27話 櫓の必殺魔法
「ちっ、フラグ回収バッチリだな。」
「ムダダ、ニンゲンドモ。オトナシク、スイブンヲヨコセェ。」
魔人が砂の塊を弾丸の様に櫓に向けて飛ばしてくる。
攻撃を見極めて全てをギリギリで交わしていく櫓。
(この攻撃の速さ、ネオンでは避けられないな。今のところは俺に注意が向いているがいつ変えられるか分からないしさっさと倒さなければ。)
そしてネオンの方も砂の巨人が振るう腕を交わしながら剣で斬り付けているが、砂でできていることもありすぐに元に戻ってしまっている。
「切ってもキリがないですか。櫓様が魔人を倒してくだされば、魔人が出したこの巨人も消えるはず。」
ネオンは時間稼ぎに徹することにした。
魔人には勝てず、砂の巨人に勝つことも難しい。ならすこしでも櫓の負担を減らそうと考えた結果であった。
この二週間でネオンが実力不足により戦闘への参加ができない場合のことも教えられていた。
それは櫓が敵に集中するため周りの敵の相手をすることであった。
「ニゲルコトシカデキナイカニンゲン。」
「ならそろそろ反撃させてもらうぜ。」
そう言って刀をボックスリングにしまい、両腕に雷を纏わせる。
少し距離を取ってから、両腕を突き出し纏った雷を球体の様にして発射する。
「拡散雷撃弾!」
櫓の放った球体は魔人に向けて進んでいき、その手前百メートルくらいで幾筋もの雷へと分かれて敵に飛んでいく。
ドドドドドガガドガドドッンと言う凄まじい音が聞こえて砂煙が舞っていた。
砂煙により相手の姿が見えないため油断なく構えている。
少しして砂煙が落ち着いてきた。
「砂の球体?」
魔人がいた場所に所々崩れているが大きな砂の球体があった。
それがさらさらと崩れていくと中からは無傷の魔人が出てくる。
「思ったよりも操砂ってスキルはめんどくさいな。なかなか手間取らせてくれる。」
「タダノニンゲンノクセニ、シブトインダヨ。」
また砂の弾丸を櫓に大量に放ってきた。
(剣技での攻撃はすぐに治ってしまう、おそらく体術も同じだろう。さっき雷帝のスキルでの攻撃を砂の防御壁にて防いだところを見ると有効なのはこれだな。あとは防御を貫通させ再生できないくらい跡形もなく消し去れればいいってところだな。しかし俺が持つスキルでの最大の攻撃技はさっきのが最大、つまりここは魔法だな。)
敵の攻撃を回避しつつ櫓は魔法を使うことにする。
魔法は女神から教えられたことに加えて、ここ二週間で本による知識も得ていたし、既に試してもいた。
この世界での魔法は下記のようになる。
・魔法には人それぞれに適性があり、適性のない魔法を使うことはできない。
・スキルとは違い詠唱を必要とする。魔法陣を必要とするものもある。
・スキルとは違い大気中にある魔力も使うため、消費魔力が少なくて済む。
・魔力のない場所では使うことができない。
・魔法は詠唱よりもイメージが大事なため、同じ詠唱文でも現象が違う場合がある。逆に違う詠唱文でも同じような現象が起こることもある。
櫓にとっては魔法の詠唱を一々覚えなくていいという点はありがたかった。
自分が起こしたい現象に沿った詠唱をすればいいわけである。
そして元の世界の知識を持っている櫓にとって、イメージが重視される魔法というのはかなり都合が良かった。
この世界に生きる者では想像しにくい現象なども元の世界の実際に目にしたことや、アニメや漫画などのイメージを使えば、それをそのまま再現できるということである。
既に試していた魔法も適当に考えた詠唱文であったにもかかわらずほぼイメージ通りの現象を起こせていた。
ちなみに魔法は櫓が雷、ネオンが火の適性を持っているが、魔法の適性については調査の魔眼で調べることができない。
魔法同士スキル同士であれば問題ないが、魔法で相手のスキルをスキルで相手の魔法を調べることはできない様になっている。
「ぶっつけ本番でもなんとかなるだろ。」
「ナニヲスルキカシランガ、スナノボウギョヲヤブルコトハデキン。」
「そいつは食らってから言ってみな、吹底!」
「ッガハアァ。」
「こいつもくらっとけ、雷撃!」
魔人に瞬時に接近して魔装した掌底を叩き込み、吹き飛んだところに雷の追い討ちを放つ。
しかしまた砂の球体による全方位の防御壁を張られてしまったため、雷は防御壁に阻まれてしまう。
そして砂の球体の中では再生によりダメージを回復しているであろう。
しかしこれは櫓の予想通りの行動であった。
魔法の詠唱時間を稼ぐためにわざと相手に回復させつつ、視界を奪う。
魔法の詠唱は多少なりとも詠唱する時間があるため、その間に攻撃されてしまうと対処が少し遅れてしまったりする。
そして魔法にとって一番重要なイメージが敵の攻撃により乱されてしまえばその魔法は発動しなかったり、イメージ通りの現象を起こさなかったりする。
そのため安全に魔法を詠唱する時間を稼ぐ必要があった。
この魔法は使うのが初めてのため、危険を考慮して距離を取る。
「我が魔力を糧とし、立ち塞がる敵に、三条の雷となって、大いなる自然の力を示せ。天召・三雷!」
詠唱を始めると大気中の魔力が渦を巻き櫓の周りに集まってくる。
雲一つなかった空には、砂の球体の真上に小さいながらも雷雲が出来始めている。
詠唱が一つまた一つと発せられる度に雷雲は大きくなり、その存在を強調するかのように眩い雷が駆け巡っている。
そして櫓の詠唱が終わると雷雲と砂の球体が三つの光の線で繋がったように見えた。
その直後耳を劈く様な音が辺り一帯に響き渡る。
櫓やネオンが驚き耳を塞ぐが発生源の近くのためあまり効果がなかった。
その音が鳴ったのとほぼ同時くらいにネオンと戦っていた巨人は元の砂に崩れ落ちていった。
音が鳴り終わり砂煙も晴れてきて、櫓の魔法によって起こった現象を確認する。
そこには十メートルくらいのクレーターができ、深さも見ただけでは分からないくらい抉れていた。
そして砂の球体どころか魔人の姿さえ見つけられない。
断末魔をあげる暇もないくらい、操砂のスキルでは防げないくらい、再生のスキルなどでは回復が追いつけないくらい、一瞬にして櫓の魔法で消し飛ばされたのであった。
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