74話 食事に夢中
「ああ、酷い目にあった。」
櫓は体力を回復するポーションの瓶を加えながら呟く。
シルヴィーに投げつけられた魔装されたコップのダメージが思ったよりあって、ボックスリングからポーションを取り出し回復している。
「それはこちらのセリフですわ!」
着替え終わって席に付いたシルヴィーが櫓に怒ってもしょうがないと分かっていつつも、恥ずかしさを紛らわす様に怒っている。
「まあまあ不慮の事故なんですから、お二人共落ち着きましょう?」
ネオンは苦笑しながら二人を宥めている。
先程は櫓にシルヴィーの投げたコップが当たった後も、シルヴィーが記憶を消してやると槍を魔法道具から取り出して、必死で止めるのに苦労した。
「モグモグ・・・。」
当の本人は言い争いを聞き流しオムライスに夢中である。
「ミズナ、何か言うことがあるんじゃないのか?」
ポーションのおかげでようやく痛みが引いてきた櫓がジト目を向ける。
「オムライス美味しい・・・。」
食べる手を止めて櫓の方を向きながらミズナが言う。
そうじゃないだろうと落胆しガクッとなる。
「ミズナ様、悪いことをしたら謝らなければなりませんよ?」
櫓の代わりにネオンが優しく注意する。
「悪いこと・・・?私何かした・・・?」
思い当たる節が無いと首を傾げている。
「ドアをきちんと閉めなかったので、シルヴィー様が嫌な思いをしたんですよ?」
「気づかなかった・・・。シルヴィーごめん・・・。」
「ま、まあ謝っていただけるのでしたらこの話はここまでにしますわ。これからは気を付けていただければ。」
「分かった気を付ける・・・。」
そう言ってオムライスをまた食べ始めるミズナ。
「ミズナ様、櫓様もその件で被害に遭われたのですから一言言っておいた方が良いですよ。」
ネオンがコソッと耳打ちする。
直接的な攻撃はシルヴィーがしたが、原因を作ったのはミズナであるためだ。
「ご主人・・・。」
「なんだ?」
「お代わり・・・。」
ミズナは空になった皿を差し出し、櫓は再びガクッとなる。
それでも皿を受け取り、手早くお代わりを作ってあげる。
「ほらよ。」
「ご主人ありがとう・・・。」
再びミズナはオムライスを美味しそうに食べ始める。
「気を取り直して明日の話でもするか。」
「賛成ですわ。いつまでも引きずっていても仕方ありませんし。」
「確かもう少し街道を進んだ場所に小さな村があるんですよね?」
「そうですわ、ルクトという村ですわね。」
邪神の情報を得るために配下の魔王を探している櫓達は、人の住む様々な土地を訪れ情報を得ようと言う話になり、ロジックから一番近いルクトという村を目指していた。
「何か情報が得られると良いけどな。」
「どうでしょう?小さな村ですから知っているほど近くにいたとすれば、村が崩壊してしまいますわ。」
「その村は戦える人とかはいるのですか?」
「私が昔訪れた時には警備の衛兵が村の入り口にいたとおもいますわ。」
ロジックから一番近いと言っても櫓達の馬車で片道三日かかる。
ロジックを治めるフレンディア公爵家の娘であるシルヴィーでも、わざわざ小さな村に時間をかけて足を運ぶ理由がないため情報を知らないのであろう。
「その村で情報を得られなかったら次は何処に行く?」
「小さな町や村を挟みつつ、五大都市を目指すのはいかがでしょう?」
「五大都市ってなんだ?」
「前にお父様がこの国の名前は王家と五つの公爵家の頭文字を取ってつけられたと説明していたのを覚えていらっしゃいますか?」
「シルヴィー様のお屋敷にお邪魔した時でしたよね?」
「そうですわ、そしてその五つの公爵家が治める街が五大都市と呼ばれておりますの。」
「広い街ならそれなりに情報も集まりそうですね。」
「ちなみに王族が治める街が候補に入ってないのはなんでだ?」
この国の名前は王家と五つの公爵家の頭文字を取って付けられている。
つまり五大都市と同等かそれ以上の王家が治める街もあるのではないかと櫓は思った。
「王家が治める街は中央都市アイゼンロードと呼ばれております。候補に入らないのは私が行きたくないからですわね。」
隠すこともなく正直に答えるシルヴィー。
「行きたくない?何か理由があるのか?」
「王家が治めていると言うだけあって、中央都市はとても広いですわ。そして広い分貴族も多く、目を付けられれば面倒な事になりそうですので遠慮したいですわね。」
なるほどと櫓とネオンは納得する。
ロジックにいた時でも貴族との揉め事は多かった。
そんな貴族が沢山いる場所になど好んで行きたくはないだろう。
一緒にいるため忘れがちだが、シルヴィーの様な貴族の方が稀なのである。
「まあ、まずはルクトの村でどうなるかだな。」
「そうですわね、良い情報が得られると良いのですけど。」
「いつでも魔王と戦える様にしっかり鍛えなければ。」
三人が話し合いを終えると、タイミングを見計らっていたのかミズナが皿を櫓に差し出す。
「ご主人お代わり・・・。」
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