60話 殴り込み
「な!?」
「こ、これは一体。」
「・・・取り敢えず治療が先だ。」
櫓はボックスリングから暇な時に作り溜めしておいた上級ポーションを幾つか取り出して倒れている奴隷達に降りかける。
ポーションが効き傷口が塞がっていき、苦悶の表情を浮かべていたのが、少し和らいだ。
泣いていた子供達も倒れている大人達の傷口が塞がっていくのを見て、少し落ち着いた様だ。
「取り敢えず間に合ったか。」
「一体何があったの?」
ネオンが落ち着かせる様に優しく問いかけると、少しずつではあるが櫓達がいなかった時のことを聞くことができた。
櫓達がコロシアムに向かって数時間ほどした時に、いつものように皆で商店に出せる売り物を造る練習をしていると、拠点の中に剣を装備した男が突然入ってきた。
何か用かと留守を櫓に任せられたサリアが問いかけると、いきなりちかくの女の子を抱え剣を抜き、子供を一人預からせてもらうと言ってきた。
あまりに突然で動揺したが、子供が連れ去られてしまうと思い、大人の奴隷達で木の棒などを持って取り返そうと攻撃した。
戦いの素人が木の棒で勝てるわけもなく皆斬られてしまった。
誘拐した男は怯えている子供達に簡単に書かれた地図の様な物を渡して、取り返したければここに来いと伝えろと言っていなくなってしまったらしい。
子供達に話を聞いてると倒れていたサリアが一番に目を覚まし、状況を理解して床に頭を押し付けながら謝罪してくる。
「申し訳ありません櫓様、留守を任されておきながらこんな醜態を。」
「サリアのせいじゃない、防衛対策を何もしてなかった俺の責任だ。」
「そんな、櫓様のせいでは・・・くっ。」
熱くなって話しすぎたのかサリアはふらついている。
「安静にしてろ、ポーションを使って傷口は塞がっているが血までは戻らないからな。ネオン、シルヴィーこいつらを布団に運ぶから手を貸してくれ。」
「待ってください、マヤが連れ去られたのに寝ていることなんてできません。」
「今は休むのが仕事だ、大人しくしてろ。そんなこと心配しなくても俺が必ず連れて帰る。」
出会ってから初めて、こんなに怒っている櫓を見てサリアは黙るしかなくなる。
布団に皆を運び終えて、子供達に看病しといてくれと言い三人で外に出る。
「ふぅ、ふざけたことをしてくれる。」
「全くです、許せません。」
「地図を見させてもらいましたが、厄介なことをしてくれましたわね。」
「知り合いか?」
「ええ、お二人も知っている人物ですけれど。この地図の場所に建っている貴族の家は一つ、アーノルド伯爵家ですわ。冒険者ギルドでネオンさんに斬りかかった男ですわね。」
「あいつか。」
ネオンのことを道具の様に扱い、殺そうとした男である。
櫓は思い出しただけで苛ついていた。
「最初は自宅謹慎と言う形を取らせていましたが、お父様が事を重く見て騎士団から強制脱退させましたの。それの逆恨みという事も考えられますわね。」
「まあ相手が誰かなんてどうでもいい事だ。今からそこに殴り込みをかける。」
「私も付いていきますわ。私の意向に沿う行動ではありませんでしたが、責任はありますから。」
「わかった。ネオン、お前は悪いが留守番だ。またここが襲われないとも限らないからな、何かあったら頼むぞ。」
「お任せください、お二人が戻られるまで皆は私が護ります。」
「悪いな、じゃあ早速行くぞシルヴィー。」
「了解ですわ。」
拠点の防衛をネオンに託し、地図で示された場所に向けて全速力で移動する二人。
子供を連れ去り人質にし、場所を指定してまで櫓に思うところがあるようだ。
何が仕掛けられていようと、罪の無い子供を連れ去った時点で地獄を見せてやると櫓の中では決まっていた。
かなり拠点から離れていたのだが、二人は数分足らずでアーノルド伯爵家の屋敷の前まで来ていた。
「これからどう行動しますの?」
「もちろん正面突破だ。誰に喧嘩売ったのか思い知らせてやる。」
相当キレている様なので、シルヴィーも特に口を挟まず後をついていく。
屋敷の前には当然門番が居て、殺気を放ちながら向かってくる二人組に対して黙っているわけもない。
「そこで止まれ。」
「今日は面会の予定は入ってないが何の用だ?」
門番の二人は槍を構えて警戒している。
シルヴィーも槍を取り出そうと思ったが、櫓が構わず門に向かって歩くのでその後ろに続く。
「聞こえなかったか、そこで止まれ。」
「これ以上は不法侵入とみなし・・・、ってこいつらユーハ様が言ってたやつじゃないか?」
「ん?そう言えば今日屋敷に乗り込んでくるかもしれないとか言ってたか。」
門番はいつでも攻撃できる態勢を整えているが、それでも櫓は気にせず無視して近づいていく。
「面倒だが、やるか。」
門番は息があった同時攻撃で槍を櫓に突き刺そうと踏み込んで攻撃してくる。
それを屈んで交わし、目にも止まらぬ速さで拳を二人の腹に叩き込む。
「閃拳!」
櫓の拳で身体をくの字にした門番二人は、意識を刈り取られ槍を取りこぼし前のめりで地面に崩れ落ちた。
そして守るものが居なくなった門の前に立ち、右手をを開き構える。
「吹底!」
門に掌底が当たると固定されていた部分が壊れ、門が勢いよく吹き飛んでいき、屋敷の玄関であろう扉に派手な音をまき散らしながら当たりぶち壊す。
「派手ですわね。」
「これくらいで俺の怒りは治まらない。」
扉が破壊された音を聞き、色々な場所から武装した者達が姿を表してきた。
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