63話 悪は滅びる
団長を殺すつもりがなかった櫓は、剣に纏わせる雷を本気の時の半分程度にして技を放った。
それでも目で追うことは、技を放った本人ですらギリギリ見えるかと言った程度である。
そして速さも勿論凄まじいが、威力も相当である。
それでも櫓の天召・三雷を食らって耐えたシルヴィーと同程度の実力者なら、ギリギリ生きてるだろうと考えていた。
「やれやれ、Aランク帯の実力ってのは中々厄介だな。」
櫓が放った技を受けて後ろに吹き飛ばされたが、団長はしっかりと立っていた。
しかし無傷とはいかず両手が傷だらけで使い物にならない様な状態だ。
「咄嗟に判断して防いだつもりだったんですけれど、これでは武器も握れませんか。」
櫓には団長の動きが見えていた。
櫓が放った技を避けるのは無理だろうと判断して、両手に持った短剣をクロスして重ね合わせて、櫓の刀の先端を短剣の腹で受け止めたのだ。
短剣はある程度威力を殺したが耐えきれずバラバラに砕け散ってしまい、雷の余波が団長の手に傷を残したが、身体へのダメージはほぼない。
「どうする?その傷でまだやるか?」
「・・・たとえ腕が無くとも戦うことは出来ます。」
団長の殺気が一気に膨れ上がる。
まだやる気なら付き合ってやると櫓も刀を構えるが、その途端に団長の殺気がみるみる無くなっていく。
「戦うことは出来ますが勝ち目はない様ですね、それに。」
団長が視線を櫓からシルヴィー達に移す。
既にシルヴィーと相対して立っているのは二人のみで、その二人もふらついており、いつ倒れてもおかしくない。
「降参ってことでいいのか?」
「はい、あなたはあの子を迎えに行ってあげてください。連れ去ってしまい申し訳ありませんでした。」
「降参したならなんでマヤを連れ去ったか理由を聞いてもいいか?」
「それは・・・。」
「おい貴様、何を勝手に諦めている!」
団長が話し始めようとした時、屋敷の方から怒鳴り声が聞こえた。
戦いを止め全員がそちらの方を見ると、五人の人物が立っていた。
怒鳴り声を発したのはユーハ・アーノルド。
そしてその傍に護衛と思わしき者が二人と、護衛の剣を首に突きつけられて、身動きが取れない少女が二人いた。
片方は分からないが、もう片方はマヤだ。
団長との戦いに集中している間に、地下から連れ出されてしまった様だ。
「この女がどうなっても良いのか?早くその者達を殺せ!」
「・・・私は敗北した。もう戦うつもりはない。」
「この女が死ぬぞ?」
「サリー・・・助けられなくてすまない。君と絆を誓った我々も必ず後を追うから許してほしい。」
団長は助けられないのを悔やみながら呟いた。
櫓は今の状況を見て、人質を取られて言う事を聞かされていたのだと判断した。
団長の実力は櫓から見ても相当高く、ユーハの近くにいる護衛よりも強いと思ったが、あんなに至近距離で剣を首に突きつけられていては、助けたくても助けられなかったのだろう。
しかし団長には出来なくとも櫓にはそれができる。
常人が剣を少し動かす間に、目にも留まらぬ速さで移動する技を持っている。
「ふんっ!ならまずはその女は殺せ。」
ユーハの命令を受けて護衛が剣を動かそうとした。
しかし櫓はその命令が下る前に既に、両足に雷を纏わせ移動する。
その移動はまるで世界が止まっている様に速い。
護衛に近づき剣を弾き飛ばして首から遠ざけ、両方の護衛の腹を一発ずつ閃拳で殴りつける。
その結果護衛二人はユーハの命令を聞き剣を動かそうとしたが、握っていた剣が無くなっており、腹部に物凄い痛みが走り、訳も分からず倒れて気絶する。
「なっ、何が起きた!?」
ユーハ自身も命令をした瞬間に護衛が二人とも倒れてしまい動揺している。
「神速歩法・電光石火!」
今回の移動方法はいつもと少し違っていた。
櫓がこの世界に来てから開発した技であり、いつも雷を足に纏わせて移動するよりもさらに速く移動でき、周りから見たらまるで転移したかの様に見えるほどである。
その分魔力をかなり多く消費してしまうと言うデメリットもあるが、こう言う技も持っておいて損はないだろうと練習していた。
「き、貴様!」
「人質を取って良い気になっていた見たいだが形勢逆転だな?」
助けた二人を背に隠して、ユーハと対峙する。
護衛も失い、櫓達の身動きを封じるための人質も失い、ユーハは自分を守るものが何も無くなってしまった。
「平民に、貴族であるこの私が、侮辱されたままで良いはずがあるかあああああぁ!!!」
ユーハが一人になってしまった自身を鼓舞する様に叫び、自分の腰から剣を抜き放つ。
「なんだ?またやられたいのか?」
「黙れええええええぇ、死ねえええぇ平民がああああ!!!」
ユーハは剣を構えて櫓に斬りかかってくる。
前に見た騎士団の装備の剣よりは、良い装備に見えるが、櫓にとって大した違いはない。
「学ばない奴だ。」
櫓は後ろに二人がいるので、万が一を考えて今回は引き付けて躱したりはせず前に出る。
ユーハの攻撃を掻い潜り前と同じく腹に掌底を叩き込む。
「吹底!」
前回と違い本気の魔装をした掌底を叩き込むと、ドォンと言う重い音を残してユーハが屋敷の壁に突っ込み、派手な音を上げながら壁が崩れた。
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