97話 仲間より食事
「聞きたいんだが、魔王にならないかと言ってきた奴は何処にいるんだ?」
「知らないです、ふらっと訪ねてきて力をくれたら直ぐいなくなってしまったので。」
「どんな奴だった?」
「黒い帽子を被り、黒い服と黒いズボンに身を包み、黒い靴を履いた人型でした。」
全身黒で統一されていると言う事しか分からない。
ソウガは相手のステータスを見るスキルや魔法を持っていないので、見た目しか情報は得られなかった。
「次の質問だ、邪神について何か知っているか?」
「全くなんなんですか偉そうに質問してきて、私は魔王なんですよブツブツ。」
小声で悪態をついていると、ミズナの指先が向けられる。
「あああっと、えーっと、邪神についてでしたよね?それって物語とかに出てくる奴ですよね?」
「そうだ、何処にいるかとか知ってるか?」
「実在しているんですか?」
ソウガは首を傾げながら逆に質問してきた。
「その様子じゃ知らないみたいだな。」
「手掛かり掴めなくて残念ですね。」
「全ての魔王が知っている訳ではないと言う事ですわね。」
「使えない蛇・・・。」
三人が邪神の情報無しについて残念がっている中、一人だけ辛辣な言葉を浴びせているミズナ。
「うううっ、私が悪いんですか?」
ソウガはショックを受けて軽く涙目である。
「ミズナの言う事は気にしなくていいぞ、それより最後にもう一つだけ質問させてくれ、他の魔王の居場所については知らないか?」
「知ってどうするんですか?」
「邪神の情報を聞きに行くが、人類に敵対する奴ならついでに討伐するかもしれないな。」
「なら教える事はできません、一応魔王同士仲間なのですから。」
ソウガはぷいっと横を向いて口を閉ざしてしまった。
ミズナが指先を向けても目を瞑って来るなら来いと脅しは通用しない様だ。
(簡単に教えてくれるかと思ったが、一応仲間意識はあるんだな。さてどうやって聞きだすかな。)
唸って考え込んでいると、ぐぅ〜と言う可愛らしい音が近くから聞こえてきた。
音の方に視線をやるとミズナがこちらを向いている。
「ご主人お腹すいた・・・。」
そう言いながら両手を櫓に向けてきている。
空を見ると日が落ちかけてきていて、いつもなら晩ご飯の時間だ。
「作り置きしといた奴なら直ぐ渡せるけど?」
「出来立てと変わらないから問題ない・・・。」
「はいよ。」
櫓はボックスリングから焼きそばの乗った皿を取り出しミズナに渡す。
ボックスリングの中は時間経過しないため、湯気が上がっている出来立て熱々の状態だ。
「久しぶりの焼きそば美味しそう・・・。」
久しぶりと言ってもつい二日前に作ったばかりである。
ミズナは食事をしなくても生きていけるのに、食べ物の美味しさに気付いてからと言うもの、誰よりもご飯の時間を楽しみにしていた。
「いただきます・・・。」
食べる前の挨拶をすると焼きそばを夢中で頬張っていく。
さっきまで相手をしていたソウガのことなど記憶から消えているかの様に、まるで見向きもしない。
ソウガはミズナのあまりの変わり様に驚いたが、夢中で焼きそばを食べるミズナを見ていると、自分のお腹もぐぅ〜と鳴って、口元からよだれが垂れてきた。
それを見て櫓は心の中でニヤリとしていた。
「そろそろ晩飯時だし俺達も飯にするか。」
「私卵料理がいいです櫓様。」
「ならオムレツでいいか。」
櫓は新たにオムレツの乗った皿を取り出しネオンに渡す。
ネオンは嬉しそうに受け取って、美味しそうに食べだす。
それを見て更によだれを垂らすソウガ。
「前に作ってくださった、たこ焼きでしたかしら?まだ余ってありますか?」
「あったかな?えーっと、あったあった。」
屋台で売っている様なパックに八つ入っているたこ焼きをシルヴィーに渡す。
前に作った時に手軽に作れて食べやすく美味しいたこ焼きに絶賛していたのだ。
たこ焼きを食べているシルヴィーを見て、よだれが滝の様に口から垂れ流されている。
見た目が美人な女性なだけに残念な光景である。
「さて俺は何を食べようかな?」
わざとソウガに聞こえる声で呟きながら、ボックスリングを起動させる。
「水の精霊様のご主人様、私もお腹が空いてるんです、色々質問に答えたのですからご飯を恵んでください。」
上から目線で言わずしっかりお願いしてきたのは予想外であった。
既に櫓を自分の恐れている人の主人だと認めている様である。
「確かに礼は必要だな、ほらよ。」
櫓はボックスリングから玉子焼きが乗った皿を差し出す。
「おおお、人間の食事は何度か人化して食べたことがありますが、初めてみる食べ物です。」
玉子焼きをまじまじと見て観察している。
皿の上には櫓渾身の出来である綺麗な玉子焼きが二つ乗っている。
「キラキラで美味しそうです。」
ソウガは一つ摘んで口の中に放り込む。
玉子焼きを咀嚼すると、カッと目が見開かれる。
「ふわふわであまあまでトロトロです!こんな食べ物があったなんて、凄く美味しいです!?」
ソウガは直ぐに二つ目も口の中に放り込み、美味しそうに食べている。
しかし皿の上には玉子焼きが二つしかなかったため、もう食べ終わってしまった。
名残惜しそうに皿を見つめて、続いて櫓に視線を向ける。
櫓は麦ご飯の上に川魚の刺身を乗せた、なんちゃって寿司を食べていた。
「美味しいけどやはり米が欲しいな、それと寿司ならやはりマグロが食いたい。」
なるべく美味しくなる様に作っているが、本物の味を知っているため物足りなく感じてしまう。
「あ、あの〜お代わりなんてあったりしますか?なんて。」
ソウガが寿司を食べて難しい顔をしている櫓に遠慮気味に聞いてくる。
「あるけど?」
そう言って新たに麦ご飯とホーンボアの肉を使った、猪丼を出す。
ソウガはぱあっと笑顔になり丼に手を伸ばしてくるが、櫓は手を引っ込めて渡さない。
「さっきのは質問に答えてくれたからお礼として渡しただけだ、これが食いたいなら新しい情報が欲しいところだな。」
ソウガには櫓の言わんとしていることが分かった。
しかし特に親しくないとは言え、同じ魔王の情報を売ってしまって良いのかと悩んでいる。
悩んでいるがその口元からはよだれが伝っているので、大分気持ちは偏っている様である。
「ミズナ、猪丼ソウガが食わないらしいから代わりにどうだ?」
とどめの一押しとばかりに焼きそばを食べ終わりそうなミズナの方に声をかける。
「教えます教えます!私が知っている魔王の情報なんて幾らでも教えますから、美味しいご飯を私にください!」
櫓の手から奪い取る様に猪丼を掻っ攫い、それはそれは美味しそうに食べている。
(ふっ、計画通り。)
笑顔のソウガを横目に櫓もニヤリと笑顔を浮かべていた。
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