95話 魔王登場
「これからどうするんですか?」
ネオンが倒れている大量のマーマン達から素材を回収しながら言う。
巨大マーマンから作り出された個体だが、魔石などもしっかりあるので素材の山だ。
「もう一回精霊魔法で確認してみるか、ミズナ頼む。」
ミズナの手を握り精霊魔法の探知を発動させる。
頭の中にリシェス湖の地図が浮かび、魔物を示す赤い点と地上までの距離を表す数字が記載されていく。
「最初と比べると随分と魔物の数が減ったな。大半がマーマンだった様だ。あと強そうな魔物が逃げたのか分からないが減っているな。」
「最初は十体ほどと仰っていましたわね。」
「巨大マーマンや俺が戦ったタコの魔物もその中に入るとして、湖に残り八体いるはずなんだが一体しかいない。」
地上での戦いの情報を得て、勝てないと踏んで逃げた可能性もある。
「その一体が魔王の可能性もありますから、帰るわけにはいきませんね。」
「と言いましてもどの様に会いますの?」
シルヴィーは湖の水を見ながら言う。
黒ずんで濁った湖の中には入りたくないとその目が物語っている。
「心配いらない、その一体が今浮上してきている所だ。」
櫓の頭の中に浮かんでいるリシェス湖の地図に記載されている大きな赤い点の横の数字がだんだん減ってきている。
「ラスボス倒してご飯ご飯・・・。」
ミズナは食欲に正直で、やっと面倒事が終わってご飯にありつけるとご機嫌である。
「魔王の可能性もあるのですから油断禁物ですわ。」
「ま、魔王ってやっぱり強いんでしょうか?」
適度に緊張感を持ちつつ構えるシルヴィーと、魔王と言う存在に対して弱腰になっているネオン。
邪神が世間一般的に広まっていないこの世界では、実質魔王が人類最大の天敵となっている。
一般人どころか名を馳せた冒険者でも、出会えば命を落とす、まさに天災である。
「俺達が力を合わせれば、大抵の敵とは渡り合えるはずだ。」
この世界に来て最初の敵がスライムやゴブリンではなく魔王であった。
まだこちらの世界の戦いに慣れていない櫓でも勝つことが出来たが、おそらく魔王の中でもかなり下の実力だろうと思っていた。
スキル欄は調査の魔眼で見てきた中では中々のものだったが、精霊のミズナと比べると見劣りする。
それにローガン山脈で戦った初めての魔人の方が圧倒的に強かったのだ。
なので魔王と戦うとなるとそれ以上の実力であることが予想されるが、Aランク相当の実力者であるこの四人であれば、魔王であっても大抵何とかなるだろうと思っていた。
「来るぞ。」
リシェス湖の地図上の赤い点の数値が零になったタイミングで、水面が盛り上がり魔物が出てきた。
「で、でかああああぁ!?」
巨大マーマンよりもさらに大きい三十メートル程の大きさの蛇である。
名前 ソウガ
種族 レイクサーペント(魔王)
年齢 百八十八歳
スキル 操水 貯水 身体強化 人化
状態 平常
調査の魔眼で蛇の魔物の情報を確認する。
「気を付けろ、この蛇が魔王だ。」
櫓の言葉にネオンとシルヴィーは武器を持ち身構える。
「地上があまりに騒々しいので目が覚めてしまった。貴様らか我が眠りを妨げたのは?」
「そうだと言ったらどうする?」
「知れたことを、その身をもって後悔するがいい!」
ソウガの後ろでは湖の水が盛り上がり幾つもの水の竜巻となっている。
巨大マーマンと同じスキルであるが、魔力量や技術が違うせいか比べ物にならない効果を発揮している。
「全力でいくぞ。」
「了解です櫓様。」
「お覚悟ですわ。」
「ふん、人間の分際で我に楯突こうとは身の程を知るがいい!」
今まさに最後の戦いが始まろうとしている。
「蛇こんな所で何してる・・・?」
ずっと黙ったままだったミズナが魔王に話しかける。
「なんだ小娘?我を蛇呼ばわりとは・・・ん?その姿は、いやありえん。だがその魔力、も、もしかして水の精霊様?」
ソウガはミズナを見ると、最初は人間の小娘だと思っていた様だが段々と様子がおかしくなってくる。
額からは汗がポタポタと落ちてきて、背後の竜巻も少しずつ小さくなり消えていく。
その様子に櫓達はポカンとしている。
「そう、今はミズナと名乗っている・・・。」
「な、ななななんでこんな所に水の精霊様が!?」
「旅の途中に魔王の話を聞いて寄った・・・。蛇お前のこと・・・。」
ミズナが指を差すと滝の様に額から汗を流している。
目は焦点が定まらない様でウロウロして動揺しまくっている。
「取り敢えず話しにくいから小さくなる・・・。」
ミズナが言うとソウガは直ぐに人化のスキルを使い、人間の姿になった。
蛇の様な目や鱗など面影はあるが、美人な女性である。
「あ、あの討伐ではないですよね?」
口調も偉そうな感じから一変して、腰の低い話し方になっている。
「お前の配下の魔物に襲われた・・・。敵対行動を取ったのだから殺されても文句言わない・・・。」
ミズナはジト目でソウガを見て言う。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!私に配下なんていません!」
「魔物のマーマン達が魔王である蛇の配下・・・。嘘つかない・・・。」
「う、嘘じゃないですよ!マーマンなんて知りません、事情を説明しますから聞いてください!!!」
ソウガが涙目で訴えかけてくる。
ミズナはどうするかと言った感じで櫓の方を向いてきた。
ミズナと何があったかは知らないがソウガは既に戦意喪失している様なので、話を聞くことにした。
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