71話 心配性なお姉さん
櫓商会を開店した翌日、旅立つメンバーは家族や知り合いに連絡を入れに行っている。
櫓とネオンは家族の様な存在の奴隷の皆や傭兵団と話をしてから、ロジックに滞在している間に知り合った人達に挨拶まわりをする。
奴隷の皆や傭兵団は、子供も大人も等しく皆、櫓とネオンとの別れを悲しみ、嬉しいながらも中々解放されず大変だった。
「ここでやっと最後か。」
「一番お世話になったかもしれませんね。」
「世話も一番してやった気もするけどな。」
ネオンは苦笑している。
櫓達が最後に訪れた場所は冒険者ギルドである。
この街で一番親しいと言ってもいい友人がいる場所でもある。
二人で中に入り、依頼の受付をするカウンターに向かう。
「暇そうだな。」
「アリーネさんこんにちは。」
呼ばれた本人は資料を読んでいたため声をかけられてようやく櫓達に気づいた。
「こんな仕事熱心な受付嬢によく暇そうなんて言えるわね。」
「どうせ仕事とは関係ない個人的な金儲けとかだろ?」
「人を金の亡者みたいに、失礼しちゃうわね。」
そんな事を言いながらも見ていた資料を櫓達の見えない所に仕舞うアリーネ。
「こほん、それで何の用事?依頼でも受けるの?」
二人でジト目で見ていると、わざとらしく咳払いをして話題を変えてくる。
「いや、急だが今日の午後から旅立つことになってな、一応報告だ。」
「アリーネさん、今までお世話になりました。」
「そっか、ついに来ちゃったんだね。」
元々櫓達は様々な場所を旅する予定だという話はしていた。
アリーネは寂しそうにしながらも微笑んでいる。
「寂しいか?」
「そりゃあね、せっかく仲良くなれたんだもん。」
「受付嬢をしているんだ、冒険者と仲良くなる事なんて多いだろ?」
「ちょっと他の人達とは違うかな。私にとって二人は友達って言うより弟と妹って感じなんだよね〜。とっても強くて無茶ばかりしちゃう、そんなやんちゃなね。」
「弟にたかってばかりの姉というのは遠慮したいな。」
「ほんと、可愛くないな〜。」
「わ、私はアリーネさんみたいなお姉ちゃんが欲しかったですよ!」
「ネオンちゃん良い子良い子、離れ離れになるのやだな〜。」
アリーネはカウンター越しにネオンに抱きつきながら頭を撫でている。
ネオンはされるがままだが嬉しそうだ。
「大袈裟だな、別に今生の別れと言う訳でもないんだぞ。」
「それはそうだけど、それでも毎日のように二人とは会ってたんだから、仕方ないでしょ?」
ふたりは毎日の様に冒険者ギルドで依頼を受け、その度にアリーネの場所で受付をしてもらっていたので、会わない日はなかった。
「また帰ってくる、それよりも商会を開いたから贔屓にしてやってくれ。」
「知ってるよ、寂しいけど皆と帰りを待ってるから。」
「ああ、行ってくる。」
「行ってきます。」
「二人とも気を付けてね〜、絶対帰ってくるんだよ〜。」
冒険者と言うのは死と隣り合わせの職業だ。
受付嬢をしていると、朝元気に依頼に出発して行った冒険者が、二度と帰ってこない事等よくある。
ローガン山脈の依頼の時も、たった数日だったのにアリーネは心配で仕方なかった。
櫓達が強いのは知っているが、それでも心配になってしまうのは仕方ない。
「「行ってきますお姉ちゃん!」」
二人はアリーネが心配しているのを分かっていたので安心させてやろうと、櫓は恥ずかしがりながら、ネオンは笑顔で手を振りながら言った。
「ふふっ、行ってらっしゃい二人とも!」
その言葉を聞いて、ずっと心配そうな顔をしていたアリーネも笑顔になったので、それを確認して櫓とネオンは冒険者ギルドを後にした。
寄る場所はもう無いので、待ち合わせ場所であるロジックの北門に向かう。
「俺達が最後か。」
「皆さんお待たせしました。」
既に北門ではシルヴィー、クロード、フレア、サリーの四人が櫓達を待っていた。
「全員揃いましたわね。」
「さて出発するか。クロード、本当にお前たちは馬車に乗らなくても良いのか?」
「心配無用です、これも訓練の一環ですから。」
傭兵団三人には事前に確認を取ったが、走って付いてくるという。
本当に大丈夫かと、事前に馬と走らせたりもしてみたが、魔装を使いこなし同じくらいの速度で走れており、一時間程その状態を維持しても汗一つかいていなかった。
「なら構わず俺達は馬車で行くか。」
「その肝心の馬車はどこですの?馬は指示通り屋敷から二頭連れてきましたけれど。」
事前に馬車を引く馬をシルヴィーに頼んでいた。
フレンディア家で育てられた馬は、そこら辺の馬とは違い、魔物に対峙した時に御者の指示を無視して戸惑い暴れたりといったこともなく、底ランクの魔物であれば逆に踏み付け潰すくらいの逞しさらしい。
「別に忘れてるわけじゃ無いぞ、ほら。」
櫓がボックスリングから馬車を取り出す。
「まさか馬車まで入るとは思いませんでしたわ。」
本来空間魔法が付与された魔法道具などはかなり貴重であり、物なども沢山入る様にするとなると、相当な金がかかる。
しかし櫓のボックスリングはカタリナから渡された神様使用なので、世界一の収納道具と言える。
「そう言えば御者について考えてなかった。」
取り出した馬車と馬を繋いでる途中で気づいた。
「私がやりますよ、櫓様とシルヴィー様は馬車でゆっくりしてください。」
「ネオンさん、今の私は貴族の令嬢シルヴィー・フレンディアではなく、お二人の仲間で共に旅をする冒険者シルヴィーなのです。私も御者は出来ますから、分担いたしましょう?」
「良いんですかシルヴィー様?ありがとうございます。」
「仲間は助け合うものですわ。」
一人馬を扱えない櫓は肩身の狭い思いをしていた。
するとそれを見越してかどうか分からないが、櫓の左腕に付けられている、ミズナから貰った腕輪が光り、実体を持ったミズナが現れる。
「ご主人、私が御者やる・・・。」
「ミズナ、御者なんて出来たのか?」
「それくらい余裕・・・。馬も好き・・・。私に任せて三人は馬車で寝てる・・・。」
ミズナは近くにいる馬を撫でている。
撫でられた馬もミズナのひんやりとした手が気持ちいいのか、身体を預けている様な感じだ。
「なら悪いけど任せて良いか?」
「問題ない・・・。戦闘以外でも役に立つ事をご主人と仲間にアピール、ぶい・・・。」
手でピースしながら御者台に登っていくミズナ。
「と言う事で御者はやってくれるってよ。」
「ミズナさんありがとうございます。」
「交代したい時はいつでも仰ってくださいませ。」
「馬との触れ合い、邪魔はさせない・・・。」
過去に何があったか知らないがミズナは相当馬が好きな様であった。
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