65話 ファミリー
あの後傭兵団が衛兵を呼んできて、ユーハに雇われていた冒険者と騎士は尋問のために全員連れて行かれた。
主犯であるユーハも連行されそうになり、貴族の権力を行使して助かろうとしたが、シルヴィーが一言発するだけで問答無用で連れて行かれた。
屋敷の中にいた非戦闘員の使用人達は、直接悪事に加担してはいなかったので、フレンディア公爵家で預かる事になった。
「やれやれ、やっと終わったか。」
櫓は欠伸をしながら愚痴を言う。
あの後、連れてこられた衛兵に事件の当事者という事で、長いこと拘束されて事情聴取を受けていた。
「貴族が関わる事件は大事ですから仕方ありませんわ。」
「日跨いでからにしてくれればいいのによ。」
「領主であるお父様に報告を急ぎたかったのでしょう。それに領主の娘から取り調べは手短にとお願いしたからこんなに早く解放されましたのよ?」
シルヴィーが頼んでいなかったら、日が跨いでも拘束されて話を聞かされていた。
それを分かっていても一時間も事情聴取されれば、嫌気が差してくると言うものだ。
拠点の前ではネオンや大人の奴隷達が櫓達の帰りをずっと待っていた様で、皆でマヤの無事を喜んだ。
その日からはたまにユーハの一件について衛兵が訪ねてくることもあったが、平穏な日常に戻った。
櫓、ネオン、シルヴィーの三人で依頼をこなして、その報酬で拠点の設備を整えたり、旅に使う馬車の改造を行ったりした。
馬車の方は完成し、いつでも旅立てる様になったので、商会がある程度軌道に乗ったらと言う話になっていた。
奴隷達の方も設備を良い物にしたのもあり、ポーションや日用品の魔法道具などを高品質で作ることができていた。
ある程度纏ったら事業を始めようと皆で決めていた。
「はい、これ依頼の報酬ね、お疲れ様〜。」
今日も三人は依頼をこなして、アリーネから報酬を受け取っていた。
「櫓様、私は素材の買取もしてもらって来ますね。」
ネオンは別の素材買い取り口の方へ、受付嬢に魔物の素材を渡しに行った。
「中々美味しい依頼がないですわね。」
「ハハハ、ソウデスネー。」
シルヴィーの言葉に、お前ら三人がいつも依頼を直ぐこなしてしまうからだろうと心の中で思いつつも我慢する。
「この辺には強い魔物もあんまいないしな。」
「ネオンさんも手こずる相手がいなくなってきた様ですしね。」
ロジックの周辺で湧く魔物は、最も強くてBランク程度だ。
Aランクの魔物などはロジックの周辺で確認されたことはない。
なのでAランク帯の実力者である櫓やシルヴィー、そしてその二人に訓練を付けられているネオンには、Bランクと言う一般冒険者には驚異と思われる魔物も、物足りなく感じてしまう。
「元々この周辺は強い魔物じゃなくて、低ランクの魔物が沢山湧くみたいな感じだからね。」
ロジックの周辺の魔物は質より量であった。
ランクの低い魔物が集団で襲ってくることが多く、高ランクの冒険者であっても、弱い魔物に囲まれてしまえば、充分な脅威になる。
しかし三人は個との戦いだけでなく、複数が相手の高いでも、あまり脅威には感じていない。
各々雷、風、炎とスキルや魔法で殲滅型の技を持っているので、個でも複数でも関係ないのだ。
「金稼ぎならやっぱ商売のが良いか?」
「そうですわね、安定して売れるのであればですけれど。」
「そう言えば商売始めるんだっけ?て言うか櫓君、まだファミリーの申請してないでしょ?」
「ファミリーの申請?なんだそれ?」
「まだしてなかったんですの?」
アリーネとシルヴィーに呆れた視線を向けられる。
二人に説明されて思い出したが、冒険者ギルドでは四名以上からはパーティー申請が、十人以上からはファミリー申請が義務付けられていた。
ファミリーは幾つかのパーティーが集まって一つになったり、パーティーをトップにそれをサポートする商会などが下に着いたりする団体の名称である。
人数が多くなるとトラブルなども増える事になるので、冒険者ギルドではファミリーの申請を義務付け、そのトップに下の者達の管理を徹底させ、問題が起きたときにはトップに責任を追及するなどの処置を取っている。
櫓達は既に四十人を超える大所帯なので、ファミリー申請の対象である。
「すっかり忘れてたぜそんなの。」
「まったくもう、なら今申請していきなさい。はいファミリー申請の用紙。」
「シルヴィー書いてくれ。」
「ファミリーの名前何にしますの?」
突然聞かれてもパッといい案が思い浮かばない。
元々ファミリーの名前を決めるために冒険者ギルドに来たわけではない。
「お待たせしました、って何を悩んでるんですか?」
「ファミリーの名前についてですわ。私達も大所帯になりましたので申請しなくてはならないのです。」
「ネオン何かいい案はあるか?」
「勿論です!」
櫓に聞かれて自信満々に答えるネオン。
「櫓様の名前をファミリーの名前にするのですよ!」
ネオンが何を悩む必要があるのかと、櫓の名前がファミリーの名前になることが当然であるかの様に言い出した。
「やだよ、何で俺の名前なんだよ。」
「シルヴィー様には失礼ですが櫓様がこの団体の中で一番偉いと思っているからです!」
「あら、いいではないですか?私もネオンさんの意見に賛成ですわ。色々と有名になってきた櫓さんの配下だと分かりやすく伝わりますから、変な事を考えて手出ししてくる方も減るかもしれませんわよ?」
「確かにそれはあるかもね。シルヴィー様とパーティー組んでいるのと、この前の伯爵家騒動とでだいぶ名前が売れてきたもんね櫓君。」
その二つの事以外でも、ランクアップ試験でいきなりBランクになった件や魔人討伐の件、冒険者ギルドで騎士であるユーハを倒した件など期待の新人としてかなり名前が荒れていた。
「うーん、自分の名前が付くなんて恥ずいんだけどな〜。」
「それだけで危険が少なくなるなら儲け物ですわよ?」
そのせいでちょっかいをかけてくる者もいるかもしれないとアリーネは思ったが、櫓の名前を使えば明らかに減る方が多いだろうと思い口にはしなかった。
「分かったよ、じゃあそれで提出してくれ。」
シルヴィーは申請用紙に櫓と書いてアリーネに渡し、それが受理されたので、これで櫓ファミリーの誕生である。
ついでにパーティー名も話し合って決め、雷の剣と言う厨二全開の名前になった。
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