98話 再戦の予感
「飯も食い終わったし、早速魔王の情報を教えてくれ。」
全員が食べ終わったのを見計らって櫓はソウガに尋ねた。
「魔法都市マギカルの場所ってご存知ですか?」
「ええ、場所は把握しておりますわ。」
このパーティで地理に詳しいのはシルヴィーだけだ。
かなり昔だが実際に魔法都市に行ったこともあるらしい。
「その近辺にも魔王がいると私に力を与えた者が言っていましたね。」
「なら次の目標地点は魔法都市だな。」
「魔法都市と言うからには魔法使いが沢山いるんですかね?」
「それもありますけど、魔法の研究が国で一番盛んな所ですわね。」
魔法都市マギカルは、常日頃から多くの人により魔法の研究が行われている。
魔法は戦いに用いられる事が多いが、生活をする中で使われる事も多い。
家事や洗濯から家を建てる時など様々な事に用いられる。
そして既存の魔法を改良、または新たな効果を発揮する魔法などを生み出すための実験や研究が至る所で行われている。
そのため魔法使いは、より魔法について知識を得るため、魔法使い志望の者は、魔法都市の学校に入り学ぶために魔法都市を訪れる事が多く、結果的に魔法都市に暮らす者達は魔法使いが大半なのだ。
「俺達も魔法は使えるから、知識を得る目的で行くのも良いかもしれないな。」
櫓達のパーティは全員が魔法の適性を持っている。
櫓は雷魔法、ネオンは火魔法、シルヴィーは風魔法、ミズナは水魔法である。
櫓の様に自分でポンポン魔法を作る事など普通は出来ない。
魔法とは引き起こしたい現象のイメージと、それを補助するための詠唱で成り立っている。
一般的な魔法についての見解は、成功するための大部分をイメージが占めていて、詠唱はおまけの様な扱い方をされている。
しかし詠唱は現象に基づいた言葉で構成されていなければ、補助どころか効果を減らしてしまったり、余分に魔力を使ってしまったりと良いことはない。
そのため詠唱の文なども、一言一言組み替えながら実験を重ねて作られ、一つの魔法を作るだけでも長い時間がかかるのだ。
櫓が思いつきで魔法を使えるのは、詠唱の補助なしでも余りあるイメージの強さであった。
元の世界のアニメや漫画など見続けていたおかげで、かなりしっかりとした魔法のイメージをする事が出来るのだ。
「しかし今も魔王がそこにいるかは分からないのです。」
「何故ですか?」
ネオンは疑問に思って問い返した。
「私が湖でどのくらい寝ていたのか分からないからですね。私が初めて湖を見た時はこんなに汚れてもおらず、あんな魚人の様な魔物もいなかったのです。」
ソウガは湖とマーマンを指差しながら言った。
「どのくらいたったか分からないのか?」
「うーん、たしか水の精霊様と出会ってから一年ほどして、ここに来たと思うのですが。」
「ミズナどれくらい経ってるか分かるか?」
ミズナは指を折り曲げながら数えている。
「蛇と初めて会ったのは三年前くらい・・・。」
「てことは二年も寝ていたってことですか!?」
ネオンが驚いてソウガに質問している。
「そう言う事になりますね、私にとっては二年くらい普通のことなんですけどね。」
人類と魔物の感覚は大分違う様だ。
「たしかに二年も経っているとなると既に居なくなっている可能性もあるか。」
「それでも魔王の情報は、ソウガさんから得た他に持ち合わせていないのですから、魔法都市を目指すしかありませんわ。」
「そうですね、いると信じて向かうしかありません。」
「なら早速明日から魔法都市マギカルに向けて出発だ。」
櫓が話をまとめると同時にふわぁ〜と隣から欠伸が聞こえてくる。
「ご主人眠いからもう寝て良い・・・?」
「ああ悪いな、ミズナはもうとっくに寝てる時間だったな。」
ミズナは許可が出ると櫓の左腕に嵌められている精霊の腕輪に消えていく。
「ソウガはこれからどうするんだ?一緒に来るか?」
「そうですね〜、こんな美味しいご飯が食べられるのは魅力的ですけど、拘束されるのは好きじゃないんですよ。自由気ままに生きたいので遠慮させてもらいます。」
「それなら別の住処を探してもらえるとありがたいな。ここの湖は遊泳で人気の場所らしくて、魔王が居たら誰も近づけないからな。汚した元凶と思われる魔物達ももう居ないし。」
「気に入ってたんですけど仕方ないですね、新しい住処を探す旅に出てみますよ。」
ソウガは特にリシェス湖に拘らずに、櫓の言う通りにしてくれた。
「なら私はもう行きますね。」
ソウガは立ち上がって身体を伸ばしている。
「今から移動するのか?」
「夜は魔物が多くて危険ですよ?」
「ふふっ、それを魔王の私に言いますか?」
ネオンの言葉を聞いてソウガは笑っている。
「夜目は効く方なので大丈夫ですよ、また会う事があれば美味しいご飯食べさせてください、では。」
ソウガは手を振って森の中に消えていく。
「勧誘失敗して残念ですね。」
「仕方ありませんわ、それよりも今日は戦いが多く疲れも溜まっているでしょうし、休みませんか?」
「そうだな、二人は先に休んでてくれ。俺も少ししたら直ぐいく。」
櫓はボックスリングから馬車を取り出し、その場を離れた。
目的地まで距離は遠かったが、櫓も今日はよく戦った日で魔力が残り少なかったので、雷帝のスキルは使わず走って移動する。
「あの怪我で生きていたか。」
櫓の向かった場所はタコ型の魔物と戦った場所である。
戦いが終わった時に倒れていた場所には相当な量の血溜まりが出来ていたが、タコ型の魔物の姿は何処にも見当たらなかった。
「ネオンの悲鳴に反応して直ぐ向かったから、調査の魔眼を使う暇もなかったな。また相対するとなると厄介な相手だ。」
今回の戦いで最も櫓を窮地に陥れたのはタコ型の魔物である。
倒した時に見た怪我では、数分もすれば生き絶えるだろうと思えるほどの重症であった。
そのため死んでいるだろうと思っていた櫓は、死体の回収に来たのだが、予想外の光景にまた戦う事になるかもしれないと考えずにはいられなかった。
閲覧ありがとうございます。
ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。




