84話 三本目の槍
「あっちも始めたみたいっすから、こっちもやるっすか。」
盗賊の女がネオンを吹き飛ばし、離れていったのを見計らって盗賊の男が言う。
「仲間の助力無しでよろしいんですの?」
「得られれば楽に倒せるってだけっすよ、一人で倒せない訳でもないっす。」
「随分と甘く観られてる様ですわね。」
「タイマンには自信あるっすからね。」
そう言って男は投擲用の短剣を二本飛ばしてくる。
普通に投げただけに見えたが相当な速さでシルヴィーに迫ってくる。
「はっ!」
速くはあったが見切れぬほどではなかったので、持っていた槍で二本とも弾き飛ばす。
「結構初撃でやられる人多いんすけど、やるっすね。」
「短剣自体に何かしらの付与が付いている様ですわね。」
「ご名答っす。この短剣には風の魔法が付与してあって、加速するんすよ。」
「よろしいのですか?敵である私に教えてしまって。」
「防げなくなるまで投げればいいだけっすからね。どんどんいくっすよ!」
そう言って懐から新たに四本の短剣を取り出し投擲してくる。
速度は先程と変わらず数が増えるが、何とか全て槍で弾き飛ばせる。
「これならどうっすか!」
今度は八本の短剣が投擲されてくる。
同時に八本の短剣が身体の様々な場所目掛けて飛んでくるので、流石に全て弾くのは難しいと回避する。
「八本は防げないみたいっすね!」
次々と八本同時攻撃で短剣が投擲され、シルヴィーは回避するしかないが、風の魔法で加速して飛んでくる短剣を回避しきれず、身体中に少しずつ切り傷が増えていく。
「回避してばかりいてはジリ貧ですわね。」
そう呟きながら、男の方めがけて特攻する。
槍を目の前で回転させ、飛んでくる短剣を弾き飛ばして進んでいくが、足は庇えず切り傷も増える。
「捨て身の特攻っすか、下策じゃないっすか?」
「近づけば投擲の威力は落ちますわよ?」
シルヴィーは自分の間合いに入ったことを確認し、槍で連続突きを放つ。
「槍連弾!」
「別に遠距離しかできない訳じゃないっすけどね。」
そう言って男は投擲用の短剣の腹で槍の穂先を正確に受け止め続ける。
「近距離戦もできますとは驚きましたわね。」
「むしろ近距離のが得意っすよ。」
男は短剣を振るい斬りかかる。
口先だけではない様で相当な練度の連続攻撃を仕掛けてくる。
槍でうまくいなして短剣のリーチでは届かない様距離を開けると、今度はその短剣を投げ遠距離攻撃に切り替えてくる。
「近くでも遠くでもどっちでも戦えるっすから、死角はないっす。」
「短剣の残存数が無くなればその戦い方は出来ないのではありませんの?」
「この短剣は魔法道具で作り出してるっすから、残存数は無限っすよ。」
話している間にも次々と短剣が投擲される。
「魔法道具の効果でしたか、惜しみなく武器を使うはずですわね。」
「理解したからと言って防げるっすか?」
「少し本気を出せば造作もありませんわ。」
シルヴィーは腕輪から二本目の槍を取り出し、二つの槍を振り回して短剣を全て弾き飛ばしていく。
「槍を二つ?曲芸か何かっすか?」
「双剣があるんですもの、双槍があってもおかしくはありませんわ。」
「そんなリーチの長いのを二つも振り回したら、存分に戦えなさそうっすね。それに距離を詰められればリーチの長い槍でどう戦うっすか?」
盗賊の男はシルヴィーとの距離を詰めて短剣を振るおうとしてくる。
しかしシルヴィーの双槍の攻撃により、中々短剣の間合いに入れることができない。
「距離を詰められては槍で戦うのに苦労致しますが、詰められなければ意味はありませんわ。」
「ちっ、守りは固いみたいっすね。ならこっちも遠距離から攻撃してればいいだけっす。」
盗賊の男は距離を取りまた短剣の投擲に切り替える。
「私も遠距離に切り替えるとしますわ。」
「槍でも投げるっすか?」
「その通りですわ。我が魔力を糧とし、疾風の槍よ敵を貫け。颯槍!」
短剣を弾きながら魔法を詠唱し、風の槍が現れ射出される。
目にも止まらぬ速さで打ち出された風の槍に反応することも出来ずに右足を貫かれる。
「ぐっ!?」
「動きが止まっていますわよ。」
風の槍で貫かれた痛みで短剣の連続投擲が途切れた瞬間、シルヴィーは右手に持っていた槍を投擲する。
「ぐあっ!?」
今度は実物の槍に左足を貫かれ、盗賊の男は立っていることが出来ず膝をつく。
シルヴィーは距離を一気に詰めて、持っているもう一本の槍の石突の部分で腹を突く。
「うっ!?」
その痛みで意識を失い倒れる盗賊の男。
なるべく殺さない様にと櫓に言われていたので、縛った後に血が流れ続けている足から槍を抜き、ポーションを振りかけて治療はしておく。
「ふぅ、厄介な相手でしたわね。その代わり戦利品は中々ですわね、櫓さんが喜びそうですわ。」
盗賊の男が短剣を懐から取り出していたので、縛っている時に懐から魔法道具と思われる袋を回収しておいた。
戦利品を得て満足そうにしていると、ネオンの方から盗賊の女の悲鳴が聞こえてきて、あちらも決着がついた。
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