25話 美味しい食事は義務ですよ
アリーネから指名依頼を受けた櫓達は、ギルドから馬を借りて昼一でローガン山脈を目指して馬を走らせていた。
ネオンが馬を操り櫓は後ろに座っている。
「ネオンが馬を操れてよかったぜ、御者雇わなくて済んだからな。」
「村に居た頃は馬の世話をよくしていたのでお役に立てて良かったです!」
「俺は操るどころか世話もできないからな〜。」
「櫓様はご自分で走られた方が馬よりも早そうですものね。」
ネオンが微笑しつつ言った。
事実ネオンが言った通り、女神によって弄られて身体や身体能力のスペックが常人よりも高い櫓は、多少は疲れるのでやらないが馬と並走するくらいは可能である。
「馬がいるのにわざわざ自分で走ったりはしないけどな、疲れるし。」
「もちろん櫓様にそんなことはさせません。目的地に着くまでのんびりしててください。」
「のんびりって言っても馬に乗ってるだけだと景色眺めるくらいしかすることがないのが辛いところだ。」
「馬車ではないのでその分少しは早く着くと思いますけど、それでも結構時間がかかりますからね。」
ローガン山脈までは片道半日かかる。
なので少しでも早く出発しようと櫓が依頼を受けてすぐ出たわけだが、それでも着くのは夜になってしまう。
それでも馬単機のため数時間は早く着けるはずであった。
「着いたらすぐ調査を行いますか?」
「いや、少し手前で野営してから翌日に調査するとしよう。夜は視界も悪く危険度が増すからな。」
「わかりました。たしかローガン山脈の少し手前に川が流れていたはずです、そこで野営するのはどうですか?」
「いいね、最近肉料理ばかりだったから久々に晩飯は魚にするか。」
「楽しみです!」
二人で会話を楽しみつつ馬をひたすら走らせる。
途中で馬を休ませるため休憩を挟んだり、魔物が数匹行く手にいたのでさくさく倒したりしつつ夕方には野営目的地の川に到着する。
「なんとか日が落ちる前に着けましたね。」
「だが夜までそんな時間もない、早速魚を取るか。」
二人で川に近づいていく。
櫓は右手を川に入れ雷帝のスキルで手に軽く雷を纏わせる。
川に電気が流れ魚がぷかぷかと浮かび上がってくる。
流れは緩やかなのでネオンが川の所々から出ている石を軽々と行き交い魚を捕まえていく。
その間に櫓がボックスリングから薪を取り出し、近くから着火材用の落ち葉などを集め、雷の熱を利用して火を起こす。
ネオンが持ってきた魚を塩で味付けして焼く。
このあたりで取れる動植物の本で食べれるかどうかは把握してあるので、問題はない。
「今日は一日御者やって疲れたろ?沢山食って明日に備えろよ。」
「大丈夫ですよ、私も馬の上にずっと座っていただけみたいなものですから。」
「それならいいけど、てか久々の魚うめえな。」
「高い調味料を贅沢に使っていますからね。櫓様の食のこだわりはすごいです。」
「食に妥協するつもりはないからな。毎日三食うまいもんを食うのを義務とする。」
「嬉しい義務ですね。」
魚を食べ終えて明日に備えて早めに寝ることにする。
交代で見張りをして朝を迎えボックスリングから取り出した、店で買った柔らかくて美味しい白パンとミルクで朝食をとる。
櫓のアイテムボックスは入っている物の時間の経過がないため、美味しい食べ物に出会ったら多めに買ってアイテムボックスの中に入れていた。
普通長期依頼や護衛依頼などの日帰りできない時は、携帯食料である干し肉や固いパンなどになってしまうが櫓達はいつでも出来立ての食事を取ることができていた。
朝食を済ませたらローガン山脈へと馬を走らせる。
「そろそろ目的地の岩場が見えてきそうですね。」
「もうそんなところまで来たか、なら一旦馬を止めてくれ。」
「わかりました。」
馬を降り櫓は神眼で遠見の魔眼を発動させる。
ちなみにここ二週間の間に櫓の神眼のスキルについては度々使う機会があったためネオンも知っている。
これから行く岩場はそこそこ広いため先にある程度見て情報を集め、行く場所の目安を決めようとしたためである。
そして櫓の眼には目安となるには充分な情報が最悪な形として入ってきた。
櫓がいる位置から見える範囲で、ある一箇所に鎧や衣服、剣、槍、杖などの明らかに冒険者の装備と思われる物が見える。
そしてその装備を身につけている者達は全身の水分を抜かれたかのように干からびていた。
(俺が見ている者達がここら二週間の間にローガン山脈に来た奴らなら明らかに異常な光景だ。たった二週間で人間がここまで干からびるのはありえない。と言うことは今回の件は魔物だな。)
櫓の顔つきがかわり真剣に岩場を見ている様子から何か見つけたのかと思いつつも櫓が話すまで待っているネオン。
しかしその表情からいい発見ではなさそうだというのは何となく感じていた。
「依頼にあった冒険者達かは分からないがそれらしき者達は見つけた。全員手遅れだがな。」
「そうですか・・・。」
「それと全員見た目が干からびているような状態だ。おそらく魔物の仕業だな。見た感じ一パーティしか見えないがあの周辺に隠れて見えないだけかもしれない、取り敢えずあの場に向かうぞ。」
「了解です。」
ここ二週間で強くなっている自覚はあっても人の死を前にしたこと、そして櫓から戦闘で油断した時の危険を抑え込まれているネオンは、気持ちを切り替え気を引き締める。
馬をローガン山脈の麓に置いて岩場へと向かう。
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