93話 化け物vs魔物
「スキルを封じられ、魔法も使う暇がなく、体術でも有効打が与えられぬこの状況でよく諦めぬものじゃ。」
「すぅー、はぁー。いくぞ!」
深呼吸してから地面を蹴り特攻する。
昔から剣術や体術などの鍛錬を受け続けてきたのだ。
視界が良好でなくとも気配を感じて、大凡の敵の位置は把握できる。
接近したら魔装した拳の連打を浴びせる。
「また同じ手とは、学ばないのお。」
タコ型の魔物は再び櫓の手を絡めとり拘束しようと動く。
「あれだけされて学ばないのは、流石にヤバイだろ。」
櫓は拳を解き五指を全てピッと立てる。
「手刀!」
「ぐうっ!?」
タコ型の魔物の二つの足が、先端部分を少し切断されて鮮血が舞う。
切り口は刃物で斬られたかの様にスパッとした断面になっている。
「まさか武器なしでこの様な事が出来ようとは。」
「近接戦闘のみの場合、剣術よりも体術のが立ち回りが安定するんだ。俺の手は剣みたいに斬れ味がいいからな。」
元のいた世界でも木から生えている枝程度の細さなら手で綺麗に切断出来ていた。
それがこの世界仕様の身体を手に入れたことにより、さらに洗練されたのだ。
そして吹底、閃拳、破脚と櫓がよく使う体術とは違い、こちらの世界仕様の殺す事に特化した技を作り出していた。
「近接戦闘に持ち込めば、ワシが有利な筈なんじゃがなあ。」
「確かにあんたは強いけどな。」
「負けるとは微塵も思ってない様に見えるぞ?」
「当然だろ、破脚!」
櫓が得意とする体術の回し蹴りを繰り出す。
四本の足を身体の前に持ってきてガードするが、残りの足では踏ん張りが効かずにそのまま吹き飛ばされ、先程の櫓同様木に叩きつけられる。
「さっきのお返しだ。」
「老人はもう少し労わるもんじゃて。」
「手加減したらこっちがヤバイからな。」
「ほっほっほ、随分と過大評価してくれる。」
木に張り付いた状態のまま口から次々に墨を発射してくる。
櫓の回し蹴りのダメージが思いの外あって、遠距離攻撃で時間を稼いでいるのだ。
「そんな攻撃じゃ仕留められないぞ。」
交わしつつも接近して、親指を曲げそれ以外の指を立て軽く腕を引く。
「貫手!」
槍の様に勢いよく突き出される腕を見て、ヤバイと悟ったのか咄嗟に回避を試みるタコ型の魔物だったが、少し遅かったため胴体は避けられたが足の一本が半ばから失われ宙を舞っている。
それでも威力は衰えず、タコ型の魔物の後ろにあった木をも貫き、抜き放つとその穴の大きさに重みが耐えられず、バキバキッと音を立てながら木が倒れていく。
「交わされない様に速く動いたつもりだったんだがな。」
「お主本当に人間か?魔人ではあるまいな?」
スキルを封じられている櫓が、魔装を使っているとはいえ、唯の人間とは思えない技のキレと動きなので驚きが抑えきれない。
そして櫓は調査の魔眼を使えていないため知らない事だが、タコ型の魔物は身体強化のスキルを使っている。
唯でさえスキルを使えない人間と魔物で、戦力差が有ると思っていたのに、スキルをも使って強化された自分をさらに超えてくる櫓を見て、化け物に見えても仕方がない。
「化け物じみて見えるか?よく言われたから慣れたもんだ。」
元いた世界では言われ慣れた言葉だった。
剣術も体術の才能もズバ抜けており、実力で並び立つ者が周りにはごく少数の大人しか居なかったのだ。
同年代の者達からは恐怖や畏怖の視線を受ける事は多かった。
「じゃが負ける訳にはいかんからのお。」
「まだ戦えるか、なら次で決めるとしよう。あっちも心配だからな。」
ネオン達の方角を見ながら言う。
まだ戦闘音は響いており、最初よりも激しくなってさえいる。
「よかろう、ワシも時間を掛けて彼方がやられては困るでな。」
タコ型の魔物にとっても巨大マーマンがやられては困る様である。
マーマンを無限に増やす事ができると慣れば、魔物側としてはかなり重宝する存在だろう。
無限に兵力を確保できる存在なのだから。
櫓は魔力を両足にのみ集中させ、その魔力量に空間が歪んで見える。
タコ型の魔物は七本の足で立ち、一本の足にのみ魔力を集中させている。
その魔力量は櫓をも上回る程で、差し違えてでも倒すと言う覚悟が伝わってくる。
「これで決める。」
「行くぞ人間。」
二人は同時に地面を蹴り接近する。
「滅脚!」
「多固脚貫手!」
櫓は回転して遠心力を加えつつ蹴りを放ち、タコ型の魔物は引き絞った足を櫓の蹴りに合わせて突き出す。
ぶつかり合った轟音が響き渡り、両者のぶつかった足同士は一瞬だけその場で拮抗した。
直後突き出されていたタコ型の魔物の足は消し飛び、その勢いで身体を蹴り飛ばされる。
蹴りが当たった身体も少し抉れ、そこから血が吹き出している。
「これで倒せないとヤバかったがなんとかなったか。」
タコ型の魔物は地面で倒れ伏せピクリとも動いていない。
「思ったよりも魔力を使わされたがなんとかなるだろ。」
ネオン達の方に加勢に行こうとそちらを向いた。
「きゃあああああ!?」
その瞬間ネオンの悲鳴が聞こえてきて、急いで向かう。
思いの外タコ型の魔物との戦闘で距離が離されていたのだが、スキルが使えるようになっていたので高くジャンプして遠見の魔眼を発動させる。
目には巨大マーマンやマーマン達と戦闘する三人の姿が映り、湖とは反対側の森の中からは新手のゾンビの大群がネオン達に向かって迫ってきていた。
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