62話 最強の傭兵団
屋敷の中から武装した集団が姿を見せる。
櫓と違って透視の魔眼を持っていないシルヴィーは、屋敷から出てきたその集団を観ると少し困った表情になる。
「この方々まで雇っていましたか。」
「なんだ知ってるのか?」
「ええ、この辺りではかなり有名ですわよ。絆誓と言う名前の傭兵団なのですけど、善良な傭兵団、最強の傭兵団などとも呼ばれていますわね。」
「善良で最強の傭兵団か、俺たちでも苦戦しそうか?」
「何度か共に戦ったことがありますけど、かなり強いですね。しかし最強と言っても傭兵団の中での話ですわ。個人個人の技量は高いですけど、冒険者のAランクほどではありませんし。ただ全員を相手取るとなると危ないかもしれませんわね。」
「それでも逃げる選択肢はないがな。」
二人が話している間に十人の絆誓のメンバーが櫓達の前まで来て武器を構えている。
「まさかシルヴィー様がそちら側にいるとは、いよいよこの街では生きていけないようですね。」
短剣を構えた男が残念そうに呟く。
「今降伏してくだされば悪いようにはしないですよ団長さん?」
「申し出はありがたいですが、こちらにも事情があるのです。」
「私を相手にするほどの事情ですか?」
「ええ、ロジックを治めるフレンディア公爵家に喧嘩を売るほどの。そして子供を誘拐し、その主人に喧嘩を売るほどの事情です。この街での暮らしは気に入っていたのですけれどね。」
「理由をお伺いしても?」
シルヴィーの問いかけに対しての団長の答えは左右に首を振ることだった。
「申し訳ありません。私達にも時間がありませんのでお喋りはこの辺りで。お二人に恨みはありませんが全力でやらせていただきます。」
櫓は傭兵団と知り合いのシルヴィーに任せて黙って話を聞いていたが説得は失敗したようだ。
そしてマヤを拐った連中と聞いてしまっては怒りも湧いてくる。
傭兵団の面々はこちらが構えるのを律儀に待っているようで、まだ攻撃してこない。
「申し訳ありません、戦うことは避けられない様ですわ。そして櫓さんの怒りは最もですが殺すのだけは許して頂けませんか?何か理由があるようですので。」
「まあ別に殺そうとまでは思ってないから安心しろ。だが少し痛い目にはあってもらうぞ?」
「ええ、それで構いませんわ。」
話終えると櫓は刀をシルヴィーは槍を構える。
相手は既に武器を構えて戦う準備が出来ているので、殺さない程度に本気でいくことにする。
四人がこちらに踏み込んできて、櫓とシルヴィーに二人ずつ攻撃を仕掛けてくる。
この屋敷に着いたときにも門番が二人で攻撃を仕掛けてきたが、練度がまるで違う。
それを刀と槍で受けて防いでから反撃に転じる。
「天剣五式・皐月!」
「槍連弾!」
櫓は高速の居合いを繰り出し、シルヴィーも櫓の居合いと同じくらい速い突きを連続で放っている。
普通の相手ならこれで決着が付いていた。
しかし四人は攻撃を受けたものの、自分の獲物でダメージを減らしていたので後退したがしっかりと立っている。
そして攻撃後の隙を付き待機していた四人が攻めてくる。
「ちっ、連携で何度も来られたら面倒だ。」
櫓は雷帝のスキルで足に雷を纏わせ、向かってきている四人の近くに目にも止まらぬ速さで移動する。
「放電!」
櫓の身体を中心に全方位に雷が放たれる。
櫓に反応出来た者もいたが、雷を防ぐことは出来ず四人とも地面に倒れている。
「流石の強さだな。」
櫓のすぐ後ろで声が聞こえ急いで振り向いた時には、短剣が眼前に迫っていた。
回避は雷帝のスキルを使ったとしても間に合わないと判断して、神眼のスキルでシルヴィーが持っていた障壁の魔眼を使用する。
この魔眼の利点は使用して直ぐに自分が思う通りの場所に一瞬で障壁を展開できることである。
再使用には時間がかかるが、回避行動が間に合わない時でも一瞬で張り攻撃を防げるので重宝していた。
短剣は障壁に阻まれて止まっている。
櫓はバックステップで団長と距離を開ける。
「随分と速いな、声をかけられるまで気付かなかったぞ。」
「そちらこそ、まさかあの状況で防がれるとは。」
櫓は放電を放つまで他の六人の位置もしっかり確認していた。
団長は四人よりも後ろの位置にいて、櫓にとっては前にいたのだ。
それなのに攻撃中少し目を離した隙に後ろをとられていた。
「さあ続きをしようか。他の者達では君の相手は少し荷が重いようだ。」
シルヴィーの方を見ると残りの五人に囲まれている。
それでも互角に戦えている様なので、流石の実力である。
しかし一撃で倒せるほど甘い相手ではないので、こちらの戦いを終わらせて加勢に行きたいところだ。
まずは団長との戦いに集中することにする。
「あんたは強そうだから本気でも大丈夫そうだな。」
「まだ上があるか・・・。シルヴィー様より強いとなると、私でもきついか。」
「つまりシルヴィーと同程度の強さはあるって事か。」
櫓の持つ刀が雷を纏っていく。
シルヴィーが槍で突きを放つ様に、刀を引き戻し刺突の構えをとる。
「天剣十式・神無月!」
天剣四式の技、卯月の上位互換の技である。
バチっと電気が走った様な音を鳴らし、神速の突きが繰り出される。
直後刀の切っ先が何かに当たり、ズドォオオンと派手な爆発音が鳴り響いた。
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