを目の当たりにして、はいそうですかとはいえなかった。
櫓の魔法を見るのは初めてではない。
今までに見た櫓の魔法はネオンが人生の中で目にしてきた魔法使い達とは、魔法の威力や現象の豊かさなど比べるまでもないくらい秀でていた。
それでもネオンの見た魔法使い達は冒険者のランクで言えば中堅以下、冒険者で言えば上位の櫓ならそれも当然だと思っていた。
しかし今回使った魔法は今までの魔法とは次元が違う。
圧倒的な破壊力に避ける暇もない速度、少なくともネオンは自分では避けることもできないだろうと感じていた。
「なんですか櫓様今の魔法は!?そんな凄い魔法が使えたんですか!?それに雷系統の魔法にあんなのありましたか!?」
「落ち着け落ち着け、そう何個も質問してくるな。取り敢えずさっきの魔法は俺も使ったのは初めてだったから、あんなに威力が強いとは思わなかったんだ。それとあれは自分で考えた魔法だから魔法書には載ってないぞ。似た様なのはあるかもしれないけどな。」
「オリジナル魔法であんな凄い魔法を考えるなんて・・・。」
「まあそれは一旦置いてこれからどうするか話し合おう。」
「むぅ、わかりました。」
納得いかなそうな感じだが、いつまでもここで話し合っていても仕方ないということでネオンが折れる。
「敵は倒したのですから早速ギルドに報告に行くべきではないですか?」
「冒険者の死体はどうするべきだ?」
「基本的にはアンデットにならないように、そして魔人を生まないために、燃やして弔うことになっていますけど。」
「燃やす・・・そう言えばずっと気になっていたんだが、俺と出会ってからスキルを使ってないよな?名前からして火を使うスキルなんだろうけど使えないのか?」
ずっと櫓が気になっていたネオンのスキル。
何か理由があるのかもしれないと思いネオンから言ってくるまで言わなくてもいいかと考えていた櫓だったが、今回の戦いでネオンの剣技が砂の巨人に全く効いていなかった。
これではまた剣での攻撃が通用しない相手と出会ってしまい、櫓が加勢できない場合命の危険がある。
そう思って聞くことにしたのだった。
「狐火のスキルですよね?私は十歳からこのスキルを使っていないんです。」
「何か理由があるのか?」
「はい、理由はこのスキルを使うたびにトラウマを思い出してしまうからです。」
「トラウマ?」
「獣人が住む村にいた頃の話です。獣人の子供達は十歳の誕生日を迎えるまでに魔力の扱い方を学び、誕生日を迎えたら固有スキルの扱い方を習い、日々の生活に活かしていく風習がありました。ちなみに獣人の固有スキルは産まれてから十の歳を重ねて固有スキルを得ます。そして私も十歳の誕生日を迎え父から狐火の扱い方を学びました。」
ネオンが昔の話を語って聞かせてくれるがその表情は常に悲しげだ。
櫓は黙って聞いていた。
「狐火は簡単に言ってしまえば、火を自由自在に操れるスキルです。料理に狩りに戦いに使い勝手が良いスキルです。私も早く使えるようになって家族や仲間の生活を少しでも楽にしてあげたいと思っていました。父に習って私も使おうとしました。しかしここで問題が起きました。一応魔力の扱い方は一通り出来てはいました。自分の魔力を消費してスキルにより火を生み出すことには成功したのですが、スキルによる火の制御が上手くできなかったのです。」
なんとなくその話を聞き察してしまった。
櫓のスキルである雷帝も魔力を雷に変えて使っているようなものだが、当然魔力と雷では使い勝手も変わってくる。
櫓は最初から当然のように扱えていたが、制御するのは雷の方が難しいと言うことは分かってはいた。
「私は普通の獣人よりも多くの魔力を有しているらしいです。少し魔力を使って生み出したつもりが、自分が思っているよりも多くの火を生み出してしまい、十歳になったばかりの未熟な私では制御もうまくできませんでした。自分の生み出した火に周りを囲まれてしまい、恐怖で動けなくなってしまった私を父は自分のスキルで私の火を相殺しつつ必死に助け出してくれました。村から少し離れた所でやっていたため村に被害はありませんでしたが、辺り一帯は焼け野原に私を救ってくれた父は大火傷で一年寝たきりの生活をさせてしまいました。」
「親父さんは今はどうしてるんだ?」
「生きていますよ、しかしその時の火傷の跡が残ってしまっていますけど。それを見る度に申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまいます。そしてスキルを使おうとするとその時の記憶が蘇って、身体が動かなくなるんです。」
そう言って俯いてしまった。
その顔は不安でたまらないと言った顔である。
(そんな経験をしていればスキルを使いたくないのも当然か。一歩間違えれば親父さんは死んでいたかもしれないんだしな。)
ネオンの事情を聞けて櫓は納得した。
同じ立場なら自分もそうなってしまうかもしれないと思ったためである。
しかしもしネオンがこのまま諦めたくないと言うならば協力するとも思っていた。
「ネオン、俺は無理にスキルを使えとは言わない。理由が理由だからな。」
「櫓様・・・。」
「だけどもしトラウマを克服したいと考えるなら、手を貸すぞ?」
「・・・。」
「ネオンお前はどうしたいんだ?思ったままに言ってみろ。」
「私は・・・、自分のスキルが怖い・・・です。またこの力を使い今度は櫓様が父のようになってしまったらと考えると・・・。」
「おいおい舐めるなよ?俺の強さはお前が一番知ってるだろ?それに俺はこの世界で最も危険な強い奴に喧嘩売ろうとしてるんだ、仲間の攻撃で死んでやる訳無いだろう。」
そう言ってネオンの額に軽くデコピンする。
俯いていた顔があがり、不安そうだった顔がだいぶ良くなって、目には確かな光が宿っていた。
「もう一度聞くぞ?ネオンはどうしたいんだ?」
「スキルを・・・使えるようになりたいです。この力を使いこなして、もっと櫓様のお役に立ちたいです。」
「よく言った、ネオンがしっかりスキルを使いこなせるようになるまでいくらでも付き合ってやる。冒険者は俺のボックスリングでギルドに運ぼう。」
そう言ってネオンの頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
撫でられているネオンは満面の笑顔になっていた。
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