96話 子分魔王
「一応聞くさっさと話す・・・。」
ミズナが腕を組み地面に正座しているレイクサーペントのソウガを見下ろしながら言う。
ソウガはミズナの事が怖いのか居心地悪そうにしている。
(なんだこの状況。)
櫓、ネオン、シルヴィーの三人は成り行きを黙って見守っている。
「ちゃんと話しますから殺さないでくださいね?」
「内容による・・・。」
「そ、そんな〜。」
「いいから話す・・・。」
ミズナに早くしろと目で訴えられ、ソウガは殺されない様に一言一言慎重に言葉を選んで話し出した。
話を聞いているとミズナとソウガの関係性も分かってきた。
ソウガは戦闘好きで人間や魔物とよく戦っていた。
しかし戦うのが好きなだけで殺しまではしていない。
スキルにも恵まれて連戦連勝の負け知らずだった。
そして偶然出会った水の精霊であるミズナに勝負を挑んだ。
精霊がどの程度の強さなのか知りたかった様である。
結果は惨敗で半殺しにされ、暫く戦う事がトラウマになったほどだったらしく、先程の怯え様はこの事が関係している様である。
それから暫くして立ち直ったソウガの元に魔王が訪ねてきた。
魔王になれるほどだと、ソウガの力を褒めちぎった。
魔王になれば戦闘には事欠かないと聞き、二つ返事で了承して、魔物から魔王になる為に力を少し分け与えられ、魔王ソウガが誕生した。
魔王になってからは旅をして、挑んでくる者達と戦い、満喫した時間を過ごしていた。
そして旅の途中にこの湖を見つけた。
初めて見た透き通る綺麗な湖に感動して、住処にすることに決めた。
水中には魚や害の無い魔物などが住んでいるだけだったので、邪魔者がいないなら丁度いいと水底で睡眠を取った。
「そして起きたら今の状況だった・・・?」
「そうなんです、私はずっと寝ていただけです、寝てる間に何かあったとしても私は何も知りません。」
ソウガは殺されるかも知れないので必死である。
話を聞いた限りでは嘘をついていなければ、ずっと寝ていただけで、さっきの魔物達との関係も無く、殺しなどもしない中立的な魔王とも言える。
魔物は全てが敵と言う訳でもない。
人間にテイムされて一緒に戦ってくれたり、どちらにも組みせず自由気ままに生きたり、魔王などに喧嘩を売る輩もいる。
なので敵対行動を取らないのならば、櫓は殺さなくても良いのではないかと考えていた。
「ちなみに嘘をつけば精霊魔法で調べる事ができるんだが全部本当のことか?」
「人間の小僧が気安く話しかけるな。」
櫓が話しかけた瞬間さっきまでの態度と一変して険しい表情で睨んできた。
「水鉄砲・・・!」
ミズナは右手をピストルの様にして人差し指から水滴を打ち出す。
「がはっ!?」
ソウガの眉間に水滴が当たり、その威力で上半身が仰け反る。
「痛いではないですか水の精霊様!?私何かしましたか!?」
直ぐ元の状態に戻り額を抑えながら抗議してくる。
普通の魔物が今のミズナの攻撃を受ければ、身体の一部に風穴が空いているところだ。
基本能力値の高い魔王ソウガだからこそ、少し痛がる程度で済んでいる。
「私のご主人に対して生意気な口を聞いた・・・。」
ミズナの言葉を聞いた瞬間に目を見開いて櫓の方を見てくるソウガ。
「こ、この人間がご主人!?エルフでもない普通の人間が!?」
「もう一発いっとく・・・。」
人差し指をソウガに向けつつミズナが訪ねる。
「わああああ、待ってください、すみませんでした知らなかったんです。」
死にはしないが地味に痛い攻撃なのと、怒らせてまた半殺しになるのは嫌だと思い土下座して許しを乞う。
「ならご主人の質問に答える・・・。」
「本当のことです、嘘偽りはありません、それでも疑うのであれば調べていただいても大丈夫です。」
あれだけミズナの事を恐れていて、この状況で嘘をつくとは考えにくいので、本当の事を話していると思って問題ないだろう。
「魔王ってもっと怖い存在かと思ってました。」
「人類に敵対されない魔王もいらっしゃるなんて驚きですわ。」
ネオンだけでなく戦闘経験豊富なシルヴィーも魔王と対面するのは初めてであった。
城塞都市ロジックの周辺は強い魔物がそれほどいなく、比較的安全な場所である。
そして城塞都市と言うだけあって、頑強で大きな城壁に街が囲まれている為、高ランクの魔物であっても手が出しづらいのだ。
なので知識のある魔王や高ランクの魔物はロジックから離れた場所に拠点を構える事が多く、ロジックに住むシルヴィーはやる事が沢山ある為遠征などは出来なかったので、会う機会が無かったのだ。
「水の精霊様のご主人様はともかく、貴様らに発言を許した覚えはないぞ小娘共。」
「水鉄砲・・・!」
「ぐはっ!?」
再び眉間を撃ち抜かれるソウガ。
額を抑えながら涙目でミズナを見ている。
「この二人はご主人や私の仲間・・・。仲間の悪口許さない・・・。」
ミズナがネオンとシルヴィーに手を向けながらソウガに言う。
「蛇お前が一番下の立場、弁える・・・。」
「私魔王なのに・・。」
ミズナが無情な一言を発すると、魔王であるソウガは両手を地面につきガクリと項垂れた。
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