73話 痛いけどナイス
城塞都市ロジックを出発して二日目。
街道を走っていた櫓達だが、そろそろ日が沈み始めてきたため馬車を止めて休むことにする。
「夕食の用意するから馬車の周りの安全確保してきてくれ。」
ネオン、シルヴィー、ミズナの三人は馬車から降りて、周辺にいる魔物を狩っていく。
馬車には迎撃に備えて、自動防衛の障壁を展開する機能が付いてはいるが、魔力タンクの魔力を雑魚敵で減らされては勿体無いと、手が空いている者は狩りを担当することになっていた。
その間に櫓は馬車の中に用意したキッチンで料理を作っていく。
ネオンは魔物などの解体はできるが焼くくらいしかできず、シルヴィーは貴族だったので料理の経験がなく、ミズナは食べなくても魔力だけで生活できる。
そのため元の世界では自分で料理をよく作っていたので、料理を作ることのできる櫓が担当することになったのである。
材料は少し違うが元の世界の料理の唐揚げやハンバーグ、コロッケなどを作って見たところ、こちらの世界では珍しい料理だったためか大好評だった。
「卵がまだ余ってたし、今日はなんちゃってオムライスでも作るか。」
櫓が手際良く料理をしていると馬車の扉を開け三人が戻ってきた。
「櫓様、安全の確保完了です。」
「少し返り血がついてしまいましたので、お風呂頂いてもよろしいですか?」
「ああ、まだ出来るまで少しかかるからいいぞ。」
「ご主人、はい・・・。」
ミズナが先程倒した魔物の魔石や素材を渡してくる。
水の精霊と言うだけあって、魔石や素材を綺麗に洗って渡してくれるのでありがたい。
「ありがとうな、魔石は魔力タンクの箱に入れておいてくれネオン。」
素材をボックスリングにしまいながら言う。
ネオンはミズナから魔石を受け取り、魔力タンクに魔力の補充をしている。
ミズナは櫓の隣でジーッと料理している姿を見ている。
「・・・ごくり・・・。」
「あまり期待されても困るんだがな。」
櫓は苦笑しながら言う。
ミズナは食べなくても魔力があれば生きていけるのだが、人間と同じ食べ物を食べられないわけではない。
櫓に魔力を補充してもらった方が効率は良いが、食べた物を魔力に変換することもできる。
旅立ってからは櫓が食事の担当をずっとしており、興味本位で今朝ミズナが櫓の作った料理を食べた所、ハマってしまったらしい。
「ご主人の料理美味しい・・・。楽しみ・・・。」
「期待に添えるように頑張るけどさ。」
「今日は何を作ってる・・・?」
「味の付いたご飯をフワトロの卵で包み、高級調味料で味付けしたオムライスって料理だ。」
オムライスに必需品のケチャップは、この世界にあるのかもしれないが、売っているところを見たことはない。
なのでスキル錬金術の名人により、自作している。
素材が手に入りづらかったり、高かったりしたので高級調味料となってしまった。
そして肝心の米はロジック中を探しても売っておらず、スキルでも材料がなくて作ることが出来ず、麦で代用している。
「じゅるり・・・。」
ミズナは待ちきれない様子で料理が出来上がるのを近くで見ている。
年齢は櫓達より遥かに上なのだが、精霊の中では若いのか、子供っぽい所がよく見える。
「よし、完成だ。ミズナ、これテーブルに持っていってくれ。」
「任せる・・・。」
オムライスの乗った皿をテーブルに運び終えると、お預けを食らった犬の様に料理を凝視しながら待っているミズナ。
「また見たことのない料理ですけど、美味しそうですね!」
「早く食べる・・・。」
「まあまてミズナ、まだシルヴィーが風呂入ってるだろう?」
ガーンと言う効果音が聞こえそうな、この世の終わりの様な顔になり、ミズナは項垂れた。
かと思いきや勢いよく立ち上がり、風呂場に向かった。
扉を開け放ち、脱衣所から風呂場の扉も勢いよく開け放つ。
「ひゃああああああぁ!?いきなりなんですのおおぉ!?」
風呂に気持ちよく浸かっていたシルヴィーはノックもなしに扉が開けられ悲鳴を上げている。
「いつまで入ってる、早く上がる・・・。美味しいご飯が冷める・・・。」
シルヴィーくらいの貴族であれば、風呂くらいは毎日入れただろうが、流石にシャンプーやリンス、ボディーソープなどはない。
こちらの世界で風呂の必需品と言えば石鹸くらいである。
そして風呂の温度の変更などもボタン操作で思いのまま。
そのためかシルヴィーは櫓の作った風呂とお風呂セットを気に入り、拠点にいる頃から風呂に入ってる時間がかなり長いことが仲間内で知られている。
「ちょちょちょっと待ってくださいませ、お湯で持ち上げないで下さい!!!」
ミズナは手を風呂場に向けて、お湯を操作してシルヴィーを浴槽から強制的に出す。
「早く着替えてご飯にする・・・。」
そのままミズナはシルヴィーの腕を掴み風呂場から脱衣所に連れ出す。
食事のために座っている席からは風呂場は見えないが、脱衣所は見えてしまう。
ネオンは脱衣所の扉に背を向けているため見えないが、櫓はネオンと向かい合う様に座っている。
そしてミズナは脱衣所の扉を閉めずに、開け放ったままにしており、その状態でシルヴィーを脱衣所に引っ張って来てしまった。
不幸な事故が重なってしまった結果。
「ゴフッ!」
櫓の視界に揺れる大きな双房が入り込んでしまい、盛大にむせてしまった。
「ややや櫓様、見ちゃだめですううううううう!!!」
ネオンは急に櫓がむせて何事かと辺りを見回し、後ろにタオルで全然隠しきれていないシルヴィーを発見し、櫓の目を急いで隠している。
「きゃああああああああああ、見ないで下さいませえええええ!」
シルヴィーも脱衣所の扉が開けられていることに気づき、櫓に向けて近くにあったコップを掴み思い切り投げつけている。
無意識なのかコップは魔装されている。
「ガハッ!」
シルヴィーの投げたコップが胸に当たり、その威力で椅子ごと後ろに倒れる櫓。
不意打ちの魔装されたコップの痛みで悶え苦しんでいた。
「うわああああ、大丈夫ですか櫓様!?」
「ううう、お父様にも見られたことないですのに。」
倒れた櫓を心配してネオンが駆け寄って助け起こしたり、シルヴィーが涙目になりながら恥ずかしがったりしている。
「・・・早くご飯食べる・・・。」
辺りをキョロキョロと見回してから空気を読まずにこの状況を作りだした元凶が言った。
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